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メンストン農場
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ちょうど昼時の休みらしく、チャーリーの家ではゲリー・メンストンさんとリジーさんがテーブルに色々並べていた。
しまった。食事時を邪魔したみたいになっちゃった。
農家の人の食事のサイクルは私とちょっと違うんだ。
肉体労働だから軽食もとるしね。
「おや。マージョ、帰ってきたのか!」
ゲリーさんが大声で言った。
この家は人数も多いしいつもにぎやかだ。ゲリーさんも大声だし。ゲリーさんは結構大柄でヒゲモジャだ。でも、笑うと青い目が眉毛の下でピカピカ光るみたいな気がする。いや、本当に光ってるわけじゃないんですけどね。
「留守の間おせわになりました。お土産です」
ポンカンを出すと、エレンさんと同じように大興奮が起きた。違いはメンストン家の人たちはその場で一つむいて一房ずつ食べ始め、出てきた種をみんなが興味津々で眺めたところだ。
美味しいとかいい匂いだとか味や形状を観察していたのも面白いけれど、やっぱり植物を育てる人たちなんだな。種に目が向いていた。
「育てられるかな?」
「さあ……暖かい地方の作物ですから……」
無理なんじゃないかと思いながら言うとゲリーさんは末娘のアリスちゃんを抱き上げて膝に載せた。
「どうだ?アリス、やってみるか?」
「えー?!」
仲良し親子だな。
アリスちゃんは7歳くらいだろうか。そばかすだらけで、笑顔がