57 / 226
第二章
13. ヴァンス様とのデート
しおりを挟む
ターザニアに来て3か月が過ぎ、夏、真っ盛り。のびケーキは美容院のオーナーの戦略によりみるみる世界中の貴族へと広まり、パーティーのたびに髪型を自由に変えられると大好評。禿げに悩む一部のお客様にも愛用され、空前の大ヒットとなった。
魔木研究所には木を4本まで増やしてもらい、製造に大忙しだ。だが、いくら需要が増えても供給には限りがある。そのため販売価格が高騰し、のびケーキひとつ末端価格は2万円。こちらとしては頭がクラッとする価格だ。クロッカさんは、もう少し値段を釣り上げるべきだったわと悔しがっていたけれど、この大ヒットはオーナーの手腕によるところが大きいので、私は案外満足している。
調合とは発想力であり、幾通りもの組み合わせをひたすら試すしかないのである。 トト
午前中はのびケーキと騎士団用のブラウニーを作り、午後からはトトさんの言葉通りにひたすら調合料理の試作を行う日々だ。以前、グラントさんに頼んでいた魔道具小弓は何度か試作を繰り返し、もうすぐ完成しそうな雰囲気である。
そんなある日、ヴァンス様からチョンピーが届いた。チョンピーは手紙を口に咥えていて、封を開けると小さなヴァンス様が出てきた。
「やぁ、ライファちゃん。元気にしてる?今度ね、仕事でそっちに行くことになったんだ。夕方から2、3時間は時間が取れるからデートしよう。まさか忘れてないよね?」
ちびヴァンス様は探るような視線を向けてきた。
「忘れてないです!」
こちらの声がヴァンス様に聞こえるわけではないのだけれど、その視線に耐え切れずについ声に出す。
「詳しい予定は明かせないから、急にはなっちゃうけどそっちに着いたら連絡するね。」
ちびヴァンス様はそう言ってほほ笑むと手を振って消えた。
デートって何をすればいいんだろう。
ってか、どこへ行くものなんだ?
あれ、ターザニアに住んでいるのは私だから私がお店とか予約するんじゃないか?
んがーっ!!
「ライファ?どうしたの?そんな変な顔して。」
クロッカさんの声で我に返った。そうだった。ここは研究所の厨房だった・・・。昨日届いたヴァンス様からのシューピンに悩みまくっていたら、つい今も考え込んでいたらしい。
「ちょっと悩み事が・・・。」
「悩み事?珍しいわねぇ。相談に乗るわよ。」
のびケーキの材料を型に流し込みながら、クロッカさんが言う。
「デートってどこへ行くものなんですか?」
「えぇー?どこでもいいんじゃない?行きたいところへ行けばいいのよ。」
「そうなんですか?」
私はクロッカさんが流し込んだ生地にクルクルの実を混ぜていった。
「そうよ。だって行きたくないところに行ったって楽しくないでしょ。」
「まぁ、それはそうですけど。クロッカさんはどこに行くんですか?」
「そうねぇ、そういえばこの間、研究所の裏庭に行ったわ。あそこね、結構魔獣も出るのよ。」
ははー、魔木研究所の副研究室長とだな、とすぐに察しがついた。
「裏庭には珍しい魔木や魔花があるからね。魔獣たちにとっても穴場だってわけ。狩りをしていけないっていう決まりもないから、結構みんな捕まえに行くのよー。デートの相手がもし、ライファちゃんが身に着けている魔力の持ち主だっていうのならライファちゃんも行ってみたら?いい材料が手に入るかもよ。」
クロッカさんはそう言ってウィンクした。
確かにとても魅力的な場所である。しかも、一緒に行くのはヴァンス様だ。ユーリスアの騎士団隊長。
「クロッカさん、部外者って裏庭に連れていくことはできますか?」
「許可が取れればいいんじゃない?」
