裏切りの扉

" 心臓がドキンドキン 、心臓発作で死ねるものならば 3 "

3.

「その点は、DNA鑑定してもらっても構わないと言われてる。
　彼女には堕胎してくれるよう何度も頼んだんだ。
　だけど、認知だけしてくれれば俺には迷惑かけないから
認知だけはしてほしいって。

　不妊で産めないと思ってたのに妊娠できた。
　年齢的にもこの機を逃せばもう２度と自分の子を持つことは
できないだろうから、どうしてもお願いしたいと言って譲らないんだ。
　困った」



　ほんとだわね、困った。


　認知ですか、息子、翔琉かけるに異母兄弟ができるなんて、
なんてこと!
　そんなことがあっていいのだろうか。



　先ほどまで人事のように夫の浮気の話を聞いていたけれど
認知の２文字が強く深く私の心に突き刺さり、それらは不安となって
雪崩のように私の五感の隅々まで流れ込んできた。


　嘗て経験したことのない激しさで私の心臓がドキンドキン
言い始めて止まらなくなった。

　それは朝方、眠りにつくまで鳴り止んではくれなかった。


　こんなに心臓がドッキンドッキン鳴っているのにどうして私は
心臓発作で死なないんだろうって思った。


　すごく寝苦しい時間を過ごし、そうこうしているうちに時間薬で
苦しさからようよう解放され、私は眠りにつけたのだった。


　人の心臓があんなに鳴ることができるなんて
人の身体というか、臓器の不思議を感じた。



　あぁ……臓器は人間にただくっ付いているだけの細胞から成り立つ
器官じゃないのだ。



　心っていうヤツはひとつひとつの臓器に付随しているのかもしれないと、
嘗ては考えたこともないことに思い至った。


　科学や医学のことなんて、知らないけれど。



　翌日から私は夫と同じベッドで眠ることが出来なくなってしまった。
　夫の近くにいると吐き気が止まらなくなるのだ。

　この現象にも驚いた。



　人間は結構しぶとい面もあるけれど、逆に柔やわな面も
あるものなんだな、と。



　その後、夫には風邪気味だからと、もっともらしい理由をつけて、
私は息子の部屋で寝るようになった。