【意味が分かると怖い百合】ハズレ異世界人は美味しいパンが食べたい

第四章

【許すということを 03】

「リリーちゃんとロッゲンくん、仲直り出来て良かったですね！」
　若子は恋唯と一緒に部屋へと戻ると、うきうきしながら話し出した。
「何かいいですよね、ああいうの！」
「そうですね……」
　自分のベッドに腰掛けた恋唯が、若子と目を合せようとしない。どこか落ち込んでいるような様子に、若子は驚いて近寄った。
「あ、えっと。恋唯さんは、許せませんか？　ロッゲンくんのしたこと……」
「いえ、私がやられたわけではありませんし……許すかどうか、決めるのはリリーさんなので……」
　そう言いながらも、恋唯は沈み込んでいるように感じる。若子はおろおろと戸惑って、隣に腰を下ろした。
「ひ、一人ではしゃいじゃってごめんなさい」
「……どうして若子さんが謝るんですか？」
　ようやく恋唯は振り向いて、若子を見て笑った。
　目が合ったことに若子は安堵したが、その笑い方が妙に悲しくて、胸が締め付けられる。
「リリーさんは子どもなのに立派ですね。……私は、自分がされて嫌だったこと、一度謝られたくらいでは、とても許せそうにありません」
「誰かに嫌なこと……されたんですか？　い、いじめとか……？」
「いえ、学校ではなくて……私も若子さんと同じで、家族と上手くいってなかったんです」
「あっ、そう……なんですね。……あの、あたしの話聞いちゃったからって、気を遣わなくてもいいですから！　話すの辛かったら、無理して話さなくていいですからねっ」
「いえ、聞いてもらえますか」
　静かな決意が眼差しに宿る。若子はそれを見て唾を飲み込んだ。
「人に話したこと、あまりなくて……上手に話せないかもしれないのですが」
「いいですよ！　好きに喋っちゃって下さい！」
　全部受け止めますとばかりに若子が意気込むので、恋唯は思わずぷはっと息を吐き出した。
　少しだけ心が軽くなって、恋唯は昔のことを喋り出す。
「唯一の恋……」
「えっ」
「私の名前の由来、唯一の恋って意味なんです。両親は大恋愛の末に結ばれて……家族に結婚を反対されて、駆け落ち同然で家を出たと言っていました。でも、私が物心ついた頃にはもう、二人とも自分の選んだ道を後悔しているようでした。父は親に言われたとおりいい大学へ行って、いい会社に就職していれば良かったと零していたし、母は若いときに遊べなかったのは、お腹の中に私がいたからだって言ってました」
　恋唯は淡々と話し続けた。今まで溜め込んでいたものを、少しずつ吐き出すように。