嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)

第1-3節:自然体で向き合って

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 こうして屋敷の庭を抜け、さらに進んでいくと敷地内の畑で農作業をしているリカルドたちの姿が見えるようになってくる。三人とも真剣な表情で土を耕したり水きをしたり、傷んだ葉を間引いたりしている。

 かすかにただよってくる土の匂いがなんだか清々しい。

 程なく真っ先に私たちの存在に気付いたリカルドが作業を止め、満面の笑みでこちらに手を大きく振ってくる。

「おーいっ! シャローン!」

「リカルドーっ!」

 私も笑みを浮かべながら大声で返事をすると、荷車リヤカーの進路を彼らの方へ向けてあぜ道を進んでいった。そして畑の横まで辿り着いたところで、リカルドがこちらに駆け寄ってくる。

 ジョセフとナイルさんも手を止め、あとからゆっくり歩いてきている。

 息を切らせながら目の前にやってきたリカルドは、明るい表情を私に真っ直ぐ向けた。直後、ハッとしてあわてたように服の袖で額に輝く汗をぬぐい、その際に土のあとが顔に付く。

 少しは私に対して格好付けたいのかな? そんなことを気にしなくても、充分すぎるほど素敵だって私は思うのに。外見も心も……。

 私は胸の奥に温かさを感じながら、すかさずハンカチをポケットから取り出して彼の顔を優しくいてあげる。

「お疲れ様、リカルド」

「うん、ありがとう。シャロンこそ、水路工事の視察がすっかり日課になったな。だが、あまり無理はするなよ? シャロンは僕の大切な妻なのだからな。もしキミに何かあったら、僕は取り乱して倒れてしまうかもしれん」

「ふふっ♪ 大袈裟おおげさすぎる気もするけど、リカルドのその気持ちは何よりも嬉しい。気を付けるよ」

「うむ! 僕はキミを信じているからこそ、視察を許可しているわけだからな」

 リカルドは私の手を取って包み込むように握ると、真顔でこちらの瞳を見つめた。

 その端整たんせいな顔立ちと透き通った瞳は息を呑むような美しさがある。そして力強いけど気遣きづかいの込められた手の感触。彼の想いが私の心に流れ込んでくる。

 途端に私の心臓は高鳴って、ほほも熱くなってくる。

「ありがとう、リカルド!」

「では、いつものように水と揚げ花をもらおうか。ちょうどジョセフとナイルもここに到着したようだしな」

「ん、すぐに用意するね!」

 私は大きくうなずくと、荷台に載っていた柄杓ひしゃくと木製のカップを手に取って樽の中をのぞき込んだ。

 水面から伝わってくるひんやりとした空気。氷系魔法を使った直後と比べると少し融けて、反射した太陽の光がユラユラと揺らめいている。それを柄杓ひしゃくですくい上げ、三つのカップにんでいく。

 その際、こぼれた水がカップを持つ手に垂れ、冷たさが肌に染みこんでくる。

 でも強い日差しと暖かな気温を考えればそれも心地良い。もちろん、たった今まで農作業をしていて体が火照ほてっているリカルドたちにはその冷たさが特に喜ばれるはずだ。

 こうして私は水をんだカップをまずリカルドに手渡した。続いてその隣でたたずんでいるジョセフ、最後にナイルさんへと渡していく。

 一方、ポプラは布袋から揚げ花をひとつかみ取り出し、それを紙に包んだものを順番に彼らに配って回る。

「冷たくてうまいっ! 体の中に染み渡って生き返るようだ!」

 リカルドは揚げ花を口に運びつつ、カップの水をあっという間に飲み干してしまった。そして満足げに大きく息をつくと、私にそのからになったカップを返してくる。

「お代わりはいらないの?」

「うん、必要ない。飲み過ぎて腹がタポタポになると、農作業がしにくくなるからな。体も冷える。何事も程々が肝心ということだ」

「そっか。このあとも農作業をがんばってね、リカルド!」

「……っ……」

 私が笑顔でカップを受け取ると、なぜかリカルドは視線をらして押し黙ってしまった。ヘラヘラと薄笑いを浮かべ、指でほほいている。

 彼の意図を分かりかねた私は、思わずキョトンとしてしまう。

「どうしたの?」

「やはりシャロンの僕に対する砕けた口調がまだ慣れなくてな。親しみがあって嬉しいのだが、照れくささもあって……。ははは……」

「あっ、そういうことか……。うん、戸惑いは私にもあるかも。もちろん、公式の場では今まで通り堅苦しくしないといけないけど、せめてこうしてプライベートな時は私も自然体でリカルドと向き合いたいな」

「うんっ、僕も同じ気持ちだ!」

 リカルドのりんとして淀みのないその声には嘘偽りがないように私は感じた。

 同じ景色を見て、同じ夢を叶えるために努力して、同じ思い出を作っていく。その相手がリカルドで良かったと心の底から思える。


(つづく……)
 
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