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ご近所づきあい
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雄鶏の声で目が覚めた!
自然の目覚まし時計だね。
昨日の夜は疲れ切って、結局パスタも茹でずにパンとミートソースをちょっと口に入れて眠った。それも食べきれなくて、食べかけのパンをお皿に載せてその上からお椀を逆さまに被せた。
ラップないしね。
窓を開けて、カーテンを閉めて着替える。昨日の夜汲んでおいた水が水差しに入っているのでそれで顔を洗う。鏡を確認。
うん。おかしくない……!と思うけど、よくわからないな。
鶏と豚に水をやって……見てみたら卵があった! なんか感動する。
でも豚はちょっとムリ。可愛いけど面倒見きれない。でも豚肉は絶対必要なんだよ……悩ましい。
お茶を飲んで、パンを食べて、ぽんかんを一つ食べる。皮がいい匂いなので捨てるのは忍びない。皮をマーマレードに入れるか、乾かして再利用するか……とちょっと悩んで、とりあえずは乾かすことにする。
窓辺の紐にぶら下げておく。乾いてね!
それから思い立ってポンカンをエコバッグに入れて家を出ることにした。
まず目指したのはホワイトさんの家……というか店。店と言っても我が家の車庫的な場所に売り物がある、みたいな状態で、いわゆる店……みたいな物を想定するとちょっと肩透かしをくらう。
この村は2つの街の中間点にある。どちらの街も隔週で市が立つんだけど、ホワイトさんの「店」は基本的頼まれたものをそこで買ってくることで成り立っている。
もちろん、売れそうなもののストックもしているんだけれど、それは頼んで倉庫から出してもらわないといけない。
生活の基盤はやはり畑なんじゃないかなぁ。客あしらいは奥さんのエレンさんがやっていて、旦那さんと子供は畑をやっていることが多い。
でも商人としてもそこそこ認められてはいるみたいで、徒弟は一人いる。このあたり、よくわからない。
「こんにちわー!」
勝手口から声をかける。玄関は正式なお客様用だ。結婚式と葬式にしかつかわない、なんて言ったりする。
普段使うのは勝手口。
私の家も小屋に毛が生えたようなものだけど、裏口と表口があるんだよ。表口は寝室とリビングの間。大きな鉄製の鍵がかかっている。
「はいはいー」
明るい声がして、エレンさんが出てきた。如在ない人だ。笑うとエクボが左頬に出来る。
「あら! マージョ、帰ってきていたの!お帰りなさい」
どうやら私の名前はマージョらしい。
慌てて頭の中で「知識」を参照したら、本当にそれが私の名前だった。
この世界の言語で「真珠」という意味があるのだそうだ。
それは素敵だけれど、名前を変えるのだったら先に言っておいて欲しい。
ちょっとだけアナスタシアに文句が言いたくなった。
「お母さん、一緒なの?」
「あ……あの……母は……」
口ごもると、エレンさんは深刻な顔になった。
「そっか……。残念だったね」
何と言って言いのか分からずに私は俯く。
母と二人暮らしだったんだけど、母が病気になって良い医者を求めて街へ半年くらい前に出ていった……という設定が「知識」を参照したら、どん!と一気に脳内にやってきたからだ。
「そっか……」
エレンさんはショックを受けたみたいでまだ繰り返してるけど、私もショックだよ!
母はどうやらどこかの貴族の隠し子だったらしい。薬師の能力を持っていて、あの小屋はその貴族の家から与えられたのだ。
でもマージョはそれ以上は知らなかった。
母が亡くなったことで、そういうわけで、支援はなくなるらしい。
というか、母のそのあたりのことはマージョは一切把握していない。
でもこれで、小屋の中が割と空っぽだった理由がわかった。布団も中身がなかったしね。
最低限のものを残して後は売り払って町に行ったんだね。そこで母親を医者に見せたのだけど、甲斐なく亡くなってしまったからマージョは帰って来たんだ。そういう設定。
でも私にはその母の知識はあるけれど、母がいなくなって悲しいという感情はない。当然のことだけれど。
「いない間おせわになりました。……あの、これ、お土産です」
ポンカンを出すとエレンさんの目がピカッと光った。
「まあ!こんな珍しいもの……!いいの?」
「はい。キリングホールから持ってきたんです。よかったらみなさんで、召し上がって下さい」
柑橘類は珍しいんじゃないかと思ったんだけど、想像通りだった。
「こんなもの、何年に一度食べられるかどうかよ~!」
エレンさんの声が華やいでいる。
良かった。これはメンストンさんの家も手土産はポンカンだね。
残りは早めにマーマレードにして小さめの瓶に詰めよう。
この村は物々交換が盛んな感じがあるから、多分役に立ちそう。
「帰ってきたんだったら色々必要なものがあるんじゃない?」
エレンさんはニコニコしている。
「うちの倉庫見ていく?」
「はい、お願いします!」
食い気味で返事をしてから「あっ……」てなる。
「お金だったら心配しないでいいわよ~」
エレンさんは心を読むっぽい。
「薬酒か軟膏をおろしてくれれば来週市場に持っていくから」
そう。マージョと母親はいつもそうやって生計を立てていた。薬酒と軟膏。でもマージョには母親ほどの知識はない。
「薬酒……はちょっと時間がかかるかもしれませんけど、売れそうなものがあるんです。今度持ってきますから相談に乗っていただけますか?」
「あら、何? キリングホールで買ったもの?」
「そんなところです」
とりあえず、そういうことにしておくよ。
薬関係は人の口に入るものだと思うと腰がひける。薬事法だとか色々しっかりした国から来てるからね。
でも、布物で何かを作ることはできるだろう。とりあえずお金は必要だ。
自然の目覚まし時計だね。
昨日の夜は疲れ切って、結局パスタも茹でずにパンとミートソースをちょっと口に入れて眠った。それも食べきれなくて、食べかけのパンをお皿に載せてその上からお椀を逆さまに被せた。
ラップないしね。
窓を開けて、カーテンを閉めて着替える。昨日の夜汲んでおいた水が水差しに入っているのでそれで顔を洗う。鏡を確認。
うん。おかしくない……!と思うけど、よくわからないな。
鶏と豚に水をやって……見てみたら卵があった! なんか感動する。
でも豚はちょっとムリ。可愛いけど面倒見きれない。でも豚肉は絶対必要なんだよ……悩ましい。
お茶を飲んで、パンを食べて、ぽんかんを一つ食べる。皮がいい匂いなので捨てるのは忍びない。皮をマーマレードに入れるか、乾かして再利用するか……とちょっと悩んで、とりあえずは乾かすことにする。
窓辺の紐にぶら下げておく。乾いてね!
