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Chapter9*ビール売りの少女@三十路目前
ビール売りの少女@三十路目前[3]—④
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テーブルの上の総菜が綺麗に空になり、あとはビールを空けたらおしまい――というところで、アキのグラスに目がいった。
「大丈夫? 無理して飲まなくてもいいのよ?」
最初の一杯目が半分も減っていない。
やっぱり“トーマラガー”は苦手なんだなぁ、と思っていたら。
「静さんが飲ませてくれたら、」
「イヤです」
秒で却下したら彼が眉を下げた。チロリと恨めしげに見られても、そこは我慢。
「今日は、ビール克服協力はおやすみです!」
ピシャリと言い切ったわたしに、アキが目を瞬かせる。
「今日はもう疲れたからムリ」
うっかり“口移し”でスイッチが入って、更に『もう一回』なんて言われたらかなわない。
昼間のプレゼンでメンタル削られたし、さっきの行為で体力も激減したし。
わたしのHPゲージは残り少ないのよ!
ここは断固として負けてなるものかと気合を入れてアキを見つめ返すと、アキが「ふふっ」と笑った。
「そうだね。今日は『ビール克服』はおやすみにしようか」
「え、」
いやに素直に承諾されて、こっちが拍子抜け。さっきとは逆にわたしが目を瞬かせる。
「今日は僕の番だね」
――はい?
何が『僕の番』なのだろう。
意味が分からず訊ねようと口を開きかけた時、突然立ち上がったアキがキッチンの方へと行ってしまった。
冷蔵庫、食器棚、引き出しを順に開けてから戻ってきた。
「これ。一緒に食べようと思って」
そう言いながら開いた箱の中には。
「……ロールケーキ?」
「そう。このロールケーキ、美味しいって評判だから」
確かに、このロールケーキは食べたことがないわたしでも知っている。
大阪のビジネス街にあるパティスリーで生まれた、“ロールケーキブームの火付け役”とも言われるロールケーキだ。
「はい、あーん」
大きめに切ったケーキをフォークに乗せ、彼がこちらに差し出した。
「え、」
鼻先に突き付けられたケーキが目の前でふるふると揺れている。絶妙なバランスでフォークに乗っているそれは、今すぐにでも落下しそう。
「ほら、はやく。落ちるから」
急かされて反射的に口を開けた。すかさずフォークが口に突っ込まれる。
「ぅむっ」
反射的に口を閉じた。
あまっ………くない?
いや、甘いは甘いのだけど、甘さが控えめで口当たりの軽い生クリームが、しっとりとしたスポンジと一緒に、口の中であっという間になくなってしまう。
「どう?」
「……おいしい」
「でしょ!」
一瞬にして瞳を輝かせたアキが嬉しそうに、「甘さ控えめだけどスポンジや生クリームの味はしっかりとあるから、普段甘いものを食べない人でも食べやすいと思うよ」と言う。
「確かにこれなら一切れくらいペロッと食べれちゃうかも」
「良かった」
そう言って再び差し出されたフォーク。
「あとは自分で」と喉まで出かかった言葉は、あまりに嬉しそうにわたしを見つめてくるアキ見ているうちにどこかに行ってしまった。代わりにフォークに向かって口を開く。
再びミルキーな味と香りが口の中に広がった。
たまには甘いものも悪くないわね。
彼に倣って、嫌いだ苦手だと敬遠せずに、わたしもこれからは甘いものにもチャレンジしてみようかな。彼となら甘いもの嫌いも克服できるかも。
――なんて、我ながら単純。
だけど今はそれも悪くない。始まったばかりの恋に少しくらい浮かれてもバチは当たらないでしょ。
そんなことを思いながら、アキが運んでくるケーキをひと口、またひと口と食べ進めた。
食べ終わった直後に交わしたキスは名実ともに甘くて、わたしは自分がふわふわとした砂糖菓子に包まれていくような気さえした。
だからすっかり忘れていたのだ。
甘い恋に目がくらんだあとのことを。
ふわふわと浮かれるているわたしには、自分のチョロさを後悔する時が目前に迫っていることなんて――
思ってもみなかった。
テーブルの上の総菜が綺麗に空になり、あとはビールを空けたらおしまい――というところで、アキのグラスに目がいった。
「大丈夫? 無理して飲まなくてもいいのよ?」
最初の一杯目が半分も減っていない。
やっぱり“トーマラガー”は苦手なんだなぁ、と思っていたら。
「静さんが飲ませてくれたら、」
「イヤです」
秒で却下したら彼が眉を下げた。チロリと恨めしげに見られても、そこは我慢。
「今日は、ビール克服協力はおやすみです!」
ピシャリと言い切ったわたしに、アキが目を瞬かせる。
「今日はもう疲れたからムリ」
うっかり“口移し”でスイッチが入って、更に『もう一回』なんて言われたらかなわない。
昼間のプレゼンでメンタル削られたし、さっきの行為で体力も激減したし。
わたしのHPゲージは残り少ないのよ!
