耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第十一話【たこ焼きくるくるパーティ】お客さまもやってくる?

[3]ー2

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「ん、」

唇同士をしっとりと重ね合わせた後、喰むように下唇を挟まれて、背中に甘いしびれが走る。思わず甘い吐息が漏れそうになるのを、両手で包むように持っていた紅茶の缶に力を込めることでなんとか堪えた。

ガラス障子一枚を隔てた向こうの部屋には高柳がいるというのに、怜はなかなか美寧を離そうとしない。いつのまにか怜の片手は美寧の腰、もう一方は首の後ろに回されていて、離れようと身を捩じらせると反対に引き寄せられて密着してしまう。

長い口づけに息苦しくなり、美寧が酸素を求めて薄く口を開いたのを狙ったかのように、唇の間から舌が差し込まれた―――その時

「焦げるぞ」

美寧が本物の猫だったら一メートルくらいは飛び上がっていたかもしれない。
それくらいに驚いた美寧とは逆に、怜は何事も無く振り返った。

「――ナギ」

「邪魔をして悪いが、アヒージョがそろそろ焦げそうだ」

「了解。すぐ行く」

飄々とした様子の怜に高柳はふぅっと短く息をつくと、ちらりと視線を下にずらした。目が合った美寧は固まる。

「ミニケーキは皿に上げておいたぞ」

美寧は自分に向けて言われた言葉に、まばたきを二度ほどしてから

「あ、ありがとう…ございます……」

真っ赤な顔のまま小さくお礼を言った。

ひと月ほど前、美寧と怜はとある約束を交わした。

『もう他の人には料理を作りません』

そう、怜は美寧に言った。その代わりに、と怜は美寧に言った

『キスするのは、俺とだけ。これからずっと』

と。

さっきのキスはそれを確かめるものなのだと分かっている。
分かっているけれど―――

(ううっ…ナギさんに見られた~~~っ)

戸棚と怜に挟まれる形になっていた美寧には、高柳がキッチンに入ってきたことに気付かなかった。高柳の方に背を向けていた怜に抱きこまれた状態だったから、正確にはキス自体を見られたわけではない。

けれど、キッチンでキスしていたという事実を知られただけで、美寧は顔から火が出るほど恥ずかしい。ただでさえ男性に免疫のないので、そんな場面を見られてしまうなんて羞恥の刑かと思えるほどだ。

席に戻ってからずっと、美寧はいつまでも赤いままの顔を上げられず、焼き上がってから少し時間の経ったミニケーキを黙々と食べていた。

(なにもお客さまがいるときにあんなことしなくても!)

声には出さずに怜を非難する。
そうだ、自分は悪くない――そう開き直ると、恥ずかしさよりも腹立たしさが勝ち始めた。
けれど客人の前で怜を非難することは憚られて、行き場のない怒りを抱えた美寧の目にワイングラスが入ってきた。

考えるより早くそれに手を伸ばす。隣の席の怜が気付くより早く、グラスの底に残っていた生成りがかった透明の液体をグイっと煽った。

「ミネっ」

怜の慌てた声が聞こえたが無視して飲み込むと、喉を熱い液体が流れていく。
本来なら香りや味を確かめながらゆっくりと飲むのが正しい作法なのだろうが、そんなこと知ったこっちゃない。

(私だって、これくらい飲めるんだもん)

グラスの中にワインはほんの少量しか残っていなかったのに、飲み下した瞬間からぼわっと体が熱くなっていく。
これで多少顔が赤くても、それはお酒のせいなのだ。

「ミネ…大丈夫ですか?」

「………」

『大丈夫』と返事をする代わりに小さく頷く。
ふわふわと思考がおぼろになって怒りは収束したけれど、なんとなくまだ口を開く気にはなれない。

さっきからずっとぷくっと膨らませたままの頬がそろそろ少し辛くなってきた頃、斜め前から低い声が耳に届いた。

「俺は何も見てない。だからそんなに気にしなくていい」

反射的に顔を上げると、真顔の相手と目が合った。

「悪いのはフジこいつだってことは分かっている」

一瞬美寧の隣に視線を移動させた高柳は、再び視線を戻した。

「ユズキが言っていたことは本当だったんだな。こんなフジは初めてだ」

高柳の顔は真顔のままだが、声の感じから彼がしみじみと驚いていることが伝わってくる。

「俺が知っているフジは、こんなふうに誰かに執着するような奴じゃなかった。ユズキが言っていた『フジが拾った子を溺愛している』と言うのは、猫相手でも誇張が過ぎると思っていたんだが――」

高柳は一旦言葉を切った後、美寧の顔をじっと見てから

「冗談ではなかったようだ」
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