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第2章
氷の女王
しおりを挟む可哀想なお姫様、さぁ顔をあげなさい、
舞踏会へ行くのは、貴女よ
民が望むのは、貴女よ
世界を導くのは、貴女よ
幸せにおなりなさい。
お姫様は皆、平等に幸せになる権利があるのです。
※※
広く続く物語の日常は、酷く平凡でつまらないものだ。
キャストが揃ったところで、物語は日常からの加速からしか始まらない。
つまり、日常無くして非日常は訪れない。
けれども読み手はそんなもの、欠片も興味などない。
欲しいものはドラマチックで悲劇的なハッピーエンドまでの険しい道のりだけ、そんな身勝手な思いなど魔女には関係ない。
魔女とて名のないキャスト、魔女は気まぐれなのだから動きたい時にしか物語を動かさないのは当たり前。魔法使いは役目を果たすために付き添うもの、魔女なとフラリと現れポッと気まぐれに魔法を与え、あとは知らんふりがセオリーというものだろう。
ましてや今必要なのは魔法使い。
「でもどうしたら、氷の女王に会えるかしら? 女王という事は、国にいらっしゃるということよね。私彼女の国も名前も行き方すらも分からないの。」
お姫様は眉を下げ、銀の魔女へとといかけた。
「あら、何か勘違いしていらっしゃるようですが、彼女は女王と名のあるだけで、実際の妃ではありませんわ。」
問いかけられた銀の魔女は、サラリとなんともないことのように答えた。
「そうなの? ではなおのこと、どうしたら彼女に会えるのか分からなくなってしまったわ・・・そうだ、カルディナ。貴女は彼女と知り合いだったわよね、居場所を知っていたりしないかしら?」
あぁ、こうなることは勿論読んでいましたとも。
「ええ、知ってます。 居場所どころか姫が望むのであれば、今すぐこの場にお呼びすることも出来ます。どうしますか?」
引きつる頬をどうにか抑え、キョトンとした姫の小さな口から零れる音へと神経を寄せる。
「そんなに仲が良かったの? 貴女が誰かと交流しているだなんて珍しいわね。だったら、ぜひお願いしたいのだけれど大丈夫かしら?」
「いえ、仲が良いことはありません。何の縁か悪戯かたまたま私が知っていたと言うだけです。 それより彼女をお呼びしたら、私はこの空間より離れますことをお許しください。」
と、言うか言わないかの刹那にソレは響いた。
『アラ? 随分と嫌われたものね、折角可愛い可愛い妖精にお土産も持ってきてあげたのにもう帰ってしまうの?』
ああ、遅かった。
「その呼び名はやめてくださいと言ったはずです、脳まで凍りつきましたか?」
思わず口から出た言葉に、姫は勿論飄々としていた銀の魔女すら目を丸くしているのが視界の端にうつった。
『可愛いわ、その可愛い戯言も引っくるめてやっぱり貴女は妖精さんだわ! なんと愛らしい態度、なんと可愛らしい容姿! 早く貴女を生で抱き締めたいの、用件は聞いていたわ。引き受けると誓って差し上げるから、私を呼びなさい。』
下手なのか尊大なのか分からない態度の言葉が空間に響き渡り、瞳に不安を浮かべ始めた姫に安心させるつもりで一度笑んでみた。
「前半は何を仰っているのか全く理解は出来ませんでしたが、誓いは確かに受け取りました。 どうか私の氷の友人よ、その優しき御心側へとくださいませ。」
瞬間、冷ややかな空気が覆った。
「ええ勿論よ、私の小さな友人よ。私の心はいつも貴女と共にあると言ったでしょう?」
冷えた空気を纏う、青の混じる白銀の髪をなびかせ鏡の空間へと降り立つ影。
きっと私が魔女では無かったならば跪いていたであろう、恐ろしい程の力を持った彼女は青に彩られた目元を細め私の頬へと手を伸ばした。
「あいも変わらず可愛らしいこと。誓いは渡したわ、氷のことは任せなさい。それよりも可愛らしい子、私に貴女を抱きしめさせて?」
それと同時に私は万力の力を持って、その冷え切った腕の中へと収められた。
「ああ!!なんと暖かいの?! この日向の動物の香り、芳しいマイナスイオン、芳醇な愚かな若さの香り!!素晴らしいわ、何年何百と変わらないこれは本当に長生きをして良かったと思うご褒美にふさわしい!」
果たして私の身体は一つに繋がっているのか、それだけが気がかりといえる、もうこれ以上は言葉も出ない
「待ってくださいませッ、女王?さま! カルディナの顔色がこの場の誰よりも青白くなっていますわ、このままでは物語はどうしようもないことで閉幕してしまいます!」
姫、出来れば優しい言葉で世界の終わりを迎えたかったです
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