「ターザニアの人じゃないんですけど、それだと厳しいでしょうか?」
「そうねぇ、研究所は外部に情報が漏れるかもってことに関しては厳しいから、それは難しいでしょうね。あ、でも、いい場所があるわよ。」
「いい場所?」
「研究所の敷地外なんだけど、うちの魔木や魔花の香りが流れるのか、魔獣が集まってきやすいエリアがあるの。そこならいいんじゃない?」
「おぉっ、ぜひ教えてください!!」
私はクロッカさんにそうお願いすると、のびケーキの生地を窯に入れて火を投げ入れた
ヴァンス様から連絡が来たのはそれから4日後の朝だった。「今日の夜7時でどう?迎えに行くよ」という簡潔な内容で私の休みを知っていたのだろうかと思う程、絶妙なタイミングでの連絡だった。フォレストに迎えに来てもらうと時間がかかるので、研究所の前で待ち合わせすることにした。ターザニアの王宮から研究所までなら30分はかからないだろう。 私は午前中のうちに食材の買い物を済ませるとガロンさんに声をかけた。
「ガロンさん、空いている時間に厨房をお借りしてもいいですか?」
「おぉ、いいぞ。料理でもするのか?」
「はい、お弁当を作ろうと思いまして。あ、今日の夜ご飯は要らないです。出かけるので。」
「なんだ?デートか?」
ガロンさんがニヤリとする。
「そうなりますね。」
「あ、そうなのか。」
私があまりにもあっさりと認めたので、拍子抜けしたような返事が返ってきた。
夕方、私はお茶とハンバーガー5個とクッキーと果物、小さな透明の瓶に刻んだ野菜を層にして詰めたサラダをリュックに入れて、研究所の前にいた。
「ライファちゃん、久しぶり。」
ヴァンス様がやってきた。仕事の合間ということもあり、白がベースの騎士団の正装をしている。こうしてみると、本当にイケメンなんだな。
「お久しぶりです。ヴァンス様。」
「今日はどこに行きたい?」
「今日は夜の森でピクニックをしようかと、お弁当持ってきちゃいました。」
「夜の森でピクニック?それは初めての試みだな。」
ヴァンス様はびっくりした声を上げたが、楽しそうに微笑んだ。あわよくばヴァンス様に魔獣を倒すのを手伝ってもらって薬材を手に入れようとしている身としては、些か心苦しい。
「こっちです。」
私はヴァンス様を研究所の裏庭付近に案内しようと、こっち、こっちと進む方向を指さす。
ヴァンス様はそんな私にむかって手を差し出した。
「手はつながないの?」
「へっ?」
「だって、これはデートでしょう?」
お、大人ヴァンス様の笑みだ。私はヴァンス様の手を掴んで歩き出した。くすくす、とヴァンス様の笑い声が聞こえる。ものすごく恥ずかしい。赤くなる顔を隠す様に早歩きで森に行った。
クロッカさんに教えてもらったエリアに着く。
「お、お弁当広げたいので、手を離してもらってもいいですか?」
しっかりと握られた手を持ちあげて反対の手でコレ、と指さす。
「ぶっ、ライファちゃんは真面目だねぇ。」
ヴァンス様は先ほどから笑ってばかりだ。今日が満月のせいか森の中は真っ暗にはならず、どこからか飛んできた妖精たちが青白く光るので、柔らかな光がそこら中に浮かんでいる。
「ここ、綺麗なところだね。」
「そうですね、昼間に来たことはあったのですが夜だと幻想的ですね。」
私は持ってきた布を敷くと、お茶とハンバーガーと果物、野菜、クッキーを並べた。
「あ、クッキーだ。前回、もらったものが美味しかったからまた食べたいと思っていたんだよね。」
「良かったです。食べきれなかったらお土産にしてもいいなと思って、たくさん持ってきちゃいました。」
