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第七話【リメイク♡ロコモコ弁当】いつも何処でも想うのは
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「帰りはおそらく七時くらいになると思います。出掛ける時は戸締りを忘れずに。あと、今日も暑いですので熱中症にはくれぐれも気を付けて。あと、迷子にならないように。」
「分かってるもん。そんなにしょっちゅう迷子にも行き倒れにもならないんだから」
頬を膨らませ、じろりと上目使いで恨めし気にこちらを見上げるミネに、怜は眉を下げる。
(そんなふうに睨んでも可愛いだけだな……)
怜の口に出さない心の声が、ついラフなものになる。
普段は丁寧語を使う相手に対しては、心の声も自然と丁寧語になるのだが、近頃美寧に対しては、それがうっかり崩れてしまう。きっと彼女の前で自分はずいぶん“素”なのだろう。
高熱で倒れていた美寧を家に連れて帰った当初は、彼女に警戒されない為に“准教授スイッチ”を入れて接していた。
怜にとって“ですます口調”は、一定の距離を保つ為になくてはならない処世術。女学生や女性職員に、無用な好意を寄せられず円滑に研究を進めるための術だ。
美寧にもそのつもりだった。
(熱が下がったら彼女は自分の家に帰るだろうし、異常に警戒されたり逆に興味を持たれても困る)
通りすがりの人助けのつもりだったあの時の怜は、そう考えたのだった。
子猫のように丸い瞳で怜を見上げている美寧を、無言で見つめ返す。怜の半歩分離れたところ彼女の膨らんだ頬は、うっすらと赤く色づいていた。
小さな唇は熟れた果実のように怜を甘く誘う。吸い寄せられるように顔を近付けた。
途端、美寧はピクリと明らかに肩を跳ね上げた後、体を一歩後退させた。
「ミネ?」
「あっ……えっと…、うん、分かってるよ。大丈夫。出る時は帽子も日傘も水筒も持って出るし、戸締りもします。暑いし迷子になるほど遠くにも行かないから」
何かを誤魔化すように早口に説明し出した美寧に、「もう出ないと遅れちゃうよ?」と追い立てられるように怜は家を出たのだった。
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(警戒、されている……?)
初めてキスをした翌日の、遠巻きに怜を見ながら警戒心丸出しの子猫のような姿を思い出す。
(あれは今思い出しても可愛すぎるな)
ふっと笑いが漏れそうになるのはなんとか堪えるが、口元が緩むのは抑えきれない。
竹下に気付かれないうちに、怜はその口元と逸れそうになった思考を元に戻した。
(俺に何か言いたい事や聞きたい事でもあるような、そんな感じもするのだけど……)
もしかしたら、少し強引に進め過ぎたのかもしれない。
そんな考えが怜の頭に浮かぶ。
美寧が“恋人練習”だと言い出したことを良いことに、自分都合でそれに乗じているという自覚が怜にはあった。
美寧は何も知らない。年の割に純真無垢だ。
男女の間で行われることを、彼女の耳に入れるような輩がいない場所できっと育ったのだろう。
それでも年頃の同級生などの集まる学校生活などでは、その手の話を避けて通る方が難しい。
(奥手な友人しかいないかったのか…もしくは、よほどの箱入りか……)
彼女の安寧を守るために、敢えて訊かないようにしていることは数多くある。
一か月半も生活を共にしながら、それより前の彼女のことを、怜は未だよく知らない。
知っているのは彼女の名前が“杵島美寧”ということ。年齢。そして亡くなった祖父をとても慕っているということ。それだけだ。
(お互い様―――だな)
過去を語っていないのは自分も同じだというのに。
それなのに、過去も含めた美寧のすべてを自分のものにしたいと思ってしまう。近くに寄れば触れたくなるし、触れればもっと欲しくなる。
“恋人”という肩書を得て、美寧に触れられるようになってからというもの、怜は自分の中にこんな風に衝動的な熱情があったことに気付かされた。
そのせいで数日前も美寧に痛い思いをさせてしまったことは、今も反省中だ。
(悲しませたり苦しませたりしたいわけじゃない……)
大事にしたい。笑顔を見たい。
けれどそれと同じくらい、自分の腕の中で彼女を啼かせたい。
そんな青臭い二律背反に、この歳になって揺らぐとは思っても見なかった。
今まで怜が付き合ってきた女性たちは、得てして皆自分と同類だった。
程よい距離感。相手を尊重した上で、束縛しすぎず干渉しすぎない自由な付き合い。
それはまさに“大人の付き合い”だった。
怜も自分なりにその時の相手を大事にしてきたつもりではあったが、こんな風に自分のテリトリーの中に完全に入れ込んでしまうのは、美寧が初めてのこと。
その証拠に、怜は自分の自宅で手料理を恋人に振る舞ったことも無ければ、自宅に呼んだことすら無かった。
父母が建てたあの家は自分にとっての聖域で、本当に気の置けない相手にしか入って欲しくない場所なのだ。
そんな怜の懐に、気付いたら美寧がいた。
美寧と暮らし始めてしばらく経ったある日、唐突にそのことに気付いた怜は、軽く戸惑った。
なんの違和感も無く、まるでそれまで一緒に暮らしていたかのように馴染んでしまった美寧。
当時は美寧の体調が思わしくなかったこともあり、何くれとなく彼女の世話を焼いているうちに、二人暮らしが当たり前のようになっていた。
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