ここは断固として負けてなるものかと気合を入れてアキを見つめ返すと、アキが「ふふっ」と笑った。
「そうだね。今日は『ビール克服』はおやすみにしようか」
「え、」
いやに素直に承諾されて、こっちが拍子抜け。さっきとは逆にわたしが目を瞬かせる。
「今日は僕の番だね」
――はい?
何が『僕の番』なのだろう。
意味が分からず訊ねようと口を開きかけた時、突然立ち上がったアキがキッチンの方へと行ってしまった。
冷蔵庫、食器棚、引き出しを順に開けてから戻ってきた。
「これ。一緒に食べようと思って」
そう言いながら開いた箱の中には。
「……ロールケーキ?」
「そう。このロールケーキ、美味しいって評判だから」
確かに、このロールケーキは食べたことがないわたしでも知っている。
大阪のビジネス街にあるパティスリーで生まれた、“ロールケーキブームの火付け役”とも言われるロールケーキだ。
「はい、あーん」
大きめに切ったケーキをフォークに乗せ、彼がこちらに差し出した。
「え、」
鼻先に突き付けられたケーキが目の前でふるふると揺れている。絶妙なバランスでフォークに乗っているそれは、今すぐにでも落下しそう。
「ほら、はやく。落ちるから」
急かされて反射的に口を開けた。すかさずフォークが口に突っ込まれる。
「ぅむっ」
反射的に口を閉じた。
あまっ………くない?
いや、甘いは甘いのだけど、甘さが控えめで口当たりの軽い生クリームが、しっとりとしたスポンジと一緒に、口の中であっという間になくなってしまう。
「どう?」
「……おいしい」
「でしょ!」
一瞬にして瞳を輝かせたアキが嬉しそうに、「甘さ控えめだけどスポンジや生クリームの味はしっかりとあるから、普段甘いものを食べない人でも食べやすいと思うよ」と言う。
「確かにこれなら一切れくらいペロッと食べれちゃうかも」
「良かった」
そう言って再び差し出されたフォーク。
「あとは自分で」と喉まで出かかった言葉は、あまりに嬉しそうにわたしを見つめてくるアキ見ているうちにどこかに行ってしまった。代わりにフォークに向かって口を開く。
再びミルキーな味と香りが口の中に広がった。
たまには甘いものも悪くないわね。
彼に倣って、嫌いだ苦手だと敬遠せずに、わたしもこれからは甘いものにもチャレンジしてみようかな。彼となら甘いもの嫌いも克服できるかも。
――なんて、我ながら単純。
だけど今はそれも悪くない。始まったばかりの恋に少しくらい浮かれてもバチは当たらないでしょ。
そんなことを思いながら、アキが運んでくるケーキをひと口、またひと口と食べ進めた。
食べ終わった直後に交わしたキスは名実ともに甘くて、わたしは自分がふわふわとした砂糖菓子に包まれていくような気さえした。
だからすっかり忘れていたのだ。
甘い恋に目がくらんだあとのことを。
ふわふわと浮かれるているわたしには、自分のチョロさを後悔する時が目前に迫っていることなんて――
思ってもみなかった。
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