我慢限界な八重くんは、世話焼き同期を独占したい

白盾

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第七話 甘い幽閉



 睡魔を掻い潜り、ハッと目を開いた。

 体は綺麗に拭き取られており、彼のスウェットが着せられていた。

 しかし、ベッドに山吹くんの姿はない。

 心がざわつく。
 嫌な予感がする。

 山吹くんのこれまでの発言を思い返すと、
彼は、愛されたいし愛したいと思っているのに、
同時に愛されることを恐れているかのようだ。

 
 そんな印象を受けた。


 一番気になったのは、付き合ってすぐに夫だとか、死ぬ時が来たって一緒だと……そんなことを言っていた。

 何と言うか、振り返ると少し異常性がみられる愛し方ではないか?束縛が激しいとでも言うのだろうか。
いや、それ自体はすごく嬉しい。

 恋愛経験も乏しい私が色々言えた口ではないかもしれない。



 答えに辿り着けず悶々としながら、山吹くんの行方を探ろうと立ち上がった。

 しかし、自分のスマホを探すが見当たらない。
 それどころか、カバンすらない。


 「あ、リビングかな」

 そう思って寝室のドアノブに手を掛ける。


 ガチャガチャ

 ガチャガチャ


 「……あれ、え?なんで」


 ガチャガチャガチャガチャ


 開かない。
 閉じ込められている?


 嘘、故障したとか……?


 「や、山吹くん!!居る?
ねえ!ドア開かないの!!ねぇ!」

 返答はない。

 まさか、山吹くんが閉じ込めている。
 ……なんてことないよね。



 「や、山吹くん!!
山吹くんねえ!山吹くん!!」


 ほとんど叫びにも似た声で何度も彼の名前を呼んだ。
 冷静さを少しずつ蝕むように、不安が渦巻く。

 気づいていないだけだと信じて、ドンドンと扉を叩く。


 「山吹くん!!気づいて!!お願いだから……」


 ガチャ……といきなりドアが開いて、不意に引きずられていく。
 体勢が崩れそうになったところを、逞しい腕が抱えるように受け止められていた。


 「……おっと、なーにしてんの、危ねぇよ?」
 「や、山吹くん、よかった居たんだね」

 「うん?どうしたんだよ、そんな焦って、ドア破壊する勢いで叩いてたけどよ」
 「あ、えと、ドアが開かなかったから閉じ込められたのかと思って……えへへそんなわけないのにね」


 苦笑いして彼を見た。
 でも、全然笑ってくれない。それはまだよかった。


 --否定すら、してくれない。

 何を考えているのかわからない闇色の眼差しが、痛いほど私を刺した。


 「柚木ちゃんを守るため。
全部から、守るって言ったろ?」
 「え」
 「ふふ、柚木ちゃんまだ寝てた方がいいかもよぉ~?疲れてんだよきっと」
 「……閉じ込めたのは、山吹くんの意思ってこと?」
 「ん~?そうだけど……」


 「なんで?私たち恋人同士なのに」
 「だからだよ。あ!ならさ、一緒に住んじゃお~か!俺貯金なら沢山あるしさ」


 何でその話に繋がるの。


 「ん~?まだ納得できないぃ~!みたいな顔つきじゃん!も~欲張りだね。なら、結婚指輪……買っちゃおうか?あ、こう言うのサプライズの方が良かったか?」


 笑顔でそう言ってくる。
 まるで、おちゃらけている素振りもなく、本心みたいに。
 それが嬉しくないわけじゃない。

 でも、そんなに急ぐ必要もないはずだ。
 そういうのは、お互い同意の上で……。


 理解が追いつけず、一歩一歩と、彼と距離を取るように後退る。


 「ねえ私たちには、早すぎるよ」

 「なんで?遅いも早いもないよ。0日婚だってあるくらいだよ?あ、何なら、仕事も辞めていいんだよ?
俺が一生面倒見るから。
俺が柚木ちゃんのこと幸せにするんだから」



 開いた距離を帳消しにするかのように、山吹くんに壁際へと追い込まれる。


 「さすがに……おかしいよ」
 「えぇ~?柚木ちゃんを守るためだよ」


 守るって一体何からだろう。
 幸せにするのも、もっと違う形で一緒に築くことは不可能だろうか。


 「だって、クソカスパワハラ上司からも、守ったのは俺だったろ?
襲われそうなところをギリギリで、阻止した。
田中のこともそう。
柚木ちゃんは知らないかもしれないけど、いろんな脅威から俺は君を守ってきたんだ。
俺は、本気だから」

 「でも……!!」

 「離れないって言ったのは、柚木ちゃんだよなぁ?心からそれを信じていいんだよな?」
 「それはそうだけど、でも山吹くんのしたことって監禁じゃ……」


 にっこりと見下ろす微笑み。
 好きな笑顔のはずなのに、心がザワザワと落ち着かない。


 ゆっくりと彼の手が伸びてくる。

 いいのだろうか、このままで。


 彼の言う通りに、してしまって。

 でも、私は山吹くんが好きだ。
 彼と幸せになりたい。


 なら--、私が選ぶべきは。



 「……うん、そうだよ。
私が、離れないって言ったんだもんね。
ごめんね、不安にさせてしまって」


 彼が伸ばした手を握りしめて、頬擦りする。


 温かい。
 血の通った、私の好きな人の体温だ。



 彼を受け入れたい。
 どんな彼も、それが間違っていても正しくても。


 彼を否定することは、止めよう。
 心からわかり合いたいなら、まずは寄り添おうと。


 「ッ!!や、も、ど~したのいきなり!
あぁ、もぅ。こんなことされたら、接着剤で体同士くっつけたくなるじゃん……」


 先ほどと打って変わり、顔を真っ赤にして
バレないように、手で顔を隠してしまう。

 体は大きくて、頼り甲斐があって普段は男らしいのに。
 私にだけ見せてくれる怖い顔も、そして今みたいな可愛いところも、やっぱり山吹くんだから愛おしいと感じるのだ。


 「あはは、それだとあーんなことやこーんなこともできなくなるよ?」
 「ッな!!!それは、嫌だな……。
あ、そうだ!ご飯作ったんだよ。あんまり料理はしてこなかったから……自信はねぇけど」

 「ご飯?」
 「うん、柚木ちゃんの血となり肉となるもんだろ?それなら、ヨリをかけて俺の愛情たっ~ぷりじゃねぇと嫌でさ」
 「……本当!?ありがとう、嬉しい!」


 最初の違和感が拭えた訳ではない。
 でも、寄り添うと決めたのだから、彼と幸せになってみせるという強い意志が、使命感に変わって私を突き動かす。


 例え、この先何が待ち受けようとも。

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