【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第二章

13. ヴァンス様とのデート

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 ターザニアに来て3か月が過ぎ、夏、真っ盛り。のびケーキは美容院のオーナーの戦略によりみるみる世界中の貴族へと広まり、パーティーのたびに髪型を自由に変えられると大好評。禿げに悩む一部のお客様にも愛用され、空前の大ヒットとなった。

魔木研究所には木を4本まで増やしてもらい、製造に大忙しだ。だが、いくら需要が増えても供給には限りがある。そのため販売価格が高騰し、のびケーキひとつ末端価格は2万円。こちらとしては頭がクラッとする価格だ。クロッカさんは、もう少し値段を釣り上げるべきだったわと悔しがっていたけれど、この大ヒットはオーナーの手腕によるところが大きいので、私は案外満足している。

調合とは発想力であり、幾通りもの組み合わせをひたすら試すしかないのである。  トト

午前中はのびケーキと騎士団用のブラウニーを作り、午後からはトトさんの言葉通りにひたすら調合料理の試作を行う日々だ。以前、グラントさんに頼んでいた魔道具小弓は何度か試作を繰り返し、もうすぐ完成しそうな雰囲気である。

そんなある日、ヴァンス様からチョンピーが届いた。チョンピーは手紙を口に咥えていて、封を開けると小さなヴァンス様が出てきた。

「やぁ、ライファちゃん。元気にしてる?今度ね、仕事でそっちに行くことになったんだ。夕方から2、3時間は時間が取れるからデートしよう。まさか忘れてないよね?」

ちびヴァンス様は探るような視線を向けてきた。

「忘れてないです!」

こちらの声がヴァンス様に聞こえるわけではないのだけれど、その視線に耐え切れずについ声に出す。

「詳しい予定は明かせないから、急にはなっちゃうけどそっちに着いたら連絡するね。」

ちびヴァンス様はそう言ってほほ笑むと手を振って消えた。


デートって何をすればいいんだろう。
ってか、どこへ行くものなんだ?
あれ、ターザニアに住んでいるのは私だから私がお店とか予約するんじゃないか?

んがーっ!!

「ライファ?どうしたの?そんな変な顔して。」

クロッカさんの声で我に返った。そうだった。ここは研究所の厨房だった・・・。昨日届いたヴァンス様からのシューピンに悩みまくっていたら、つい今も考え込んでいたらしい。

「ちょっと悩み事が・・・。」
「悩み事?珍しいわねぇ。相談に乗るわよ。」

のびケーキの材料を型に流し込みながら、クロッカさんが言う。

「デートってどこへ行くものなんですか?」
「えぇー?どこでもいいんじゃない?行きたいところへ行けばいいのよ。」
「そうなんですか?」

私はクロッカさんが流し込んだ生地にクルクルの実を混ぜていった。

「そうよ。だって行きたくないところに行ったって楽しくないでしょ。」
「まぁ、それはそうですけど。クロッカさんはどこに行くんですか?」
「そうねぇ、そういえばこの間、研究所の裏庭に行ったわ。あそこね、結構魔獣も出るのよ。」

ははー、魔木研究所の副研究室長とだな、とすぐに察しがついた。

「裏庭には珍しい魔木や魔花があるからね。魔獣たちにとっても穴場だってわけ。狩りをしていけないっていう決まりもないから、結構みんな捕まえに行くのよー。デートの相手がもし、ライファちゃんが身に着けている魔力の持ち主だっていうのならライファちゃんも行ってみたら?いい材料が手に入るかもよ。」

クロッカさんはそう言ってウィンクした。
確かにとても魅力的な場所である。しかも、一緒に行くのはヴァンス様だ。ユーリスアの騎士団隊長。

「クロッカさん、部外者って裏庭に連れていくことはできますか?」
「許可が取れればいいんじゃない?」
「ターザニアの人じゃないんですけど、それだと厳しいでしょうか?」

