耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第六話【熱々じゅわっとハンバーグ】何事にも初めてはつきものです。

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「あつっ!」

「大丈夫ですか?」

「ふはっ、ら、らいろーぶっ…」

出来たてのハンバーグを頬張ったら、中から熱々の肉汁が滲み出してきて、美寧は口の中を少しだけ火傷してしまった。
はふはふと口を開け閉めしてから、何とか飲みこむ。

「ちょっと待っていてください」

と言って席を立った怜がキッチンから戻ってくると、氷入りの水の入ったグラスを美寧に差し出した。

差し出されたグラスを受け取って口に含むと、キンと冷えた水が火傷に当たって気持ちが良い。そうやって何回かに分けて水を含んでいると、痛みが引いて行った。

「ありがとう。れいちゃん」

「どういたしまして。気を付けて下さいね?」

「うん」

初めて自分で作ったハンバーグを早く食べてたくて、勢いよく口に入れたのが失敗の元だった。

「…どう?ちゃんと出来てる?」

美寧はおそるおそる怜の顔を覗き込む。
自分ではまあまあの出来だとは思うけど、何せ火傷に気を取られてちゃんと味わえなかったし、怜が食べても美味しいと思えるのかが気になってしまう。

「とても美味しいですよ」

「本当!?」

「はい。初めて作ったとは思えない出来です」

「良かった~~~!!」

肩の力が抜けて笑顔になる。
ホッとした美寧はハンバーグをもう一口、今度はゆっくりと口にした。

怜が焼いてくれたハンバーグは、こんがりと程よく焼き色が付いてとても美味しそうに見える。残念ながらまだ美寧にはこんなに上手く焼く技術はないが、そのうち出来るようになりたいとも思う。

(次は焼き方も、ちゃんとれいちゃんに教わらないと……)

口に入れたハンバーグは、噛んだ瞬間じゅわっと肉汁が溢れ出てきて、肉の甘みが口の中いっぱいに広がる。合わせるソースは怜特性のデミグラスソースで、ほろほろと解けるように消えていくハンバーグとの相性は抜群だった。

「美味しいね」

噛めば噛むほど染み出てくる味わいは、まるで今の幸せな暮らしそのもの。

こんな風に火傷するほど何かを急いで食べたいと思えるなんて、少し前の美寧には思いも寄らないことだった。
そう考えると、この火傷だって幸せの証に思える。

胸の奥がじんわりと温かくなると同時に、潤み始めた瞳を怜に気付かれたくなくて、美寧は食時に夢中になる振りをして、視線をテーブルの上に固定した。

***

美寧が風呂から上がってくると、怜はソファーで本を読んでいた。そんな今、彼は珍しく眼鏡を掛けている。どうやら何かを読んだり書いたりする時だけ、彼は眼鏡をかけるらしい。美寧がそのことに気付いたのは、一緒に暮らし始めてからしばらく経ってからだった。


「それで?」

「うん、そのまま帰っちゃったの、ユズキ先生」

「そうですか」

美寧を藤波家まで送り届けたユズキは『私もたまには早く帰らないとね』と言って、美寧を車から下ろすとそのまま帰ってしまった。

「お茶をご馳走になった上に、今日も色々な物を頂いちゃって……。だから、ちゃんとお礼を言いたかったんだけどなぁ」

ユズキ曰く『女の子の必需品』と言うものを、いつも美寧の為に置いていってくれる。
今回車から降りるときに渡された紙袋の中には、お下がりの洋服や化粧品、可愛らしい夏用のルームウェアまで入っていた。
怜の家に来た当初から、こんな風にユズキには色々とお世話になりっぱなしなのだ。

「またそのうち来るでしょうから、その時に言えば良いですよ。一応俺からもメールをしておきます」

「うん、ありがとう、れいちゃん」

それから美寧は、いつものように濡れた髪を怜に乾かしてもらった。

「ありがとう」

きちんとブロウされた長い髪は、絡まることなくサラサラと腰に落ちている。

「結んでおかなくて暑くないですか?」

「へいき。エアコン効いてるし」

美寧は自分の髪を全然扱えない。ドライヤーもそうだが、結ぶことも、だ。
一つ結びすらもちゃんと出来なかった美寧は、ここに住み始めた当初、怜に「長い髪を短く切りたい」と打ち明けた。自分では何一つまともに出来ないことが情けなくて堪らなかったからだ。
けれど怜はやんわりとそれを押し留めた。

『短くするのはいつでも出来ますよ?それよりも少しずつ練習してみたらどうですか?』

そう提案した怜は、美寧にやり方を教えながらも結局はほとんど彼がやってしまう。

ラプワールにアルバイトに行く日は必ず彼が髪をまとめてくれる。
彼がしてくれる髪型は多様で、マスターや常連さんからの評判も良い。三つ編みや編み込みなどを使ってまとめ髪にしてくれるのがほとんどで、美寧は自分の頭がどんなふうに作られているのか見当もつかないくらいだ。

とはいえ、美寧も一か月以上努力の甲斐あって、後ろで一つにくくるくらいのことは出来るようになった。三つ編みはまだほど遠いけれど―――。

「火傷の具合はどうですか?」

ドライヤーを片付けた怜が、ソファーに戻ってきた。

「もう何ともないよ、大丈夫」

本当はまだ少しだけヒリヒリするのだけれど、そう言っておかないと怜が気にしてしまうだろう。
隣を見上げると、シルバーリムの奥の瞳が「本当に?」と覗き込んでいる。

「本当だよ?」

ニコッと笑っていったが、それでも口元に視線を感じるから、「証拠に」と大きく口を開けた。数時間前にユズキにしたのと同じだ。

「ほら、大丈夫でしょ?」と言おうと思ったその時、怜の顔がゆっくりと近付いて来た。

濡れた瞳が見下ろしている。
夜露に映る星屑のように美しい瞳に吸い込まれそうで目が離せない。

「痛みますか?」

低い声が言った。何のことか分からない。

ぽかんとする美寧に、怜は口の端をかすかに持ち上げると「火傷」と短く言う。
美寧は慌てて首を左右に振った。

「良かった―――。」

涼しげな目元を緩ませた怜は、そのまま美寧の額に、ちゅっと口づけた。
そのまま、美寧の頬や瞼に何度も音を立てる。

「れ、れいちゃん、」

こんな風にソファーの上に押し倒されてキスをされるのは、“恋人”という肩書を背負ってから初めてだ。
額、頬、瞼、鼻―――怜は美寧の顔の至る所に、音を立てながらキスを降らせてくる。
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