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かりそめ嫁になりまして。
かりそめ嫁になりまして。2
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京都なんてもうこりごりだ。縁がなかったと思って、早くこの街から出て行こう。そうひそかに決意を固めていたら、千里がなにやら物騒なことを言いだした。
「おまえ、今後迷子になるのは命取りだな」
「え!どういうこと⁉」
いくらなんでも迷子になるだけで命の危険につながること、そうあるはずがない。富士の樹海になんて絶対に行かないと昔から決めている。
――が、千里が続けた言葉に璃世は驚愕した。
「襲ってきたやつは退治したが、あの場で姿を隠して一部始終を見ていたやつが間違いなくいる。獲物の横取りは小者の常とう手段だからな。そういうやつによって、おまえが俺の嫁だということが瞬く間に広がっているだろう」
「ええっ!」
「九生の俺に嫁入りした人間を喰ってやろうという愚か者がいてもおかしくない」
「そんな……」
『俺の嫁』と発したのは千里なので、実は既成事実を作られたようなものなのだが、あのときの恐怖を思い出した璃世はそれどころではない。あんな怖い思い、二度としたくない。
「私、今すぐ京都から出ます!」
勢いよくソファーから立ち上がった。
こうなったらしばらく中国地方のとある県でひとり暮らしをしている弟のところに身を寄せよう。1Kのせまいアパートだけど、キッチンの床で寝ればいい。弟には心配をかけるだろうが、命には代えられない。
身ひとつでここに来た璃世には、出て行くための荷造りは必要ない。隣の椅子に置いてあるショルダーバッグを引っ掴んで勢いのまま戸口へ向かった璃世に、後ろから信じられない言葉が飛んできた。
「京都から出れば逃げられるわけじゃないぞ」
ピタリと足を止める。恐る恐る振り返ると、真っすぐに向けられる青みがかった黒い瞳。璃世はその瞳を見つめ返す。
「あやかしのネットワークをなめるなよ。瞬く間に全国区だ、九生の千里がとうとう嫁取りだってな」
「えっ!」
声を上げて驚いてすぐ、カラスのことを思い出した。しかもアリスのようにスマホを使いこなすあやかしもいるということも。
それなら弟のところになんて行けるわけない。たったひとりの大事な家族なのだ。絶対に巻き込むわけにはいかない。
いったいどうすれば――。
「解決方法はある」
「教えて!」
悩んでいたところに投げ込まれたそのひと言に、璃世は一も二もなく飛びついた。入り口へと向けていた足を反転し千里のところに駆け寄ろうとした――そのとき。
「たっだいまーですわ!」
ガラガラと音を立てて勢いよく引かれた戸口に振り向くと、思った通りの美少女が立っていた。
「『たっだいまー』じゃねえ! このお騒がせウサギが!」
「いやですわ、いきなりお客を怒鳴りつけるなんて。どうなっているのかしら、この店は」
「おまっ」
全然悪びれないアリスに、千里が眉を跳ね上げる。
「自分が強引にこいつを連れ出したくせに、途中で置いていくなんて自分勝手がすぎるだろうが」
「べつにわざとじゃないですわよ?」
「あたりまえだ!」
アリスは千里の怒りから逃げるように璃世の方を見た。
「璃世、アタクシてっきりあなたがついて来ているものと思っておりましたの……。早くお店にたどり着きたくて、ちょっとだけ足が速くなってしまったのですわ」
あれが“ちょっとだけ”? と突っ込みかけたが、千里が追い打ちをかける方が早かった。
「おまえがあんなところに置き去りにしたせいでから、こいつは危なく小者に喰われるところだったんだぞ⁉」
「本当ですの⁉」
驚いたアリスが璃世の方を向いた。くもりのない透き通った目に見つめられるだけで、ついさっき文句を言ってやろうと思っていたことがどこかへ飛んで行く。璃世はなんだか言いにくいと思いつつも口を開いた。
