我慢限界な八重くんは、世話焼き同期を独占したい

白盾

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第一話 嘘

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 秒針が21時を過ぎる頃。

 仕事を終えた大人たちが賑わう居酒屋の座敷で、同僚の八重くんと後輩の赤木くん。
 そして私、橘柚木は三人でお酒を片手に顔を赤らめ日々の疲れと鬱憤を晴らしていた。

 渇いた心を潤すのはお酒と、気心知れた人たちとのたわいない会話だ。


 隣に座る八重くんは、私の好きな人。
 新入社員時代からずっと、片想い中。

 普段は男らしくて頼り甲斐のある現代では珍しい、ソース顔のハンサムイケメン。

 そんな彼は、意外にも可愛い酔い方をする。



「ねぇぇずぅっと気になってたんだけどぉ~柚木ちゃんってさぁ、好きな人とかいんのぉ?」
「え?!!!」
「あ~!その反応はいるんだねぇ!んもう、もったいぶらないでよぉ~うふふ、あはは!」
「ももももももも勿体ぶってはないよ!
うーん、い、いるかも……?いないかも~チラチラ」

(目の前にね、だなんて口が裂けても言えない。八重くんは私なんて眼中にないだろうし……) 



「え」


 何故か後ろで泥酔して眠る赤木くんを一蹴して、こちらを見る。
 ん、なんで赤木くんを見たんだろ。



「ね、ねぇ、もしかして意中の相手って、赤木なの?」
「ブフッ!!!!ゲホゲホ……」


 まさかそんなこと言われると思わずに、レモンサワーを吹き出してしまう。



(どうしてその勘違いが生まれるの?!
でも、本命は八重くんだよだなんて、言えないな。
いつも真っ直ぐで、正直で誠実で面白くて。
女の子が放っておく訳ない、どうせ私なんて……。
明日になれば忘れるはず仕方ない、ごめんね赤木くん)



「そ、そうかも~……あはは」



ドンッ!!!
ドンッ!!!!!
ドンッ!!!!!!!!


「ッ!!?」
「へえ、赤木ィ!テメェもッ!!!隅にィッ!!おけねぇナァッ!?」


 眠っている赤木くんの真横に、拳が一発二発三発と振り落ちる。
 しかし、気が気じゃない私と裏腹に赤木くんは深い眠りについているようで、起きる気配はまるでない。



「な、何してんの八重くん?!
拳を振り上げて降ろすの辞めて!?見ていて心臓に悪いよ!!?」
「そうだねぇ?そうだけどねぇ!?そういう訳にもいかねぇよなあ?先駆けはゆるさねぇ赤木ィ!」



 普段、頼り甲斐のある大型犬のような八重くん。
 そんな彼が、こめかみの血管を浮き彫りにして般若のような面構えに変貌。


 これは、かなり怒っているのでは。

 でも、なんでこんな急に。


「……あのよぉ柚木ちゃんには悪りぃけど。
コイツじゃなくてもよくねぇぇえか?」
「ぅうぐぐぐ」
「その、まず技かけるのやめよ?赤木くん苦しそうだから……人目もあるしさ」
「俺とぉおお!赤木ぃいい!!どっちがあ!大事なんだよぅ?」
「あー、えっと、どっちもかな」


(なんだその質問?!私と仕事どっちが大事みたいな)


「はぁ~~~。そのどっちつかず辞めろよぉぉおお。
そうやってさぁ、男を勘違いさせてぇ、もしかして、柚木ちゃんそういう趣味あんのぉ?」
「ないよ!!」



(どんな趣味だよ?!)



「たぶらかして、かき回して、楽しんでんでしょー!?オレガイチバンサイショナノニィ……」
「よくわかんないけど、そろそろ赤木くんだけは解放してあげて!!」
「ッなんれ!!?赤木には、そんな優しいんだよ!!
本当に好きなのかよぉ……。
まじかよぉ……俺の今までの我慢は、ヒック。
無駄だったのかぁ……」
「口から何か吹いてるからだよ!!」


「あ、え?あ、ホントだ。やべ……」
「も、もう!とりあえず、赤木くん介抱してからお店でようか」
「……お、おう」


 八重くんも相当飲んだし酔ってるだけだよね。
 なんていうか、嫉妬しているように見えたけど。
 そう!たぶん私も酔いが回って、都合のいいように見えてるのだ。


 赤木くんを起こして水を飲ませていれば、感情をなくした眼差しで私たち二人を見つめる八重くん。


 目を合わせるのも躊躇するくらい、ゾッとするような深淵《しんえん》を宿した瞳。
 今にも飲み込まれてしまいそうで、直視できない。


 いつもと違う八重くんの眼差しは怖かった。

 見てみぬフリをしてしまった。

 でも、なんでドキドキしている自分がいるんだろう。

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