【完結】君が好きで彼も好き

SAI

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9.告白と戸惑い

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 どうしよう、顔を上げられない。
ソファでセックスをしたはずなのにいつの間にか泉のベッドに移動していて、左耳に泉の心臓の音を感じる。

僕、どうしてしまったんだろう。昨日のセックスはいつもと全然違って、自分が自分ではなくなったみたいだった。あんな姿、泉に見せて……。泉はどう思っただろうか。

ん、と泉が身じろぎをして目を開けた気配がする。どんな顔をしたら良いのか分からずに寝たふりをすると、泉の手が僕の髪の毛に触れた。

うぅ、気まずい……。
寝たふりをしてしまったから、目を開けるタイミングを見失った。

ピチャ……

「ひっ」

塗れた音がダイレクトに耳で発生して思わず声を上げた。

「寝たふり」
「ばっ、バレた?」

「鼻がヒクヒクしてたし、バレない方がおかしい」

「うっ……」

泉が笑ってくれたことが嬉しくて、ほっとした。自然と泉の唇に目が行く。

キスはしないんだろうか。

「今日の予定は?」

「今日はいつも通り。勉強してからバイト」

「そっか」
「泉は?」
「ん、もう少ししたら出ないと」

「同伴?」
「うん」
「……」

微妙な沈黙。いつもなら目覚めてすぐにキスをしてお互いの準備に入るのに、今日はまだキスをしていない。やっぱり昨日の僕がダメだったんだろうか。あんなに乱れて感じて……。泉、キスをしたくないんじゃ……。

考えれば考えるほどドツボにハマる気がする。今までしていたものをしない。キスしないまま今日が始まったらドツボから抜け出せなくなるような気がして、僕は逃げた。

「泉」
「ん?」

チュッ。触れるだけのキス。これくらいなら許して欲しい。

「僕、もう部屋に戻るから」

部屋に戻ると皐月さんからメールが来ていた。



 皐月さんと会ったのはメールの翌日だ。幸さんが絡んできた件でお詫びをさせて欲しいというので、気にしないで欲しいと一度は断ったものの美味しいスイーツの誘惑に負けた。

「クリスマス前のこんな時期に僕なんかと会ってていいんですか?」

「いいの、いいの。俺の心の充電みたいなものだから」

午後8時。普段ならお店にいる時間であり、今日であれば忙しい最中の貴重な休みだ。眺めの良い展望台のレストランで食事をして皐月さんの車でドライブをしている。

「皐月さんっていつも女性とこんな風にデートするんですか?」

「んー。まぁ。お店の子を連れてくることもあるかな」

「皐月さんにこんな風にされたら、好きにならない女性なんていないだろうなぁ」

「那須川君も?」

「ですねー。僕が女性なら舞い上がっちゃうかも」

「くす。これから俺の部屋に行かない? 軽く飲もうよ。那須川君と一緒にお酒飲んでみたかったんだよね」

「……僕、お酒あんまり強くないですけど」

「だから俺の家。何なら泊まってってもいいし。ゴージャスな部屋って興味あるでしょ」

「確かに。ナンバー2の人がどんな家に住むのか見てみたいかも」

 皐月さんの部屋は想像通りと言うか、まさにホストクラブで成功した人が住むような家だった。マンションの高層階、一面ガラス張りの窓、高級なソファに大理石のテーブル。

「すごい……。テレビドラマみたい。ホストってこんなに稼げるものなんですか?」

「あー、さすがにホストだけじゃこの生活の維持は無理かな。俺の場合、出資したりもしてるから」

「え、そうなんですか!?」

「うん、ずっとホストとして第一線で働くのは無理だからね。オーナーになるとか、起業するとか、なんかしないと。はい、どうぞ」

皐月さんからグラスを受け取る。オレンジ色の綺麗なお酒だ。

「ありがとうございます。これ、なんていうお酒ですか?」

「カンパリオレンジ、カクテルだよ。ちょっと苦みもあるけど、飲みやすくてさっぱり甘いし、那須川君が好きそうだなってずっと思ってたんだ」

一口飲むと皐月さんの言う通りだ。ほんのりとした甘さとオレンジの酸味、お酒の微かな苦みが口の中をリセットするからまた飲みたくなる。

「おいしいっ。僕、好きです、これ」

「ぷっ、また、目がまんまる」
「まん丸にはしてません」

目を少し閉じて薄目にすると、皐月さんがもっと笑った。ソファに並んで座る。皐月さんとの距離が近い。

「オレンジが口ついてる」
「え?」

子供みたいで恥ずかしくて慌てて拭うも違う場所に移動したみたいで、まだついてるよ、と笑われた。

「ほら、こっち向いて」

皐月さんの片手が僕の頬に触れ頭を支えるようにして、もう片方の手が唇に触れた。そしてその手はそのまま僕の首筋へと移動した。

「これって、キスマーク?」

「えっ」

咄嗟に首元を隠す。一昨日、泉が付けたのか!?嘘、まさか……。

「もしかしてアキ?」

「いや、やだな。そんなんじゃないですよ。きっと虫刺されかなんかで」

「冬なのに?」
「あ……、じゃあ、彼女かな」

「那須川君は嘘が下手だねぇ。ホストで上に行くにはさ、人を見る目が必要なんだよ。何を求めてるのか、何が嘘で本当か。俺は誤魔化されないよ? 二人は付き合ってるの?」

「いえ、付き合っては無いです」
「でも、セックスはしてるんだ」
「セっ……」

皐月さんの目を見る。嘘を付いても無駄だし、嘘を付いたら皐月さんを裏切ってしまうような気がした。

「はい。でも、なんていうか、性欲の発散とか、キブアンドテイクみたいな感じで」

「ギブアンドテイク?」

なんだか、皐月さんが怖い。少し怒っているような、悲しんでいるような目で僕を見ていて、僕はだんだんと追い詰められたような気持になった。

「ギブアンドテイクってどういうこと?」

ぎゅっと服の裾を掴んだ僕の手を皐月さんが掴んだ。

「怖がらせちゃった? ごめん、怒ってるんじゃないんだ。俺、那須川君が好きだよ。だから嫉妬してる」

僕から少し目を反らした皐月さんが今まで見たことの無いような、苦しそうな顔をしていた。

「皐月さん……」

「ギブアンドテイク、何かを与えてもらう代償にセックスしているんだとしたら、止めて欲しい。俺にこんなこと言う権利はないんだろうけど。好きな人がそんな理由で触れられているのは嫌なんだ。それとも、アキに抱かれたいの?」

「抱かれたい?」

抱かれることは契約で、そこに自分の気持ちは関係なかった。前回までは……。

「何を与えて貰ってるの?」
「……養ってもらって、ます」

「じゃあ、俺が養ってあげるよ。セックスはしなくていい。セックスをして対価を貰うのは売春と同じだよ……」

売春と同じ……。そんなこと考えもしなかった。

「好きなんだ……」

皐月さんの顔が僕に近づいてくる。いつも余裕で綺麗な仕草で、そんな皐月さんが泣きたいような複雑な表情をしているから僕は動くことが出来なかった。

「ん……」

泉とは違う香水の香り。ねっとりと舌を絡めて離れて、また深くなって。

「さ、つき、さ……んんっ」
「ごめん、がっついちゃった」

「いえ……」
「ちゃんと考えて。俺、君がアキに抱かれるのは嫌だ」

皐月さんはそう言って僕の頭を撫でると、今日はもう解散にしようかと言った。

「これ以上一緒にいたら、俺、自分を止める自信がない」


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