「そう……みたい」
するとアリスの顔色がサーっと青ざめ、慌てて璃世のもとに駆け寄ってきた。
「おまえ、今後迷子になるのは命取りだな」
「え!どういうこと⁉」
いくらなんでも迷子になるだけで命の危険につながること、そうあるはずがない。富士の樹海になんて絶対に行かないと昔から決めている。
――が、千里が続けた言葉に璃世は驚愕した。
「襲ってきたやつは退治したが、あの場で姿を隠して一部始終を見ていたやつが間違いなくいる。獲物の横取りは小者の常とう手段だからな。そういうやつによって、おまえが俺の嫁だということが瞬く間に広がっているだろう」
「ええっ!」
「九生の俺に嫁入りした人間を喰ってやろうという愚か者がいてもおかしくない」
「そんな……」
『俺の嫁』と発したのは千里なので、実は既成事実を作られたようなものなのだが、あのときの恐怖を思い出した璃世はそれどころではない。あんな怖い思い、二度としたくない。
「私、今すぐ京都から出ます!」
勢いよくソファーから立ち上がった。
こうなったらしばらく中国地方のとある県でひとり暮らしをしている弟のところに身を寄せよう。1Kのせまいアパートだけど、キッチンの床で寝ればいい。弟には心配をかけるだろうが、命には代えられない。
身ひとつでここに来た璃世には、出て行くための荷造りは必要ない。隣の椅子に置いてあるショルダーバッグを引っ掴んで勢いのまま戸口へ向かった璃世に、後ろから信じられない言葉が飛んできた。
「京都から出れば逃げられるわけじゃないぞ」
ピタリと足を止める。恐る恐る振り返ると、真っすぐに向けられる青みがかった黒い瞳。璃世はその瞳を見つめ返す。
「あやかしのネットワークをなめるなよ。瞬く間に全国区だ、九生の千里がとうとう嫁取りだってな」
「えっ!」
声を上げて驚いてすぐ、カラスのことを思い出した。しかもアリスのようにスマホを使いこなすあやかしもいるということも。
それなら弟のところになんて行けるわけない。たったひとりの大事な家族なのだ。絶対に巻き込むわけにはいかない。
いったいどうすれば――。
「解決方法はある」
「教えて!」
悩んでいたところに投げ込まれたそのひと言に、璃世は一も二もなく飛びついた。入り口へと向けていた足を反転し千里のところに駆け寄ろうとした――そのとき。
「たっだいまーですわ!」
ガラガラと音を立てて勢いよく引かれた戸口に振り向くと、思った通りの美少女が立っていた。
「『たっだいまー』じゃねえ! このお騒がせウサギが!」
「いやですわ、いきなりお客を怒鳴りつけるなんて。どうなっているのかしら、この店は」
「おまっ」
全然悪びれないアリスに、千里が眉を跳ね上げる。
「自分が強引にこいつを連れ出したくせに、途中で置いていくなんて自分勝手がすぎるだろうが」
「べつにわざとじゃないですわよ?」
「あたりまえだ!」
アリスは千里の怒りから逃げるように璃世の方を見た。
「璃世、アタクシてっきりあなたがついて来ているものと思っておりましたの……。早くお店にたどり着きたくて、ちょっとだけ足が速くなってしまったのですわ」
あれが“ちょっとだけ”? と突っ込みかけたが、千里が追い打ちをかける方が早かった。
「おまえがあんなところに置き去りにしたせいでから、こいつは危なく小者に喰われるところだったんだぞ⁉」
「本当ですの⁉」
驚いたアリスが璃世の方を向いた。くもりのない透き通った目に見つめられるだけで、ついさっき文句を言ってやろうと思っていたことがどこかへ飛んで行く。璃世はなんだか言いにくいと思いつつも口を開いた。
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するとアリスの顔色がサーっと青ざめ、慌てて璃世のもとに駆け寄ってきた。
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