耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第五話【優しさ香るカフェオレ】迷い猫に要注意!

[3]ー2

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濃い緑の葉を繁らせた木々を見上げながら遊歩道をゆっくりと進む。
池の水面みなもを風が揺らし、太陽の光がきらきらと反射する。

(気持ちいい……)

ライトグリーンのギンガムチェックのワンピースの裾を揺らしながら、弾むように歩く。
美寧は足を進めるごとに、自分の気分が上がっていくのを感じていた。


正午までまだ二時間ほどあるというのに、照りつける陽射しは真夏を思わせるようなきつさだ。帽子や日傘などのUV対策を一切してない美寧の頭に、容赦ない日差しが照りつける。

公園を抜けるとすぐに商店街のアーケードが見えた。

(れいちゃんが言ってたのはココなのね)

アーケードが陽射しから美寧を守り、ひと心地つく。
初めての商店街に好奇心いっぱいの美寧は、キョロキョロと辺りを見回しながら足を進めた。

「あっ」

目に入ったのは一件の文房具店。
【やなせ文具】と看板に書かれた店のガラスの向こうに、ノートや鉛筆などの文具が並べられているのが見える。

吸い寄せられるように店に近寄ると、センサーが反応したのか、自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

奥から店員の女性が声を掛ける。美寧は店に足を踏み入れた。


(スケッチブックと色鉛筆……つい買っちゃった……)

店から出た美寧の手には、【Stationery Yanase】とロゴの入った袋が下げられている。

(お庭のお花……描いてみたいと思ってたんだよね。)

藤波家の庭を一目見た時から、常々そう思っていた。美寧の数少ない趣味の一つは、色鉛筆を使った写生だ。

(れいちゃんが帰って来たら、お金を使ったことをちゃんと報告しないとね)

所持金をほとんど持たず、着の身着のまままで怜のところに転がり込んだ美寧は、自分のものを購入するのも、怜に頼らざるを得ない。

ちなみに、今着ている服を始めとした“女の子の必需品”は、怜が買って来たもの以外に、彼の友人がくれるお下がりもある。美寧自身が最初から持っていた物は、片手に治まるほどしかない。

(自分のものくらい、自分のお金で買えたらいいのになぁ)

『美寧が欲しいものがある時に使ってください』

表情を大きく変えることのない彼は一見クールに見えるが、とても優しい人だということに、美寧はとっくに気付いていた。
その彼が置いていってくれたお金を美寧が自分のことに使ったところで怒ることはないということは、美寧も重々承知だ。

けれど、今の自分はそんな優しい彼の重荷でしかない。
そのことが、美寧を申し訳ない気持ちにさせるのだ。

物思いに耽りながら商店街を歩いていると、視界の端に白いものが過ぎった。
本通りの脇に伸びる路地の方に目を遣る。電信柱の陰に白い尻尾が見えた。

「猫!」

反射的に身を翻した。アーケードから路地に入り、尻尾の主を追う。
近付いた美寧に気付いた猫は、テテテッと細い路地を駆け出した。

「あ、待って」

声を掛けながら猫を追う。猫は跳ねるように路地の突き当りの道を曲がった。
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