私が笑うと、ヴァンス様はありがとう、と言った。
「これは?初めて見るな。」
ヴァンス様はハンバーガーを持ち上げると、いただきますと言って包を開けた。
「おぉ、パンに肉が挟まってる。」
「ハンバーガーと言うんですよ。お弁当にはぴったりなんです。」
ヴァンス様はレイと同じように小さく食べると味を確認し、それから大きく食べた。
「うまい!!お肉とパンが良く合う!このタレが美味しい。」
「照り焼きバーガーにしたんです。ヴァンス様は男性ですし、よく動いてそうだから濃い目の味がいいかと思って。」
「ちゃんと私のことを考えて作ってくれたのか。うれしいな。」
ヴァンス様は目を細めると、ハンバーガーにサラダ、果物と次々と食べ物を口に入れた。
こうして、魔獣のことなどすっかり忘れていた頃だった。
私たちの周りと飛んでいた妖精がバッと姿を消し、空気がぴり付いたかと思った瞬間、ヴァンス様が音もなく動いた。その傍らに魔獣が一匹倒れている。
魔力ランク5の魔獣、アカントだ。疲労回復効果を持ち、乾燥させたお肉は絶品である。ただし、効力としては3だ。
「おぉー!アカントだ!!」
私は思わず、声の後ろにハートをつけた声色で喜んだ。
「ヴァンス様、すごいです!」
そんな私の態度を不審に思ったのか、ヴァンス様が私との距離を詰めてくる。
「ライファちゃん、もしかして、これが目的で私をこの場所に連れてきたんじゃないよね?」
ヴァンス様の顔が20cm程の距離に迫る。
「た、多少はありました!!」
ヴァンス様の迫力にというよりは、その距離の近さに負けて顔を逸らした。
「まぁ、楽しかったからいいけどね。」
そう言って、ヴァンス様の顔が少し遠ざかろうとして動きを止めた。ヴァンス様の指が私の首元を触る。ちょうどレイが印をつけたところだ。
「これ、レイの仕業?」
ヴァンス様の問いに、一気に顔が真っ赤になるのを感じる。
「へぇー、そうなんだ。随分な独占欲だな。これ、消してあげようか?私なら簡単に消してあげられるけど。」
私は首元に注がれるヴァンス様の視線に耐え切れずに首元を手で隠す。
「いや、大丈夫です。そのままで。」
印が消えたと知った時のレイの反応が恐ろしい。いや、恐ろしいのではなくて、私がターザニアに旅立つ前日に見せた悲しいようなあの複雑な表情、あの表情をあまりさせたくないなと思ったのだ。
「そう・・・。私も人のことは言えないな。」
「え?」
ヴァンス様が小さな声で言った言葉を聞き返そうとヴァンス様の方へ顔を向ける。
「んっ。」
唇に突然、温もりを感じた。それがヴァンス様の唇だと気付いたのは、ヴァンス様が唇を離した時だった。
「ヴァンス様?」
「・・・ごめん。」
互いの顔の全体を把握できないほど近い距離にある顔と顔。
言葉の熱が顎のあたりに伝わり、そのまま動けなくなった。
そしてまた、唇を塞がれた。
ごめん、とはどういう意味だろう。
キスの後、すっかり通常運転に戻ったヴァンス様と共に森を出る。
「さっきのあれって、デートの終わりにする挨拶みたいなものですかね?」
ヴァンス様に聞くと、ヴァンスはえぇっ!?っと声を上げて、その場にしゃがみ込んだ。なんだか、困ったような顔をして私を見上げる。
「ライファちゃんにとってはそうなるのね。私もまだまだだな。」
ヴァンス様は独り言のように呟いた。その後立ち上がる。
「今はそれでもいいよ。本当に厄介なお嬢さんだ。」
ヴァンス様は困ったような顔をして私の頭を撫でると、馬車を止めた。
「彼女をフォレストまで。おやすみ、ライファちゃん。ご飯美味しかったよ。」
「はい、ヴァンス様もお気をつけて。あ、アカント、ありがとうございました!」
私がヴァンス様に手を振ると、馬車はフォレストへ向けて出発した。
魔木研究所には木を4本まで増やしてもらい、製造に大忙しだ。だが、いくら需要が増えても供給には限りがある。そのため販売価格が高騰し、のびケーキひとつ末端価格は2万円。こちらとしては頭がクラッとする価格だ。クロッカさんは、もう少し値段を釣り上げるべきだったわと悔しがっていたけれど、この大ヒットはオーナーの手腕によるところが大きいので、私は案外満足している。
調合とは発想力であり、幾通りもの組み合わせをひたすら試すしかないのである。 トト
午前中はのびケーキと騎士団用のブラウニーを作り、午後からはトトさんの言葉通りにひたすら調合料理の試作を行う日々だ。以前、グラントさんに頼んでいた魔道具小弓は何度か試作を繰り返し、もうすぐ完成しそうな雰囲気である。
そんなある日、ヴァンス様からチョンピーが届いた。チョンピーは手紙を口に咥えていて、封を開けると小さなヴァンス様が出てきた。
「やぁ、ライファちゃん。元気にしてる?今度ね、仕事でそっちに行くことになったんだ。夕方から2、3時間は時間が取れるからデートしよう。まさか忘れてないよね?」
ちびヴァンス様は探るような視線を向けてきた。
「忘れてないです!」
こちらの声がヴァンス様に聞こえるわけではないのだけれど、その視線に耐え切れずについ声に出す。
「詳しい予定は明かせないから、急にはなっちゃうけどそっちに着いたら連絡するね。」
ちびヴァンス様はそう言ってほほ笑むと手を振って消えた。
デートって何をすればいいんだろう。
ってか、どこへ行くものなんだ?
あれ、ターザニアに住んでいるのは私だから私がお店とか予約するんじゃないか?
んがーっ!!
「ライファ?どうしたの?そんな変な顔して。」
クロッカさんの声で我に返った。そうだった。ここは研究所の厨房だった・・・。昨日届いたヴァンス様からのシューピンに悩みまくっていたら、つい今も考え込んでいたらしい。
「ちょっと悩み事が・・・。」
「悩み事?珍しいわねぇ。相談に乗るわよ。」
のびケーキの材料を型に流し込みながら、クロッカさんが言う。
「デートってどこへ行くものなんですか?」
「えぇー?どこでもいいんじゃない?行きたいところへ行けばいいのよ。」
「そうなんですか?」
私はクロッカさんが流し込んだ生地にクルクルの実を混ぜていった。
「そうよ。だって行きたくないところに行ったって楽しくないでしょ。」
「まぁ、それはそうですけど。クロッカさんはどこに行くんですか?」
「そうねぇ、そういえばこの間、研究所の裏庭に行ったわ。あそこね、結構魔獣も出るのよ。」
ははー、魔木研究所の副研究室長とだな、とすぐに察しがついた。
「裏庭には珍しい魔木や魔花があるからね。魔獣たちにとっても穴場だってわけ。狩りをしていけないっていう決まりもないから、結構みんな捕まえに行くのよー。デートの相手がもし、ライファちゃんが身に着けている魔力の持ち主だっていうのならライファちゃんも行ってみたら?いい材料が手に入るかもよ。」
クロッカさんはそう言ってウィンクした。
確かにとても魅力的な場所である。しかも、一緒に行くのはヴァンス様だ。ユーリスアの騎士団隊長。
「クロッカさん、部外者って裏庭に連れていくことはできますか?」
「許可が取れればいいんじゃない?」
「ターザニアの人じゃないんですけど、それだと厳しいでしょうか?」
「そうねぇ、研究所は外部に情報が漏れるかもってことに関しては厳しいから、それは難しいでしょうね。あ、でも、いい場所があるわよ。」
