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第三章
10. 3人組
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捜査課のディスクに姿勢よく座って青砥は窃盗事件の現場記録を読んでいた。神崎の時空マシーン事件は爆破された研究所からいくつかの爆弾の破片や時空マシーンと思われる破片なども押収され、事件としては締めの段階に入る。そのため青砥たちAチームはその事件からは退き、いつもの日常へと戻っていた。
「アオ、アーオっ」
「なんですか?」
「なんですかじゃないわよ。その事件、私の担当なんだけど。アオはN+暴走事件担当でしょ」
「え? あ、ほんとだ……」
ほんとだ、じゃないわよ全くと言いながら霧島が青砥の頭を叩くと丁度ロボットがお茶を運んできたところだった。
「スイブンリョウテイカ。オチャヲドウゾ」
「あら、丁度いいわね。お茶でも飲んでシャキッとしなさいよ」
霧島に言われお茶に手を伸ばすも青砥はそのお茶を口には運ばず机の上に置いた。
「んもうっ、なんなのよ、そのスッキリしない態度はっ」
「茜さん、神崎って相変わらずなんですか?」
「神崎? そうらしいわよ。重要なことはなーんにも話さないって」
「なんか変じゃないですか?」
「変……ですよね」
青砥と霧島の間に顔を出したのは如月だ。如月は独り言のように呟いた後、霧島と青砥の顔を交互に見た。
「彼の性格を考慮しても余裕があり過ぎなんですよ」
「小暮課長もみんな同じように感じているんですか?」
如月が霧島を見て頷く。
「不気味だって言ってますよ。まるでなんか企んでいるみたいってね」
如月が目を伏せた時だった。出勤してきた樹がディスクに座ると同時に「そういえば」と切り出した。
「リステアって何ですか?」
「ちょ、アンタそんなことも知らないの!?」
「すみません。昔、事故にあって記憶が曖昧な部分があって」
それなら仕方ないわね、と霧島が続けると「なぁに?」と言いながら山口が姿を現した。
「リステアって何って樹が聞くから」
「リステアねぇ。7年くらい前の話になるかしらね。リステアは一言で言えば反政府の過激派組織ね。彼らはN+能力の高い者、優秀な者こそが国を支配すべきだという思想を持っていたの。N+能力で階級分けした世界、当然N+能力のない者は当然最下層になる」
ですよね? と山口が確認の視線を如月に向ける。
「うん、そう。彼らはN+を持った人間がこの国支配するべきという考えを持っていました。N+は神から与えられた能力で、強い者に従うのは当然のこと。彼らはN+を持っていない人間は死んでも構わないと思っているかのようでした」
如月は目を伏せた後、ハッとした表情のまま固まった。そして次の瞬間、大きな声を上げた。
「思い出した! 研究所に偵察に行った時に見た3人組にリステアのメンバーがいた!! 課長っ、課長!!」
如月は叫ぶと、緊張した面持ちで課長を呼びに部屋を飛び出した。
会議室には小暮と田口、間壁、そしてAチーム全員が揃っている。控えめなノックの後に加賀美が入出したことで場の緊張感が更に高まった。如月は無駄のない動きでブレスレットを操作すると空中にリステアのメンバーの姿を表示させた。その中の2人を空中ペンで囲む。
「先日見たのはこの2人に間違いありません」
「え? でも先日見たのと顔が違いますけど」
「あぁ、間壁は知らんのか。如月のN+は変装や整形で姿かたちが違ってもその人が誰かを見分けることができる能力なんだ。そうか、あいつらが……」
田口が言葉を発しながらわしゃわしゃと頭を掻くと、小暮がひくっと鼻を動かした。
「そんな顔するなよ。昨日残業して捜査をしてたんでな、風呂に入り損ねたんだ」
「俺は何も言ってない」
「声に出してなくても顔がな、顔が」
今度はヒクリと頬を歪めた小暮に聞こえる様に間壁が言葉を発した。
「残業って言ってますけど、趣味みたいなものですからね。時空マシーンの設計図をアテにお酒を飲んでるのを見ましたけど」
「間壁っ、そう誤解を招く言い方をするな! ちょっと気になることがあって見てたんだよ」
田口と間壁のやり取りで一瞬いつもの空気になったが、加賀美の咳払いで場にはまた緊張感が戻った。
「相川悟に長田学ですか……。その二人は指名手配中でしたよね? 5年前の暴動でリーダーの山里夢を始め、幹部も多くが亡くなったこともあって壊滅したかに見えましたがここで現れるとは」
「神崎とリステアが繋がっているとなれば目的は当然武器だろうな」
小暮が言葉を続ける。
「神崎もあっち派だったか……。リステアはN+能力が戦闘向きな者が多い。奴らが武器を手に入れたとなれば当然5年前どころの騒ぎじゃないぞ」
「間壁君、公安のデータからリステアのメンバーで何人が捕まっていないか調べて貰えますか? その者たちが現リステアにいないとは考えづらい」
間壁がリストを表示している間、樹が言いづらそうに「あの」と声を上げた。
「5年前の事件について詳しく教えて貰えないでしょうか。その、俺、記憶が……」
「あぁ、そうよね」
「そうか、樹君は昔の記憶がないんだったわよね」
樹の言葉に頷いたのは、樹がこの世界の住人ではないことを知らない霧島と山口の二人だ。その視界の隅で小暮と加賀美が目を合わせ、加賀美が頷く。
「5年前とはいえ、当時警察にいなかった者もいますからね。何が起こったのかそれぞれの視点からではなく共通認識として知っておく必要があるでしょう」
「アオ、アーオっ」
「なんですか?」
「なんですかじゃないわよ。その事件、私の担当なんだけど。アオはN+暴走事件担当でしょ」
「え? あ、ほんとだ……」
ほんとだ、じゃないわよ全くと言いながら霧島が青砥の頭を叩くと丁度ロボットがお茶を運んできたところだった。
「スイブンリョウテイカ。オチャヲドウゾ」
「あら、丁度いいわね。お茶でも飲んでシャキッとしなさいよ」
霧島に言われお茶に手を伸ばすも青砥はそのお茶を口には運ばず机の上に置いた。
「んもうっ、なんなのよ、そのスッキリしない態度はっ」
「茜さん、神崎って相変わらずなんですか?」
「神崎? そうらしいわよ。重要なことはなーんにも話さないって」
「なんか変じゃないですか?」
「変……ですよね」
青砥と霧島の間に顔を出したのは如月だ。如月は独り言のように呟いた後、霧島と青砥の顔を交互に見た。
「彼の性格を考慮しても余裕があり過ぎなんですよ」
「小暮課長もみんな同じように感じているんですか?」
如月が霧島を見て頷く。
「不気味だって言ってますよ。まるでなんか企んでいるみたいってね」
如月が目を伏せた時だった。出勤してきた樹がディスクに座ると同時に「そういえば」と切り出した。
「リステアって何ですか?」
「ちょ、アンタそんなことも知らないの!?」
「すみません。昔、事故にあって記憶が曖昧な部分があって」
それなら仕方ないわね、と霧島が続けると「なぁに?」と言いながら山口が姿を現した。
「リステアって何って樹が聞くから」
「リステアねぇ。7年くらい前の話になるかしらね。リステアは一言で言えば反政府の過激派組織ね。彼らはN+能力の高い者、優秀な者こそが国を支配すべきだという思想を持っていたの。N+能力で階級分けした世界、当然N+能力のない者は当然最下層になる」
ですよね? と山口が確認の視線を如月に向ける。
「うん、そう。彼らはN+を持った人間がこの国支配するべきという考えを持っていました。N+は神から与えられた能力で、強い者に従うのは当然のこと。彼らはN+を持っていない人間は死んでも構わないと思っているかのようでした」
如月は目を伏せた後、ハッとした表情のまま固まった。そして次の瞬間、大きな声を上げた。
「思い出した! 研究所に偵察に行った時に見た3人組にリステアのメンバーがいた!! 課長っ、課長!!」
如月は叫ぶと、緊張した面持ちで課長を呼びに部屋を飛び出した。
会議室には小暮と田口、間壁、そしてAチーム全員が揃っている。控えめなノックの後に加賀美が入出したことで場の緊張感が更に高まった。如月は無駄のない動きでブレスレットを操作すると空中にリステアのメンバーの姿を表示させた。その中の2人を空中ペンで囲む。
「先日見たのはこの2人に間違いありません」
「え? でも先日見たのと顔が違いますけど」
「あぁ、間壁は知らんのか。如月のN+は変装や整形で姿かたちが違ってもその人が誰かを見分けることができる能力なんだ。そうか、あいつらが……」
田口が言葉を発しながらわしゃわしゃと頭を掻くと、小暮がひくっと鼻を動かした。
「そんな顔するなよ。昨日残業して捜査をしてたんでな、風呂に入り損ねたんだ」
「俺は何も言ってない」
「声に出してなくても顔がな、顔が」
今度はヒクリと頬を歪めた小暮に聞こえる様に間壁が言葉を発した。
「残業って言ってますけど、趣味みたいなものですからね。時空マシーンの設計図をアテにお酒を飲んでるのを見ましたけど」
「間壁っ、そう誤解を招く言い方をするな! ちょっと気になることがあって見てたんだよ」
田口と間壁のやり取りで一瞬いつもの空気になったが、加賀美の咳払いで場にはまた緊張感が戻った。
「相川悟に長田学ですか……。その二人は指名手配中でしたよね? 5年前の暴動でリーダーの山里夢を始め、幹部も多くが亡くなったこともあって壊滅したかに見えましたがここで現れるとは」
「神崎とリステアが繋がっているとなれば目的は当然武器だろうな」
小暮が言葉を続ける。
「神崎もあっち派だったか……。リステアはN+能力が戦闘向きな者が多い。奴らが武器を手に入れたとなれば当然5年前どころの騒ぎじゃないぞ」
「間壁君、公安のデータからリステアのメンバーで何人が捕まっていないか調べて貰えますか? その者たちが現リステアにいないとは考えづらい」
間壁がリストを表示している間、樹が言いづらそうに「あの」と声を上げた。
「5年前の事件について詳しく教えて貰えないでしょうか。その、俺、記憶が……」
「あぁ、そうよね」
「そうか、樹君は昔の記憶がないんだったわよね」
樹の言葉に頷いたのは、樹がこの世界の住人ではないことを知らない霧島と山口の二人だ。その視界の隅で小暮と加賀美が目を合わせ、加賀美が頷く。
「5年前とはいえ、当時警察にいなかった者もいますからね。何が起こったのかそれぞれの視点からではなく共通認識として知っておく必要があるでしょう」
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