性徒会執行部!!

ふうまさきと

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五章

中間テスト 3

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「仁、悠斗にあれを渡してくれ」

 あれってなんだろう。

「五分ほど待ってて」

 その何かは五分ほどかかるらしい。

 その待ち時間を利用して、何かを飲もうとすぐ横にあるコンパクトキッチンに行ってみると、食器棚に悠斗と書かれたマグカップが置かれていた。

 どうやら専用のコップを用意してくれたみたいだ。うれしい。

 ありがたくそれを取り出し、適当に置かれていたインスタントの珈琲粉を入れてお湯を注ぎ、砂糖を入れて、スプーンでかき回してから席に戻る。

 ちょうど何かが完成したみたいで、パソコンの横に置かれているプリンターが音を鳴らして紙を数十枚はきだした。

 いったいなんだろう?

 最後の一枚が印刷されると、渚先輩がそれを井上先輩に手渡しして、俺の目の前に置かれる。

 数枚めくって見てみると、テストの問題用紙と回答用紙だった。

 過去問っていうやつかな?

「これは?」

「今回のテスト問題」

 なんだと!?

「え? 渚先輩? どうしてそんなものを!」

 これが今回のテスト問題だと? 暗記すれば満点だって不可能じゃない!

 瞬きも忘れて用紙を見ていると、渚先輩が椅子を回転させてこっちを向いた。

「如月、今どきテストってどうやって作ってるかしってるか?」

 今どき、つまりパソコンか? 今日受けたテストが手書きだとは思えない。

「そりゃパソコンですよね?」

「つまりハッキングを掛ければ?」

「渚先輩、一生ついて行きます」

 ハッキング、というより渚先輩のクラッキングはやった駄目なことは当然している。けど、ばれなければいいんだよね!

 それに、ばれたってやったのは渚先輩だ。もし怒られることになった時は遠慮なく屍の上を歩かせてもらおう。

「冗談だけどな」

 なん、だと?

「じゃあこれはいったい?」

「ここ数年の過去問だけど、それだけを勉強しても70点は堅い。それに気付かないか?」

 過去問をよく見てみると、似たような問題が多かった。出題の仕方といい、問題といい。

「基本的には同じ先生が問題を作ってるから、似たような問題になる。仮に教科の教師が転任して、新しい人が赴任しても、前年度の問題を参考に作ることが多いみたいだから、必然似たような問題が多くなる」

「ありがとうごさいます」

「俺はもうゲームに戻るから、話しかけるなよ」

 それだけ言い残して、ヘッドホンを被ってパソコンと向き合った。

 過去問か、今回のテストではないにしても、これがあれば一夜漬けでも高得点が望めそうだ。

 とりあえず明日の科学と数学Ⅰの過去問だけ勉強するか。分からないところは先輩にでも聞こう。



 腹が減ったな……。

 それもそのはず、あれから勉強して二時間、昼を超えている。

 まさか学校で勉強するだなんて思っていなかったから、何も買って来ていない。テスト期間中は学食も閉まっているらしいし、仮に開いていても財布すらないから困った。

 ついにお腹が悲鳴を上げて音を鳴す。静まり返っていただけに、恥ずかしい。

「ああ、もうそんな時間か、昼にしよう」

 俺のお腹の音を聞いた井上先輩は、掛け時計を確認して言った。

 すると、他の先輩たちも一旦勉強を止めて、それぞれ弁当袋やコンビニ袋を取り出した。

 もちろん俺には食べ物は何もない。幸いにも飲み物だけは色々と取りそろえられていたし、冷蔵庫に入っているお茶なども飲んでいいらしい。

 名札の付いてあるものだけはそれぞれのものらしく駄目だそうだけど。

「居残って勉強するって思ってもなかったんで、何も持ってきてないんですよね」

「なるほど、だったら私のを少し分けよう。ちなみに手作りだ」

「そうだね、僕もコンビニので申し訳ないけどこれを」

 井上先輩は食器棚から皿を取り出して、玉子焼きと金平ごぼうを少し。才華先輩はコンビニのおにぎりをくれた。

「やるよ」

「私のもあげましゅ!」

 吾妻先輩は高タンパクな食事らしく、鶏肉を炒めたもの。美波先輩からはタコ足ウインナーと、肉詰めピーマンをくれた。

「ありがとうございます、助かります」

 決して多くはないけれど、帰るまでは十分持つ量だ。

 先輩たちが優しくて助かった。

「いただきます」

 まず最初に、井上先輩からもらった玉子焼きと金平ごぼうを食べることにする。

 手作り……か。

 まず玉子焼きを一口。

 出汁の味と玉子の風味が口に広がった。なるほど、井上先輩は出汁派か。金平ごぼうも甘辛く煮つけられていて美味しい。

 井上先輩……料理上手いな。

 ふと、家に帰ると料理をしていたエプロン姿の井上先輩が、お玉片手に出迎えてくれるというのが思い浮かぶ。

”ないから”

”まけられない!”

 それを悪魔が台無しにして、なぜか天使が対抗心をむき出しにしている。結局は俺なんだから、対抗心なんてむき出しにしても意味ないのに。

 次に吾妻先輩がいれてくれた鶏肉を食べてみると、しっとりとしていて、ぱさつきが一切感じられなかった。弱火から炒めてるんだろう。料理を知っている親なんだな。

 それから美波先輩のいれたピーマンの肉詰めとウインナーを口にする。少し濃い味付けが、ごはんによく合いそうだった。

「美波先輩のって、もしかして作ったのは……」

「うん、私! 美味しくなかった、かな?」

 少しうるうると瞳を潤わせて、今にも泣き出しそうな小学生にも思えた。それはそれで愛らしくて大変可愛い。井上先輩といい、美波先輩といい、非の打ちどころがないような気がしてならない。

 なぜ神は先輩たちに二物も三物も与え、俺には一つも与えてくれないんだ! 理不尽だ!!

「美味しいです! 凄く!」

「よかっ――」

 舌をチロっと出して涙目になっている。どうやら勢い余って噛んでしまったらしい。

「いひゃい……」

 体を小動物のようにプルプルと震わせている。

 才華先輩が美波先輩を撫でようと左手を伸ばしかけ、拳を握って机の上で震わせていた。

 撫でたら嫌われるのかな? 才華先輩の容姿でも苦労はあるんだなぁ……。

 俺はそんな才華先輩を見つつ、貰ったおにぎりを頬張る。中から鮭が顔を覗かせていた。

「あれ? げんげんは言わないの?」

 才華先輩は美波先輩から意識をそらすためか、吾妻先輩を話題に上げている。

 言うってなんだろう?

「別に、必要ないだろ」

「そう?」

「えっと、何の話ですか?」

「そのお弁当も手作りってこと」

 な!?

「驚き過ぎだろ。筋肉のためと自分で作り始めたんだよ、文句あるか?」

 あまりにも以外過ぎた。こんな見た目の人が料理も上手いだなんて。

 才華先輩ならフランス料理だとかイタリア料理なんかを、さらっと作っていてもなんとなく分かる、けど。吾妻先輩のこれは別だろ!

「文句は、ないです」

 しいて言えば、美味しいというのが文句くらいか。

 三人もが手作りとは驚きだ。しかも、全員料理が上手い。

 こうなると、何かしらの欠点を見つけたくなってしまう。

 少し盛り上がって食事をしていると、渚先輩がパソコンを置いてある机の引きだしを開けて、何かを取り出してこちらに放ってきた。

 あわてて受け取ると、板チョコだった。

 勉強で脳を使うから糖分を摂取しろってことか?

「ありがとうございます」

 渚先輩の優しさなのかもしれない。

 食事も終えたことだし、チョコを片手に午後の勉強を乗り切ることにした。
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