8 / 12
第1章
〈Episode.Ⅵ お姫様〉
しおりを挟むEpisodeⅥ. お姫様
辿り着いた静かな中庭にある噴水の淵に、彼女は腰掛けていた。
「お姫様、貴女は一体何がしたいんですか?」
金の波打つ髪を風に靡かせた彼女は、何も答えず微笑んでいる。
「いくら貴女の物語は止まっていると言っても、それは魔法がある間だけなのは分かっているでしょ?」
彼女は答えない。
「それとも、貴女も絶望でもしましたか?」
「絶望ですって? 私は諦めるつもりも、止まったままでいるつもりもないわ。」
金の中の深い海の底のような濃い碧に力強いものを見せ、彼女はやっと口を開いた。
「でしたら、どうしてこの様な真似を?」
「あら?私が中庭にいるのは、私の所為ではないわ。その答えが欲しければ、シルヴィにお願いしなきゃダメね。」
その言葉に今まで会話を見ているだけだった彼女は、口元に笑みを浮かべたまま答えた。
「その前に貴女はこちらに来なさい。そこでは全て駄目になる。」
「それもそうね。」
腰掛けた噴水の淵から軽やかに、彼女はこちらへと飛んだ。
「忍び耐えた時は終え、物語は動き出す」
私の眼の前に彼女が降りた途端、噴水の水が動き出し彼女のいた場所へ飛沫が飛び始めた。
「いつから使っていたのかは知りませんが、ありがとうございます。」
「礼には及びませんわ、この程度のもの魔法とも呼べませんもの。」
時を止める・・・いや、物語そのものを止めていたのか。
私は彼女の魔法を全ては知らない。
けれど、彼女は知っている。
魔法は私の知っている2つと合わせて、あと4つ。
「シルヴィはホント凄いわね。その魔法で出来ないことなんて、無いみたいだわ!」
お姫様は無邪気に喜ぶ。
「あら?私にも出来ないこともありますよ、寧ろ出来なかったからこそここにいるんですもの。」
魔女は優雅に答えた。
「そうかしら? でも魔法を使って私を助けてくれたシルヴィは、私の魔法使いね!」
手を合わせ、今にも飛び跳ねそうな喜び。
「お姫様、私残念ながら魔女ですの。でも貴女だけの魔女、ということでしたらお引き受けしますわ。」
優雅な一例をした、魔女。
「まぁ、嬉しい!!魔女でも構わないわ、ぜひ私のお友達になって頂戴。」
魔女の手を取る、お姫様。
「そろそろ、その茶番劇を終わりにしませんか? お姫様のお怒りは後ほど伺いますので、とりあえず状況説明を。」
にこにこと微笑みながら、動き出したギャラリーを無視しながら茶番を始めたニ人をひとまず止める。
つまらなさそうな表情の二人を、無視する。
「アンバーはつまらないわ。この程度のことで、動揺しててはダメよ? 物語にイレギュラーは付きものだもの。」
「お姫様、私の名前はカルディナですよ。」
「あら、ごめんなさい!私ったらお友達の名前を間違えるなんて・・・。 それと、私のこともお姫様なんかじゃなくレナータとお呼びください。」
「あぁ、それは失礼いたしました。レナータ、とりあえず場所を移動しましょう。こちらは少々騒がしく、なりそうですから。」
お姫様、レナータは私のその言葉に頷きいつの間にか姿の見えなくなっている銀の魔女のことなど気にも止めず、私の手を取った。
「でしたら、とってもいい秘密の場所があるの! 教えてあげるわ、ついて来て。」
そう言いながら彼女は、中庭から学内へ入る為のガラス戸へと私を引き込んだ。
お姫様、どうか秘密の意味を今一度お調べください。
0
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる