34 / 88
第五話【優しさ香るカフェオレ】迷い猫に要注意!
[3]ー2
しおりを挟む濃い緑の葉を繁らせた木々を見上げながら遊歩道をゆっくりと進む。
池の水面を風が揺らし、太陽の光がきらきらと反射する。
(気持ちいい……)
ライトグリーンのギンガムチェックのワンピースの裾を揺らしながら、弾むように歩く。
美寧は足を進めるごとに、自分の気分が上がっていくのを感じていた。
正午までまだ二時間ほどあるというのに、照りつける陽射しは真夏を思わせるようなきつさだ。帽子や日傘などのUV対策を一切してない美寧の頭に、容赦ない日差しが照りつける。
公園を抜けるとすぐに商店街のアーケードが見えた。
(れいちゃんが言ってたのはココなのね)
アーケードが陽射しから美寧を守り、ひと心地つく。
初めての商店街に好奇心いっぱいの美寧は、キョロキョロと辺りを見回しながら足を進めた。
「あっ」
目に入ったのは一件の文房具店。
【やなせ文具】と看板に書かれた店のガラスの向こうに、ノートや鉛筆などの文具が並べられているのが見える。
吸い寄せられるように店に近寄ると、センサーが反応したのか、自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
奥から店員の女性が声を掛ける。美寧は店に足を踏み入れた。
(スケッチブックと色鉛筆……つい買っちゃった……)
店から出た美寧の手には、【Stationery Yanase】とロゴの入った袋が下げられている。
(お庭のお花……描いてみたいと思ってたんだよね。)
藤波家の庭を一目見た時から、常々そう思っていた。美寧の数少ない趣味の一つは、色鉛筆を使った写生だ。
(れいちゃんが帰って来たら、お金を使ったことをちゃんと報告しないとね)
所持金をほとんど持たず、着の身着のまままで怜のところに転がり込んだ美寧は、自分のものを購入するのも、怜に頼らざるを得ない。
ちなみに、今着ている服を始めとした“女の子の必需品”は、怜が買って来たもの以外に、彼の友人がくれるお下がりもある。美寧自身が最初から持っていた物は、片手に治まるほどしかない。
(自分のものくらい、自分のお金で買えたらいいのになぁ)
『美寧が欲しいものがある時に使ってください』
表情を大きく変えることのない彼は一見クールに見えるが、とても優しい人だということに、美寧はとっくに気付いていた。
その彼が置いていってくれたお金を美寧が自分のことに使ったところで怒ることはないということは、美寧も重々承知だ。
けれど、今の自分はそんな優しい彼の重荷でしかない。
そのことが、美寧を申し訳ない気持ちにさせるのだ。
物思いに耽りながら商店街を歩いていると、視界の端に白いものが過ぎった。
本通りの脇に伸びる路地の方に目を遣る。電信柱の陰に白い尻尾が見えた。
「猫!」
反射的に身を翻した。アーケードから路地に入り、尻尾の主を追う。
近付いた美寧に気付いた猫は、テテテッと細い路地を駆け出した。
「あ、待って」
声を掛けながら猫を追う。猫は跳ねるように路地の突き当りの道を曲がった。
0
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
課長のケーキは甘い包囲網
花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。
えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。
×
沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。
実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。
大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。
面接官だった彼が上司となった。
しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。
彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。
心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる