イケメンと体が入れ替わってラッキーと思ったらそのイケメンがゲイだった

SAI

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12. きっと僕を好きになるよ

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「待った?」
「いや、そんなに待ってないです」
「良かった」

村上さんが連れて行ってくれたのはホテルの最上階にある夜景が見えるレストランだった。個室レストランとでもいうのだろうか。個室居酒屋のように小さく空間が区切られており、雰囲気は高級レストランだ。

ジャ、ジャケット着て来て良かった……。

予約をしていたということを聞いて一応念の為にとカジュアルにも、ある程度のかしこまった雰囲気にも合うようなジャケットを着て来ていたのだ。

「ジャケット、新鮮だね」
「普段はあんまり着ないっすからね」
「良く似合ってるよ。あ、お酒は飲める?」

「はい。この間二十歳になったんで」
「おぉっ、それはおめでとうだね」

大きなお皿に小さく盛り付けられた料理を前に食前酒で乾杯すると、俺は緊張でドキドキしていた。

「ぷっ、ここには僕しかいないからテーブルマナーとか気にしなくていいよ。気にしてたら楽しめないでしょ。はい、お箸」

「た、助かります」

ホッとした瞬間、料理の香りを感じた。グラスを傾けて食前酒を飲む。しゅわしゅわっとして飲みやすくほんのりとした甘さが食欲をそそる。

「美味しい」
「でしょう?」
「俺、こんな料理はじめてなんですけど」
「そう言われると嬉しいな」

料理はどれも美味しくて、しかもワインによく合うものだからついついお酒が進んでしまう。ほんのりと身体が温かくなってきたのを感じていると村上さんが口を開いた。

「ねぇ、この間お店に来ていたカッコいい男の人って大学の人?」

「え、あぁ、そうですよ」
「彼は橘君のことが好きだよね? 付き合ってる、とか?」

「はっ、なっ、なななな何を言ってるんですかっ」

「僕、そっちの人だからそういうの分かるんだよ。なんとなくね。橘君はノンケだと思ってたんだけどな」

「ノンケ?」
「ゲイではない人ってこと」
「ゲイではないと思うんですけど、ね……」

「彼が特別ってこと?」
「ん、まぁ、そかな」
「ぷっ、付き合ってるって認めた」

「あ……」
「困ったな。ノンケだと思ってたからずっと見てるだけにしてたのに」

「え?」

村上さんがワインを少し傾けて液体が揺れているのを見ているから、つられて俺もその揺らめきを見た。

「僕ね、橘君が好きだよ」
「……」

そんな風に想ってくれていたなんて思いもしなかったから驚きすぎて目を見開いてしまった。

返事をしないと。俺には阿川がいるから気持ちには応えられないってちゃんと。

「あの……俺」
「返事はしないで。今は要らないから」

思いがけずに言葉を遮られて僕はまた驚いて村上さんを見た。

「今返事を貰おうとしたら断られちゃうからさ。橘君には彼より僕の方が合うと思うよ」

「それってどういう意味ですか?」

「内緒。でも、橘君、なんか揺れている気がするから僕にもチャンスはあるかなって。きっと橘君は僕を好きになるよ」

村上さんが微笑む。その笑みは今まで本屋で見ていた村上さんとは違って、なんというかちょっと妖しくて俺をざわつかせるには十分だった。




「あー、美味しかったねー」
「ですねーっ」

村上さんの衝撃的な告白ですっかり酔いが覚めたようになった俺はちょっと落ち着かない気持ちでホテル前の街路樹の間を歩いていた。

「どうする? この後、もう一軒行く?」
「いや、今日は帰ります」
「もしかして警戒してる?」

「いや、そういうんじゃないです。全然」
「じゃあ意識してくれてるのかな。それなら成功だ」

「むっ、村上さんっ」

「ぷぷっ、これ以上押して警戒されるのは困るから今日は僕も引き下がるよ。でもさ、橘君が嫌がるようなことはしないから、またご飯誘わせてよ」

その言い方がなんだかとても爽やかで重さを感じなくて、俺はつい「はい」と答えていた。




 家に帰ってきたのが21時。お風呂に入ってぼーっとして22時。村上さんの言葉を思い出すたびに落ち着かなくなる。

俺じゃ阿川に釣り合わないってことだろうか。それなら、そう思われるだろうというのはなんとなく覚悟はしていた。イケメンで選び放題のはずの阿川がなぜ俺を好きになったのかは自分でも不思議なくらいだ。

だけど、俺が揺れている感じがするって何だろう。しかも俺が村上さんを好きになるって……。阿川じゃなくて村上さんを……。

「会いたい……な」

とてつもなく阿川に会いたい。こんな時間に会いたいと言ったら迷惑だろうか。確か阿川は仕事で忙しいと言っていたはずだ。

部屋の中をウロウロと歩いた。

「そうだ、プレゼントを渡してすぐに帰ればいい。帰りは走れば気分もスッキリするだろうし、会えないなら会えないでポストにプレゼント入れてさ。そのくらいなら迷惑にならないよな……」

自分に言い聞かせるように呟いてジャージに着替えると俺は家を出た。


 阿川の家に向かっているとメールを送る事も出来ないまま電車に乗り、阿川の家の前に立って現実に返った。相手に何も言わずに深夜に家の前にいる。

「こええええ、俺、怖ぇよ。絶対にヤバイ」

やっぱり帰ろう。

「もしかして圭太さん?」

靴ひもを結び直していた俺に少し離れたところから声が降りて来て俺は身を硬くした。やばい、こんなの絶対に引かれる。

「あ、阿川? 偶然だな、こんなところで」
「偶然って僕の家の前ですけど」

「あ、そういえばそうだよな。走ってたから気が付かなかったよ」

阿川が俺との距離を詰め俺の顔に触れる。

「汗もかかずに家から走ってきたんですか?」

うっ……。無理があり過ぎる。

「……あー、プレゼント渡しに。そうだよ、プレゼント渡しに来たんだ。クリスマスの」

ほら、これ、とボディバッグから取り出したペラペラの包を渡すと阿川は嬉しそうに微笑んだ。

あ、ふわって笑った。この顔が見たかったんだよな。プレゼント買って良かった。

「開けてもいいですか?」
「勿論。大したものじゃないんだけど」

ふわっと笑っていた阿川は封を開けると硬直した。

「5千円のギフトカード……」
「何が欲しいか分からなかったし、金もなかったからさ」

「あ、ありがとうございます」

阿川の顔が引きつっている気がする。何か間違っただろうか。

「いい考えだろ。ギフトカードなら無駄にならないし、好きなモノを買えるしな」

「……圭太さん」
「ん?」
「色々とゆっくり覚えていきましょうね?」

「あ、あぁ」
「それはそれとして、本当にプレゼントを渡すためだけにここまで来たんですか?」

阿川の笑顔が何かを含んだように妖しさを増して、ほんの少し空気がピリついた。

「今日ってあの人と食事に行くって言ってましたよね? なんかあった?」

「何もないよ」

告白されて「橘君はきっと僕を好きになるよ」と言われて落ち着かなくなったなんて言えるはずもない。

「なんとなく会いたくなってさ。こんな時間に悪いな。仕事忙しいって言ってたのに」

じゃ、また、と言って去ろうとした俺の腕を阿川がつかむ。

「会うだけでいいの? 僕はそれだけじゃ足りないけど」

阿川の視線に俺の体温が上昇した。


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