【完結】本日、初恋の幼なじみと初夜を迎えます。~国際弁護士は滾る熱情で生真面目妻を陥落させる~

汐埼ゆたか

文字の大きさ
53 / 68
7.卵焼きレッスン

[1]-4

しおりを挟む
 ふたりきりになった途端、部屋がしんと静まり返った。仕事柄、初対面の相手との会話は苦手ではないが、相手が相手だ。プライベートということもあって、柄にもなく緊張気味だ。

「すみません、私がお願いしたばっかりにご家族の時間を……」
「本当に気にしないでください。私も北山さんとお話してみたくて」
「わたしと……」
「はい」

 真剣な顔でうなずいたさやかさんに、〝やっぱり〟と思った。きっと彼女もあの日のことで言いたいことがあるのだ。
 それならなおのこと私から切り出さなければ。

「さやかさん」

 居住まいを正した私に彼女が目を丸くする。

「先日は大変失礼いたしました」

 深々と、ひざに置いた手に額がつきそうなほど頭を下げた。

「憶測だけでひどい言葉を投げつけたこと、なんて愚かだったのだろうと猛省しています。本当に申し訳ございませんでした」

 再び沈黙が降りた。
 やはりこれくらいで許してもらおうだなんて甘いのかもしれない。彼女にはこの所の言い分があるはずだ。それを聞いた上で何度でも謝罪するしかない。頭を下げたまま彼女の言葉をじっと待った。

「私、よかったなって思っているんです」
「え?」

 言葉の意味が全然つかめず、思わず顔を上げた。目が合った途端、黒目がちな瞳が柔らかく細められる。

「裏表のない真っすぐな言葉で、外交官としての彼の仕事ぶりを聞けたこと、本当にありがたかったです」
「それは」
「彼の仕事がとても重要で大変なものだってわかっていたつもりでしたが、一緒に働く方の口から直接聞けると全然違いますね。彼のことをしっかり支えて行こう、安らげる場所になれるよう努力しようって、そう思いました」

 穿った見方をすれば、これは盛大な嫌味とも取れる。けれど、そうではないと直感が告げた。

「気づいてらっしゃるんでしょ? 私が首席のことを……その、一方的に……」

 言葉を濁したら、彼女は困ったように眉を下げる。

「それは、なんとなくですが、もしかして、とは思っていました。でもそれに対して私はどうこう言える立場ではありませんでしたから」

 どこか悲しげに微笑んだ彼女は、わけあってプロポーズを断った後に彼の子を身籠っていることに気づき、黙って産んだのだと口にした。

 衝撃の事実に目を見張った。
 そんな話は聞いていない。首席は拓翔君の父親は自分だ、とだけ言っていた。

 詳しく話を聞くと、どうやら結城首席が在米日本国大使館の一等書記官に就任した前後の話だとわかった。
 米国で一緒に働いている間、首席に恋人の気配がしなかったのは彼女のことを想い続けていたからなのだと確信する。

「そう……だったんですね。直接聞いてみないとわからないことばかりですね、世の中」
「ですよね。だからもしよかったら、また職場での彼ことをお聞かせください。あ、北山さんのお話も」
「わたしのも、ですか?」
「はい。お仕事の中身じゃなくていいんです。どこでランチを食べるのかとか、どんな方が働いてらっしゃるのかとか、ささいなことで。外務省の中のことを全然知らなくて」

 そう言われてみれば、私達にとっては当たり前のことでも、ほかから見れば新鮮なこともたくさんあるのだろう。わかりましたとうなずいたら、心底うれしそうな笑顔が返ってきた。

「やだもうこんな時間! そろそろ始めましょうか」
「ですね。よろしくお願いいたします、さやか先生」

 立ち上がった彼女がピタリと停止した。白い頬が見る見る桃色に染まっていく。

「せ、先生はやめてください」
「じゃあ私のことも名前で呼んでくれたら考えます」
「わかりました。きょ、香子きょうこさん」

 あたふたするさやかさんをかわいく思いつつ、「はい」と真面目な顔で返事をして、彼女の後に続きキッチンへと向かった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

モース10

藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。 ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。 慧一は興味津々で接近するが…… ※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様 ※他サイトに投稿済み

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」 上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。 御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。 清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。 ……しかし。 清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。 それは。 大家族のド貧乏! 上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。 おっとりして頼りにならない義母。 そして父は常に行方不明。 そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。 とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。 子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。 しかも貧乏バラすと言われたら断れない。 どうなる、清子!? 河守清子 かわもりさやこ 25歳 LCCチェリーエアライン 社長付秘書 清楚なお嬢様風な見た目 会社でもそんな感じで振る舞っている 努力家で頑張り屋 自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている 甘えベタ × 御子神彪夏 みこがみひゅうが 33歳 LCCチェリーエアライン 社長 日本二大航空会社桜花航空社長の息子 軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート 黒メタルツーポイント眼鏡 細身のイケメン 物腰が柔らかく好青年 実際は俺様 気に入った人間はとにかくかまい倒す 清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!? ※河守家※ 父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない 母 真由 のんびり屋 長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味 次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標 三男 真(小五・10歳)サッカー少年 四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き 次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...