「そうねぇ、研究所は外部に情報が漏れるかもってことに関しては厳しいから、それは難しいでしょうね。あ、でも、いい場所があるわよ。」

「いい場所?」

「研究所の敷地外なんだけど、うちの魔木や魔花の香りが流れるのか、魔獣が集まってきやすいエリアがあるの。そこならいいんじゃない?」

「おぉっ、ぜひ教えてください!!」

私はクロッカさんにそうお願いすると、のびケーキの生地を窯に入れて火を投げ入れた


 ヴァンス様から連絡が来たのはそれから4日後の朝だった。「今日の夜7時でどう?迎えに行くよ」という簡潔な内容で私の休みを知っていたのだろうかと思う程、絶妙なタイミングでの連絡だった。フォレストに迎えに来てもらうと時間がかかるので、研究所の前で待ち合わせすることにした。ターザニアの王宮から研究所までなら30分はかからないだろう。 私は午前中のうちに食材の買い物を済ませるとガロンさんに声をかけた。

「ガロンさん、空いている時間に厨房をお借りしてもいいですか?」
「おぉ、いいぞ。料理でもするのか?」

「はい、お弁当を作ろうと思いまして。あ、今日の夜ご飯は要らないです。出かけるので。」
「なんだ?デートか?」

ガロンさんがニヤリとする。

「そうなりますね。」
「あ、そうなのか。」

私があまりにもあっさりと認めたので、拍子抜けしたような返事が返ってきた。

夕方、私はお茶とハンバーガー5個とクッキーと果物、小さな透明の瓶に刻んだ野菜を層にして詰めたサラダをリュックに入れて、研究所の前にいた。

「ライファちゃん、久しぶり。」

ヴァンス様がやってきた。仕事の合間ということもあり、白がベースの騎士団の正装をしている。こうしてみると、本当にイケメンなんだな。

「お久しぶりです。ヴァンス様。」
「今日はどこに行きたい?」
「今日は夜の森でピクニックをしようかと、お弁当持ってきちゃいました。」
「夜の森でピクニック?それは初めての試みだな。」

ヴァンス様はびっくりした声を上げたが、楽しそうに微笑んだ。あわよくばヴァンス様に魔獣を倒すのを手伝ってもらって薬材を手に入れようとしている身としては、些か心苦しい。

「こっちです。」

私はヴァンス様を研究所の裏庭付近に案内しようと、こっち、こっちと進む方向を指さす。
ヴァンス様はそんな私にむかって手を差し出した。

「手はつながないの?」
「へっ?」
「だって、これはデートでしょう?」

お、大人ヴァンス様の笑みだ。私はヴァンス様の手を掴んで歩き出した。くすくす、とヴァンス様の笑い声が聞こえる。ものすごく恥ずかしい。赤くなる顔を隠す様に早歩きで森に行った。


クロッカさんに教えてもらったエリアに着く。

「お、お弁当広げたいので、手を離してもらってもいいですか?」

しっかりと握られた手を持ちあげて反対の手でコレ、と指さす。

「ぶっ、ライファちゃんは真面目だねぇ。」

ヴァンス様は先ほどから笑ってばかりだ。今日が満月のせいか森の中は真っ暗にはならず、どこからか飛んできた妖精たちが青白く光るので、柔らかな光がそこら中に浮かんでいる。

「ここ、綺麗なところだね。」
「そうですね、昼間に来たことはあったのですが夜だと幻想的ですね。」

私は持ってきた布を敷くと、お茶とハンバーガーと果物、野菜、クッキーを並べた。

「あ、クッキーだ。前回、もらったものが美味しかったからまた食べたいと思っていたんだよね。」
「良かったです。食べきれなかったらお土産にしてもいいなと思って、たくさん持ってきちゃいました。」