「いい場所?」
「研究所の敷地外なんだけど、うちの魔木や魔花の香りが流れるのか、魔獣が集まってきやすいエリアがあるの。そこならいいんじゃない?」
「おぉっ、ぜひ教えてください!!」
私はクロッカさんにそうお願いすると、のびケーキの生地を窯に入れて火を投げ入れた
ヴァンス様から連絡が来たのはそれから4日後の朝だった。「今日の夜7時でどう?迎えに行くよ」という簡潔な内容で私の休みを知っていたのだろうかと思う程、絶妙なタイミングでの連絡だった。フォレストに迎えに来てもらうと時間がかかるので、研究所の前で待ち合わせすることにした。ターザニアの王宮から研究所までなら30分はかからないだろう。 私は午前中のうちに食材の買い物を済ませるとガロンさんに声をかけた。
「ガロンさん、空いている時間に厨房をお借りしてもいいですか?」
「おぉ、いいぞ。料理でもするのか?」
「はい、お弁当を作ろうと思いまして。あ、今日の夜ご飯は要らないです。出かけるので。」
「なんだ?デートか?」
ガロンさんがニヤリとする。
「そうなりますね。」
「あ、そうなのか。」
私があまりにもあっさりと認めたので、拍子抜けしたような返事が返ってきた。
夕方、私はお茶とハンバーガー5個とクッキーと果物、小さな透明の瓶に刻んだ野菜を層にして詰めたサラダをリュックに入れて、研究所の前にいた。
「ライファちゃん、久しぶり。」
ヴァンス様がやってきた。仕事の合間ということもあり、白がベースの騎士団の正装をしている。こうしてみると、本当にイケメンなんだな。
「お久しぶりです。ヴァンス様。」
「今日はどこに行きたい?」
「今日は夜の森でピクニックをしようかと、お弁当持ってきちゃいました。」
「夜の森でピクニック?それは初めての試みだな。」
ヴァンス様はびっくりした声を上げたが、楽しそうに微笑んだ。あわよくばヴァンス様に魔獣を倒すのを手伝ってもらって薬材を手に入れようとしている身としては、些か心苦しい。
「こっちです。」
私はヴァンス様を研究所の裏庭付近に案内しようと、こっち、こっちと進む方向を指さす。
ヴァンス様はそんな私にむかって手を差し出した。
「手はつながないの?」
「へっ?」
「だって、これはデートでしょう?」
お、大人ヴァンス様の笑みだ。私はヴァンス様の手を掴んで歩き出した。くすくす、とヴァンス様の笑い声が聞こえる。ものすごく恥ずかしい。赤くなる顔を隠す様に早歩きで森に行った。
クロッカさんに教えてもらったエリアに着く。
「お、お弁当広げたいので、手を離してもらってもいいですか?」
しっかりと握られた手を持ちあげて反対の手でコレ、と指さす。
「ぶっ、ライファちゃんは真面目だねぇ。」
ヴァンス様は先ほどから笑ってばかりだ。今日が満月のせいか森の中は真っ暗にはならず、どこからか飛んできた妖精たちが青白く光るので、柔らかな光がそこら中に浮かんでいる。
「ここ、綺麗なところだね。」
「そうですね、昼間に来たことはあったのですが夜だと幻想的ですね。」
私は持ってきた布を敷くと、お茶とハンバーガーと果物、野菜、クッキーを並べた。
「あ、クッキーだ。前回、もらったものが美味しかったからまた食べたいと思っていたんだよね。」
「良かったです。食べきれなかったらお土産にしてもいいなと思って、たくさん持ってきちゃいました。」
私が笑うと、ヴァンス様はありがとう、と言った。
「これは?初めて見るな。」
ヴァンス様はハンバーガーを持ち上げると、いただきますと言って包を開けた。
「おぉ、パンに肉が挟まってる。」
「ハンバーガーと言うんですよ。お弁当にはぴったりなんです。」
