【完結】君が好きで彼も好き

SAI

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10. 決断

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 皐月さんが呼んでくれたタクシーに乗り込んで帰宅したのは午前0時を過ぎた頃だった。家のドアを開けると部屋が暖かい。

暖房消し忘れたっけ?
慌ててリビングへ向かうと冷蔵庫の前に泉がいた。

「どうしたの? 今日も仕事だったよね」

「あぁ、ちょっと具合悪くて」
「大丈夫?」
「ん、まぁ」

慌てて泉にもとへ駆け寄っておでこに手を当てる。

「少し熱っぽいな。早く寝た方が良いよ。今、体調崩すとキツイもんね。何かひつ」

「楓」
「ん?」
「今まで皐月さんと一緒だったの?」

「あぁ、うん。幸さんの件でお詫びがしたいっていうから。一度は断ったんだけどスイーツに誘惑されちゃった」

「誘惑されたのはスイーツにだけ?」

「何言ってんの? そうだよ」

ギクッと心臓が跳ねる。隠す必要なんてないのに、なぜか泉に知られたくなくて、何も無かったことにした。

「皐月さんの香水の匂いがする。至近距離で過ごしたみたいに」

「あぁ、隣に座ったりしたからね。そんなことより、ほら、早くベッドに入って。必要なものは持っていくから」

「楓は風呂入っていいよ。自分のことはできるし」

「そう? 飲み物とか枕もとに置いてからにするよ」

冷蔵庫の前にいた泉を避けるようにしてミネラルウオーターを取り出す。

「いいから!先に風呂入って来いよ。イライラするから」

驚いて振り向くと睨みつけるように僕を見る泉がいた。

「ごめ、すぐお風呂入ってくるね。必要なものがあったら携帯にメッセージ送って」

怒りの表情を向けられることが耐えられなくて僕は急いでお風呂場へ逃げ込んだ。


 なんだかもう頭の中がぐちゃぐちゃだ。皐月さん、辛そうな顔してた。僕のやっていることは売春と同じだって……。でも僕、泉に触られるのも、セックスするのも嫌じゃない。嫌どころかこの間なんて抱いて欲しくてあんな……。

湯船に体をゆだねたまま、天井を見ていた。お湯のお陰で体は温まっているのに、心の中は冷えていくようなそんな気分だ。

僕の体はどうしてしまったんだろう。淫乱みたいに乱れて……。

「好きだからアキに抱かれて欲しくない」と言った皐月さんの想いがとても綺麗に感じられて、恋人同士でもないのに泉に抱かれて乱れている自分が酷く汚れたもののような気がした。

その日、泉からメッセージが来ることは無くて泉は僕を頼ることなく一人で回復した。



「那須川君、最近元気なくないー?」
「そうかな」
「うん、なんかテンション低いし」

「もともとテンションは高くないよ」
「そうだけど」
「まぁ、元気だしなよ。良く分からないけど」

山口さんは僕の手のひらにチョコをちょんっと置くとお疲れ様と言って店を出ていった。チョコを持ち歩いてるってことは、山さんでも餌付けしてるのかもしれない。

あれから皐月さんからは何度かメールが来て、ご飯にも誘われたけど、考えてみてと言われたことに対しての答えが見つからず、断ってばかりいる。

泉とは普通だ。ぎこちなく、普通。たとえば、いつもと同じパッケージなのに中には違うものが入っているようなぎこちなさがあるのに、外から見たら今までと何も変わらない。そんな感じだ。

「あ、那須川君」
「皐月さん、どうしてここに?」

店を出ると皐月さんが立っていた。

「那須川君に会いたくて。メールしても冷たいし」

「冷たいだなんて、そんなことないですよ!」

「そう? 俺のこと嫌いになっちゃったかと思った」

「違います。違いますけど、その、まだ返事が……」

「ちゃんと考えてくれてるってことでしょ?」

こくんと頷く。

「ちょっとどっかいこうよ。ご飯でも公園でもいいけど」

「公園ですか?」

「うん、俺、結構好きだよ」
「スーツで?」

「まぁ、ブランコに座るくらいだし」

「ぷっ、ブランコって」

「あ、笑ったなーっ。よし、公園に行こう。ブランコの素晴らしさを教えてやるっ」

皐月さんに腕を引かれたまま、メイン通りを抜けて公園まで歩いた。


 夜の公園は思っていたよりも街灯がしっかりあって薄暗い程度だ。真っ直ぐにブランコに向かった皐月さんを追ってブランコに着くと鎖を掴む。

「つめたっ」
「ぷっ、まぁ、冬だしね」
「お尻も冷えますね」
「うん、冬だからね」

「で、どこが良いんですか?」

「懐かしさと、飛んでいけそうなところ」

「なるほど」

そう言いつつブランコを漕げば冷たい空気に自分から突っ込んでいくようになってやっぱり寒い。

「これ、冬じゃなくてもっと温かい季節向きですよね」

クスクス笑う皐月さんを見ながらブランコを止めた。

「……あれからアキとは寝た?」

「ちょ、直球で聞きますね。寝てないです。そういう日でもないし」

「日にちが決まってるの?」

「うん。毎月じゅ」

「日にちは言わないでよ。その日が来るのが辛くなる」

「すみません」

暫くブランコをゆらゆら揺らした。もともと僕の勉強の為にと泉が提案した契約だ。また以前のようにバイトを増やして一緒に暮らすのがいいのかもしれない。

「僕、ギブアンドテイク、止めようと思います。もともとはバイトして折半で生活してたし。お互いにとってもその方が良い気がします」

「本当?」
「はい」

「良かった。あのさ、キスしてもいい?」

皐月さんが僕にほほ笑む。

「え、でも、僕、皐月さんのことが好きかどうかまだ分からないし」

「分からなくてもいいって言ったら?」

「そ、それは……」
「俺にキスされるのは嫌?」

「嫌じゃないです。皐月さんみたいな綺麗な人に言われたらそりゃあ誰だって嫌だなんて思わないですよ。しかも僕、好きな人じゃなくてもそういうこと出来ちゃうかもしれないし……」

「じゃあ、俺がしたいから、させて。今は好きじゃなくてもいいから」

「だっ、ダメです。嫌じゃないけど、ダメ」

思わず両手で自分の口をガードすると、皐月さんはそのまま顔を近づけて僕の手の甲にキスをした。

「あっ」
「くすっ、変な顔」
「皐月さんっ」

僕が叫ぶと皐月さんはクスクスと笑った。


 泉が帰ってきたのは午前4時を過ぎた頃だった。帰ってくるまでに泉に何て言おうかを散々リハーサルし、準備は万端だ。ちゃんと理由を説明すれば泉もきっと分かってくれる。

「あれ? 楓、まだ起きてたの?」
「うん、ちょっと泉に話があって」

「あー、丁度良かった。俺も話があるんだ」

「何?」

泉はコートを脱ぎながらリビングに入ってくると「あったけ~、家に人がいるっていいな」と呟いた。

「セックス、もうしなくていいや。」

「え?」

「十分発散させてもらったし。これからは友達、な?」

「あ、うん」

「じゃ、俺、風呂入ってくるから。楓も忙しいんだから早く寝ろよ」

「わかった。おやすみ」

言おうと思っていたことを先に言われて拍子抜けしてしまった。どうしたんだろう、急にセックスしなくていいなんて。もしかして彼女でも出来たんだろうか。

「彼女……」

呟いた言葉が思いのほか空間に響いた。


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