私が笑うと、ヴァンス様はありがとう、と言った。

「これは?初めて見るな。」

ヴァンス様はハンバーガーを持ち上げると、いただきますと言って包を開けた。

「おぉ、パンに肉が挟まってる。」
「ハンバーガーと言うんですよ。お弁当にはぴったりなんです。」

ヴァンス様はレイと同じように小さく食べると味を確認し、それから大きく食べた。

「うまい!!お肉とパンが良く合う!このタレが美味しい。」

「照り焼きバーガーにしたんです。ヴァンス様は男性ですし、よく動いてそうだから濃い目の味がいいかと思って。」

「ちゃんと私のことを考えて作ってくれたのか。うれしいな。」

ヴァンス様は目を細めると、ハンバーガーにサラダ、果物と次々と食べ物を口に入れた。


こうして、魔獣のことなどすっかり忘れていた頃だった。
私たちの周りと飛んでいた妖精がバッと姿を消し、空気がぴり付いたかと思った瞬間、ヴァンス様が音もなく動いた。その傍らに魔獣が一匹倒れている。

魔力ランク5の魔獣、アカントだ。疲労回復効果を持ち、乾燥させたお肉は絶品である。ただし、効力としては3だ。

「おぉー!アカントだ!!」

私は思わず、声の後ろにハートをつけた声色で喜んだ。

「ヴァンス様、すごいです!」

そんな私の態度を不審に思ったのか、ヴァンス様が私との距離を詰めてくる。

「ライファちゃん、もしかして、これが目的で私をこの場所に連れてきたんじゃないよね?」

ヴァンス様の顔が20cm程の距離に迫る。

「た、多少はありました!!」

ヴァンス様の迫力にというよりは、その距離の近さに負けて顔を逸らした。

「まぁ、楽しかったからいいけどね。」

そう言って、ヴァンス様の顔が少し遠ざかろうとして動きを止めた。ヴァンス様の指が私の首元を触る。ちょうどレイが印をつけたところだ。

「これ、レイの仕業?」

ヴァンス様の問いに、一気に顔が真っ赤になるのを感じる。

「へぇー、そうなんだ。随分な独占欲だな。これ、消してあげようか?私なら簡単に消してあげられるけど。」

私は首元に注がれるヴァンス様の視線に耐え切れずに首元を手で隠す。

「いや、大丈夫です。そのままで。」

印が消えたと知った時のレイの反応が恐ろしい。いや、恐ろしいのではなくて、私がターザニアに旅立つ前日に見せた悲しいようなあの複雑な表情、あの表情をあまりさせたくないなと思ったのだ。

「そう・・・。私も人のことは言えないな。」
「え?」

ヴァンス様が小さな声で言った言葉を聞き返そうとヴァンス様の方へ顔を向ける。

「んっ。」

唇に突然、温もりを感じた。それがヴァンス様の唇だと気付いたのは、ヴァンス様が唇を離した時だった。

「ヴァンス様?」
「・・・ごめん。」

互いの顔の全体を把握できないほど近い距離にある顔と顔。
言葉の熱が顎のあたりに伝わり、そのまま動けなくなった。
そしてまた、唇を塞がれた。



ごめん、とはどういう意味だろう。
キスの後、すっかり通常運転に戻ったヴァンス様と共に森を出る。

「さっきのあれって、デートの終わりにする挨拶みたいなものですかね?」

ヴァンス様に聞くと、ヴァンスはえぇっ!?っと声を上げて、その場にしゃがみ込んだ。なんだか、困ったような顔をして私を見上げる。

「ライファちゃんにとってはそうなるのね。私もまだまだだな。」

ヴァンス様は独り言のように呟いた。その後立ち上がる。

「今はそれでもいいよ。本当に厄介なお嬢さんだ。」

ヴァンス様は困ったような顔をして私の頭を撫でると、馬車を止めた。

「彼女をフォレストまで。おやすみ、ライファちゃん。ご飯美味しかったよ。」
「はい、ヴァンス様もお気をつけて。あ、アカント、ありがとうございました!」

私がヴァンス様に手を振ると、馬車はフォレストへ向けて出発した。
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