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ごりやくを独り占めっ!!
しおりを挟むその後、私は発田くんと一緒に八善寺の敷地内へ入り、寺務所の方へ進んでいく。そしてその途中で彼はニヤリと頬を緩める。
「この寺ってさ、実は俺の家なんだ」
「えっ? そうだったの!?」
思わず私は目を丸くしながら裏返った声をあげてしまった。もっとも、それなら御朱印をいただいていくように勧めたこととか七福神巡りの事情に詳しいもの頷ける。
そっか、『光雲』って名前もなんとなくお坊さんっぽいイメージがあるもんね。
こうして私は玄関に案内され、そこで治療を受けた。さすが慣れているというだけあって、テーピングをしてもらうと痛みが和らいですごく楽だ。湿布も気持ちいい。
もう難なく立ち上がることが出来るし、歩くのもそんなに苦にならない。
なにより発田くんに治療してもらっちゃうなんて最高っ! 嬉しすぎて天にも昇る気持ちって言うのかな。今すぐこの場で『きゃーっ!』って黄色い声をあげたい気分だけど、さすがにそれは我慢する。
「ありがとう、発田くん。助かったよ」
「治療代は御朱印の書入れ料のオマケってことにしておいてやるよ。だから早く御朱印帳を出せ。持ってないなら書き置きを渡すことになるが」
書き置きというのは、前もって御朱印帳のサイズの和紙などに御朱印が描かれているものだ。神職さんが常駐していない神社や初詣で参拝客が多い場合などにすぐ手渡せるように、そういう措置をとっていることがある。
あとは感染症が今より流行していた時は、接触機会を減らすために多くの寺社でそうなっていたことがあるけど。
ちなみに私は御朱印集めをする時には常に御朱印帳を持ち歩いているので、それをカバンから取り出して発田くんへ渡す。すると彼はそれを持って寺務所の受付へ移動し、その場所で御朱印を描き始める。
なかなかの達筆で、今までに何度もそういう場面に接してきている私でも思わず見とれてしまう。
「すごいね、発田くんが御朱印を描くんだ。字も上手いね」
「ま、家族の手が空いていない時は俺がやらざるを得ないからな。字は子どものころから練習させられてたし」
「文武両道なんだね。ステキだと思う」
「バ、バカ……。おだてても何も出ないぞ……」
「本気だよ。カッコイイよ」
「……うるせ」
発田くんは照れくさそうに御朱印を描き続けていた。でも心なしか嬉しそうにも見える。私もなぜか浮かれた気持ちが消え、しかも緊張せずに心の底から素直に今の気持ちが言葉になって出ている。
不思議だな、寺社にお参りしたことで煩悩が抑えられたのかな。ご利益なのかな。七福神巡りでは色々大変だったけど、お参りをしてきて良かった。
「そうだ、安楽。こうして御朱印をいただくからには、本堂の横にある小さな祠へのお参りを忘れるなよ? あそこには八福神の8番目の神様が祀られているんだからな」
「八福神?」
「吉祥天だ。昔はこの地域の七福神巡りも、ここの吉祥天を含めて『八福神巡り』だったらしい。ただ、色々な事情があって、うちはやめちゃったらしいんだけどな」
「そうだったんだ……」
それは初めて聞く話だった。やっぱり当事者に聞かないと分からない歴史ってたくさんある。だからそうしたことを知る機会になる御朱印集めは楽しいのだ。
ちなみに吉祥天は地域によっては弁財天の代わりに、七福神として祀られていることもあるんだったっけ。
「安楽、今年の正月に八福神の全てを巡ったのはたぶんお前だけだぜ。ご利益を独り占めかもな」
「そっか、『アンラッキーセブン』が『ラッキーエイト』になったから幸運が……」
「ん? なんだそれ?」
キョトンとしている発田くんに対し、私は慌てて首を横に振って笑顔を作る。
「ううん、なんでもない! ――発田くん、またここにお参りに来て良いよね? 地域の歴史の話をもっと聞かせてよ!」
「もちろんだ! 俺も安楽ともっとたくさん話をしたいし」
「……えっ?」
「っ!? いやっ、なんでもないッ!」
なぜか発田くんは目を白黒させながら下を向いてしまう。頬も少し赤く染まったみたい。
嘘……っ!? もしかして……これはもしかするかもッ……?
それを認識した途端、私まで頬が赤く染まって熱くなってくる。やっぱり今年は良いことがたくさんありそうだ。
――そうだよね、悪いことはすでにたくさん起きちゃって、あとは運気が上がるだけだもんっ!
(おしまいっ!)
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