ヴァンス様はレイと同じように小さく食べると味を確認し、それから大きく食べた。
「うまい!!お肉とパンが良く合う!このタレが美味しい。」
「照り焼きバーガーにしたんです。ヴァンス様は男性ですし、よく動いてそうだから濃い目の味がいいかと思って。」
「ちゃんと私のことを考えて作ってくれたのか。うれしいな。」
ヴァンス様は目を細めると、ハンバーガーにサラダ、果物と次々と食べ物を口に入れた。
こうして、魔獣のことなどすっかり忘れていた頃だった。
私たちの周りと飛んでいた妖精がバッと姿を消し、空気がぴり付いたかと思った瞬間、ヴァンス様が音もなく動いた。その傍らに魔獣が一匹倒れている。
魔力ランク5の魔獣、アカントだ。疲労回復効果を持ち、乾燥させたお肉は絶品である。ただし、効力としては3だ。
「おぉー!アカントだ!!」
私は思わず、声の後ろにハートをつけた声色で喜んだ。
「ヴァンス様、すごいです!」
そんな私の態度を不審に思ったのか、ヴァンス様が私との距離を詰めてくる。
「ライファちゃん、もしかして、これが目的で私をこの場所に連れてきたんじゃないよね?」
ヴァンス様の顔が20cm程の距離に迫る。
「た、多少はありました!!」
ヴァンス様の迫力にというよりは、その距離の近さに負けて顔を逸らした。
「まぁ、楽しかったからいいけどね。」
そう言って、ヴァンス様の顔が少し遠ざかろうとして動きを止めた。ヴァンス様の指が私の首元を触る。ちょうどレイが印をつけたところだ。
「これ、レイの仕業?」
ヴァンス様の問いに、一気に顔が真っ赤になるのを感じる。
「へぇー、そうなんだ。随分な独占欲だな。これ、消してあげようか?私なら簡単に消してあげられるけど。」
私は首元に注がれるヴァンス様の視線に耐え切れずに首元を手で隠す。
「いや、大丈夫です。そのままで。」
印が消えたと知った時のレイの反応が恐ろしい。いや、恐ろしいのではなくて、私がターザニアに旅立つ前日に見せた悲しいようなあの複雑な表情、あの表情をあまりさせたくないなと思ったのだ。
「そう・・・。私も人のことは言えないな。」
「え?」
ヴァンス様が小さな声で言った言葉を聞き返そうとヴァンス様の方へ顔を向ける。
「んっ。」
唇に突然、温もりを感じた。それがヴァンス様の唇だと気付いたのは、ヴァンス様が唇を離した時だった。
「ヴァンス様?」
「・・・ごめん。」
互いの顔の全体を把握できないほど近い距離にある顔と顔。
言葉の熱が顎のあたりに伝わり、そのまま動けなくなった。
そしてまた、唇を塞がれた。
ごめん、とはどういう意味だろう。
キスの後、すっかり通常運転に戻ったヴァンス様と共に森を出る。
「さっきのあれって、デートの終わりにする挨拶みたいなものですかね?」
ヴァンス様に聞くと、ヴァンスはえぇっ!?っと声を上げて、その場にしゃがみ込んだ。なんだか、困ったような顔をして私を見上げる。
「ライファちゃんにとってはそうなるのね。私もまだまだだな。」
ヴァンス様は独り言のように呟いた。その後立ち上がる。
「今はそれでもいいよ。本当に厄介なお嬢さんだ。」
ヴァンス様は困ったような顔をして私の頭を撫でると、馬車を止めた。
「彼女をフォレストまで。おやすみ、ライファちゃん。ご飯美味しかったよ。」
「はい、ヴァンス様もお気をつけて。あ、アカント、ありがとうございました!」
私がヴァンス様に手を振ると、馬車はフォレストへ向けて出発した。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる