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第1章
EpisodeⅦ. 世界
しおりを挟む彼女が目の前でガラス戸から中に入った時は、ギョッとしたものだが良く良く考えずとも彼女の魔法に落ち度がある訳がないので、きっと都合よくあの場は書き換えられているだろう。
それにしても
「相変わらずここは、広いですね。」
「そしてとっても、静かよね!」
私の呟きに被せるように彼女は言った。
「まぁ、向こうの世界とはそもそも世界としての構造が違いますから、音がないのは何ら不思議はないんですけどね。」
「まぁ! カルディナもここへ来たことがあったの?」
「ええ、まぁ。 入り口さえあれば割とこれるところなので、かと言って私にとってここは少々厄介なので好んではきませんよ。」
「なぁーんだ、つまらないわ。驚く顔が見られると思ったのに。」
愛らしいく薄桃の頬を膨らませた彼女は不満そうに呟いていた。
そんな彼女の人らしい仕草や感情を見ると、何故か少しだけ落ち着く。
静かな空間に柔らかな空気が満ちてきた頃、声が掛けられた。
「ところで御二方、何時まで徘徊していらっしゃるおつもりかしら。」
先ほどまで風も空気も乱れることのなかった空間に、ふと目の前に現れた銀の姿。
「シルヴィ、迎えに来てくれたのね! 丁度貴女のところへ行こうと思っていたところなの。」
「そんな事は分かっておりますわ、また勝手にここまで入ってきておいて探索だなんて言われたら閉じ込めてやりますもの。」
彼女の言葉に銀の魔女は、目を潜め呆れたように言った。
「それはそれで楽しそうだわ、でもまたの機会にしましょう。ところで私の二人の魔法使い様、お姉様の様子は如何かしら?」
つい一瞬の間に無邪気なお姫様だった彼女は、その言葉を吐いた次の瞬間には鋭く逃げは見逃さない瞳で問いかけた。
そんな彼女の問いに、さして考える間も無く銀の魔女は答えた。
「そうですね、相変わらず眠っていますわ。 悔しいですが、あの魔女の魔法は限定的な状況さえ重なれば恐らく今代随一ですもの。」
「それでも氷は溶けてきているの、だからそろそろクイーンにお願いしなきゃいけなくなりそうね。」
銀の言葉に続けるように私は答えた。
「クイーンかぁ、彼女も魔法使いなのよね? ずっと気になっていたのだけど、何故彼女は色でなく、女王なの?」
私の言葉にお姫様は、小首を傾げた。
「彼女は貴女の言った通り、私達とは違う魔法使いだからですよ。」
「違う魔法使い・・・えっと、つまり制約のない魔女ということかしら?」
「簡単に言ってしまえば、そうなりますね。 そもそも魔法が使えるだけであって彼女は魔女ではないですから、魔女という表現に違和感はありますが。」
だからこそ、彼女の氷は他の魔法の中でも魔法になる。
他の魔法の中で、魔女の魔法は弱くなる。
「でも彼女の名は、名ではないわ。 どうして女王 なの?」
「それは彼女がそれを望んで、その望みに答えた魔法があったからですわ。」
何処から出したのか一人優雅に椅子に腰掛けた銀の魔女は、面白そうな顔で答えた。
「まぁ、兎に角お姫様は気にしなくてもいいことです。 思考は時に、余計な悩みを生みます。貴女に悩んでいる時間など、無いでしょう?」
私の問いにお姫様の瞳は揺れた。
「そうね、そんなことよりも女王にお願いしに行かなければならないのだから、私は何を用意すればいいかだけを考えなきゃ。」
揺れた瞳を細め、彼女は微笑んだ。
「その事なのですが、恐らく何を用意したところで彼女は受け取りませんよ。」
「え? 困ったわ、どうしたらいいのかしら。」
困惑して眉を落とした彼女に、極めて優しく声をかける。
「彼女は魔女では無いのですから、対価は入りません。ただ覚悟と想いを示せばいいだけなのですよ、それに彼女は答えるだけです。」
「そうなの? だったら早く行きたいわ、お願いシルヴィ・・・連れて行ってくれない?」
「それが貴女の望みであるなら、私は何処へなりともお連れしますわ。」
「ありがとう、私の銀の魔法使い様。」
彼女と魔女の掛け合いを見つめる。
女王に会うのはいつ振りだろう。
前に会った時彼女は少しだけ、苦手だった記憶がある。
魔女に優しい魔法使いである、変わり者。
そしてまた、お姫様に惹かれる魔法使い。
きっとお姫様の願いを叶えるにふさわしい、キャスト。
時は溶け始め、時間を刻みはじめた。
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