【完結】君が好きで彼も好き

SAI

文字の大きさ
16 / 35

16. 皐月

「アキ、これ家の鍵。俺、今日遅いから先に帰ってて」

「あ、すみません」

「渡し忘れて楓君がいる家に帰られても困るし。今日は楓君のところに行っちゃだめだよ」

「分かってますよ。ってか楓に怒られる」


奇妙な同居生活を続けて5日。毎日体を求められる生活に楓君が音を上げて「一日、家に帰って来ます!」と宣言したのが今朝のことだ。じゃあ俺も、というアキを楓君は断固拒否。「今日は勉強してゆっくり寝てきます」と帰っていった。

そもそもこうなったのはアキのせいだ。俺は楓君の体を気遣ってゆっくり眠らせてあげようとするのに、アキはあれよこれよと手を出してあっという間に楓君の体に火をつける。そんな二人を放置するわけにもいかず、楓君の体を知り尽くしているようなアキの動きにも腹が立って、結局最後には俺も一緒に楓君を抱きつぶしてしまうのが毎日だった。


「皐月、疲れてるの?」

「そんなことないですよ。由美さんに見とれていただけです」

「もー、またそうやって上手いこと言って」
「本当ですよ。ほら、あーん」

ポテトフライをつまんで口元に持っていくと、由美さんは嬉しそうに口を開けた。こういう時、楓君は少し恥ずかしがって小さめに口を開けるんだよな。唇からチラッと覗く舌も可愛くて……。

「んもうっ、皐月、やっぱりちょっとおかしいっ。せっかく二人きりなのに」

「ごめんごめん」

拗ねた由美さんの肩を抱いて体を密着させると、由美さんがしなだれかかる。その頭を撫でながら俺は楓君の髪の毛の感触を思い出していた。

結構ヤバイな、俺……。

楓君にハマっている自覚はある。今までの余裕がある恋愛とはまるで違う。目の前で他の男に抱かれて惚ける姿に胸を焼かれ、楓君からの口づけに心が浮き立つ。全部自分のモノにしたいのに、それが叶わないもどかしさ。

全然思い通りにならない。


 アフターを終え帰宅したのが4時すぎ。部屋に入るとアキが部屋の照明を落として窓の外を眺めていた。ジャージでそこに立ってミネラルウォーターを飲んでいるだけなのに絵になる。ホストとしてなら負けない自信はある。細やかな気遣いも、女性の欲しい言葉の理解も俺の方が上だという自負があるから、同じ店で働く泉を頼もしいさえと思っていた。

でも今は……。

「あ、風呂借りました。すみません、先に寛いでて」
「いや、全然いいよ」

「……皐月さん、俺のこと嫌いでしょ? ってか嫌いになったの方が正しいか」

「そりゃな。アキみたいには楓君のこと割り切れないよ。独り占めしたいっていつも思ってる」

アキは困ったなという表情で頭を掻いた。

「そういうのあんまり出し過ぎると、楓、気にしますよ。只でさえ、この状況を後ろめたいと思ってるんすから」

「そんなこと分かってるよ。ちゃんと気付いてる」

「なら、もう少し俺と仲良くしませんか?」

「何言って……というかアキは平気なの? 俺と楓君がセックスしてるところを見ても」

「どうかな。なんか最近良く分からないです。楓が気持ちいならそれでいいかなって気になっちゃって。俺、相手が皐月さんで良かったって思ってますよ」

「なんかちょっと頭がついて行かないから、取りあえず風呂に入ってくる」

「どうぞ、ごゆっくり」


 湯船につかるとふぅっと息を吐いた。俺ともっと仲良くなりたいなんて、どうしてアキはあんなに落ち着いていられるのだろう。

楓が気持ち良ければいい。
楓が傍にいてくれるなら自分以外にも好きな人がいてもいい。

なんであんな風に楓君に甘くなれるのだろう。アキのあの態度が俺よりもずっと大人に見えて、俺より楓君を想っているような気さえして落ち着かない。

いっそのこと楓君を諦めて俺だけを見てくれる人にした方が……。

今までの恋愛を思い返してみるも、結局相手の気持ちが俺に強く向きすぎて俺の気持ちが冷めるというパターンばかりだったことに気が付いた。

完全に手に入らない、だからこんなにも惹かれてしまうのか? 楓君がない日々を想像すればするほどつまらない日常が見えてくる。こんなにも心をかき乱される相手はいない。

なら、どうしようもないじゃないか。


 風呂から上がるとアキはまだ窓の外を見ていた。

「アキはなんでそんなに楓君が好きなの? アキなら他にもいっぱい選択肢はあるでしょ」

「高校時代の楓ってオタクっぽくて真面目だったんですけど、なんか柔らかい雰囲気持ってて。面白いこと言わないのに、いるだけでそこの雰囲気が柔らかくなるんですよね。それに気づいた時から、気が付けば目で追うようになってました」

アキが懐かしそうに目を細めて笑う。

「俺と楓は仲良くもなくて一日話さない日もあるくらいだったんですけど、球技大会の放課後、机に突っ伏して寝てた時に楓が俺の頭を撫でたんですよ。こっそり「お疲れ様」って言って。それが妙にハマってしまって。俺からしてみたら、俺に興味を持たないアイドルみたいな存在だったから」

「へぇ……」

光景が目に浮かぶようだった。確かに楓君には不思議な魅力がある。一緒にいるのが心地よくて、もっともっとと思わせるものがあるのだ。

「手放したくないんです、あいつのこと」
「俺も、手放すつもりは無いよ」

アキが俺との距離を詰める。

「俺と仲良くする気になりました?」
「努力はする」

「あの、ちょっとお願いがあるんですけど」
「何?」
「キスしてみてもいいですか?」

「は?」

「楓以外でもあんな気持ちになるのかどうか確かめてみたいって言うか……」

「……確かに」

俺より3センチ背の高いアキが俺の顎に手を添えて近づいてくる。こんなところを店の客に見られたら悲鳴ものだろうなと思うと、ちょっと笑いがこみあげてきた。アキの唇が触れる。その唇の表面をなぞって口の中に侵入する。

舌を追いかけながらアキの表情を見ようと視線を上げると、ばっちり目が合った。そして離れた。きっと思ったことは一緒だ。

「全然痺れないっすね」

「あぁ、気持ち悪いとまでは言わないけど、あまりしたくはないね」

気持ちがないだけでこうも違うなんて。でもまぁ。

「案外、気は合うかもね」

俺が笑うとアキも笑った。


感想 1

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。