それから思い立ってポンカンをエコバッグに入れて家を出ることにした。
まず目指したのはホワイトさんの家……というか店。店と言っても我が家の車庫的な場所に売り物がある、みたいな状態で、いわゆる店……みたいな物を想定するとちょっと肩透かしをくらう。
この村は2つの街の中間点にある。どちらの街も隔週で市が立つんだけど、ホワイトさんの「店」は基本的頼まれたものをそこで買ってくることで成り立っている。
もちろん、売れそうなもののストックもしているんだけれど、それは頼んで倉庫から出してもらわないといけない。
生活の基盤はやはり畑なんじゃないかなぁ。客あしらいは奥さんのエレンさんがやっていて、旦那さんと子供は畑をやっていることが多い。
でも商人としてもそこそこ認められてはいるみたいで、徒弟は一人いる。このあたり、よくわからない。
「こんにちわー!」
勝手口から声をかける。玄関は正式なお客様用だ。結婚式と葬式にしかつかわない、なんて言ったりする。
普段使うのは勝手口。
私の家も小屋に毛が生えたようなものだけど、裏口と表口があるんだよ。表口は寝室とリビングの間。大きな鉄製の鍵がかかっている。
「はいはいー」
明るい声がして、エレンさんが出てきた。如在ない人だ。笑うとエクボが左頬に出来る。
「あら! マージョ、帰ってきていたの!お帰りなさい」
どうやら私の名前はマージョらしい。
慌てて頭の中で「知識」を参照したら、本当にそれが私の名前だった。
この世界の言語で「真珠」という意味があるのだそうだ。
それは素敵だけれど、名前を変えるのだったら先に言っておいて欲しい。
ちょっとだけアナスタシアに文句が言いたくなった。
「お母さん、一緒なの?」
「あ……あの……母は……」
口ごもると、エレンさんは深刻な顔になった。
「そっか……。残念だったね」
何と言って言いのか分からずに私は俯く。
母と二人暮らしだったんだけど、母が病気になって良い医者を求めて街へ半年くらい前に出ていった……という設定が「知識」を参照したら、どん!と一気に脳内にやってきたからだ。
「そっか……」
エレンさんはショックを受けたみたいでまだ繰り返してるけど、私もショックだよ!
母はどうやらどこかの貴族の隠し子だったらしい。薬師の能力を持っていて、あの小屋はその貴族の家から与えられたのだ。
でもマージョはそれ以上は知らなかった。
母が亡くなったことで、そういうわけで、支援はなくなるらしい。
というか、母のそのあたりのことはマージョは一切把握していない。
でもこれで、小屋の中が割と空っぽだった理由がわかった。布団も中身がなかったしね。
最低限のものを残して後は売り払って町に行ったんだね。そこで母親を医者に見せたのだけど、甲斐なく亡くなってしまったからマージョは帰って来たんだ。そういう設定。
でも私にはその母の知識はあるけれど、母がいなくなって悲しいという感情はない。当然のことだけれど。
「いない間おせわになりました。……あの、これ、お土産です」
ポンカンを出すとエレンさんの目がピカッと光った。
「まあ!こんな珍しいもの……!いいの?」
「はい。キリングホールから持ってきたんです。よかったらみなさんで、召し上がって下さい」
柑橘類は珍しいんじゃないかと思ったんだけど、想像通りだった。
「こんなもの、何年に一度食べられるかどうかよ~!」
エレンさんの声が華やいでいる。
良かった。これはメンストンさんの家も手土産はポンカンだね。
残りは早めにマーマレードにして小さめの瓶に詰めよう。
この村は物々交換が盛んな感じがあるから、多分役に立ちそう。
「帰ってきたんだったら色々必要なものがあるんじゃない?」
エレンさんはニコニコしている。
「うちの倉庫見ていく?」
「はい、お願いします!」
食い気味で返事をしてから「あっ……」てなる。
「お金だったら心配しないでいいわよ~」
エレンさんは心を読むっぽい。
「薬酒か軟膏をおろしてくれれば来週市場に持っていくから」
そう。マージョと母親はいつもそうやって生計を立てていた。薬酒と軟膏。でもマージョには母親ほどの知識はない。
「薬酒……はちょっと時間がかかるかもしれませんけど、売れそうなものがあるんです。今度持ってきますから相談に乗っていただけますか?」
「あら、何? キリングホールで買ったもの?」
「そんなところです」
とりあえず、そういうことにしておくよ。
薬関係は人の口に入るものだと思うと腰がひける。薬事法だとか色々しっかりした国から来てるからね。
でも、布物で何かを作ることはできるだろう。とりあえずお金は必要だ。
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