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第二幕:優しい世界と謎の少女
第2-3節:老舗の道具屋へ
しおりを挟むこうして図らずも僕は仕事にありつき、少ないながらもおカネを手にすることが出来た。そして仕事が終わったあと、お姉さんから『時間があったら明日以降も手伝いに来てほしい』と誘われたのだった。
ただ、受け取った金額だと食事を1回するくらいで精一杯。日々を暮らしていくどころか宿にだって泊まれない。ある程度のまとまったおカネがないと、二進も三進もいかないだろうなぁ……。
そうなると、やっぱり道具屋で持ち物の何かを売っておカネを工面するしかない。持っているものは限られているし、二束三文にしかならないかもだけど。
早速、僕は道具屋を探すため、市場で屋台を出している人に訊ねることにした。商売人同士だし、きっと場所を知っていると思うから。
「すみません、お訊ねしたいことがあるのですが――」
僕は市場で金物を中心に取り扱っている屋台のおじさんに声をかけた。
年齢は50歳くらいで、恰幅が良い外見。経年の汚れが付いた白の上下を着ていて、ハキハキと通行人に接している。少し怖そうな感じもするけど、お客さんとのやり取りを見ていると和やかな雰囲気だからヘタレの僕でも声をかけやすい。
「らっしゃい! 何をお求めで? 鍋かい? それともフライパンかい?」
「いえ……あの……道具屋を探しているんですが、心当たりはありませんか?」
「道具屋? うーん、道具屋といってもこの町にはたくさんあるからなぁ。しかもそれぞれ得意分野が違っていて、生活用品を中心に扱ってる店もあれば、冒険者向けの魔法道具を得意にしている店もある。つまり俺だって見方によっては道具屋だ。坊ちゃんは道具屋にどんな用事があるんだい?」
「えっと、持っている道具を売りたいんですけど。この剣とか」
僕は腰に差している剣を指し示した。
するとそれを見るなり、おじさんは『ふむ……』と呟きながら手でアゴを擦る。
「じゃ、冒険者向けの武具を専門に扱っている店がいいな。そこの交差点を――って、口で説明しても分かりにくいから地図を描いてやろう。ちょっと待ってな」
「ありがとうございます!」
「その代わり、もし金物が必要になったらうちで買ってくれよ? はっはっは!」
「えぇ、そういう機会があったらぜひ!」
僕はおじさんに御礼を言うと、教えてもらったお店へ行ってみることにした。
そしてもしおカネに余裕が出来たら、この金物屋さんで金属製のカップくらいは買わせてもらおうと思う。旅の途中で沢の水を飲んだりお湯を沸かしたりする時に使うもんね。
――こうして僕は地図を参照しながら、冒険者向けの商店が建ち並ぶ地域までメインストリートを歩いていった。そこから路地へ入ると、程なくその店へと辿り着く。
「ここ……みたいだね……」
建物の壁には経年の汚れが付いていて、外見は古めかしい。規模は思っていたよりもこぢんまりとしている。お客さんの気配も感じられない。
一方、出入口の上部に設置されている看板には味がある上、店頭の商品はわずかなズレさえなく整然と並べられている。しかも同じ系統の商品が隣り合わせに置かれて比較しやすいようになっているし、値札も見やすい位置にある。
さらに店の前は綺麗に掃除され、窓ガラスからちらっと見える店内もアンティークな雰囲気だった。あちこちから気品というか、誠実でしっかりとした老舗という感じが漂っている。このお店ならきっと安心して売買の交渉が出来るだろう。
少なくとも足下を見たり、インチキな商売をしたりしていそうな空気はない。だから僕は少しだけホッとしつつドアを開けて店の中に入る。
「……わぁ……っ」
足を踏み入れた瞬間、思わず僕は感嘆の声を漏らした。
そこはまるで幻想の世界。天井から無数のランプが吊され、店内は柔らかで温かみのある光に包まれている。まるで小さな太陽がいくつもあって、星の世界にでも迷い込んだんじゃないかという感じがする。
そして奥には薬草や茶葉のコーナーがあって、そこからいい香りが漂ってきている。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
新雪のような真っ白いあごひげを生やし、茶色の作業用エプロンを身につけた60代くらいのお爺さんがニッコリと微笑みながら声をかけてきた。落ち着いた口調で物腰も穏やかだ。
「あの……道具の買い取りをお願いしたいんですけど」
「承知しました。では、こちらへどうぞ」
僕は店の奥にある応接スペースへ案内され、そこのソファーへと腰掛けた。そして剣をお爺さんに渡すと、出されたお茶を口にする。
――うん、おいしい。さわやかな若草の香りが鼻を抜け、程よい温かさが喉を通り抜けていく。
心もなんとなく落ち着いてくるし、おそらくハーブティーの一種じゃないかな。
(つづく……)
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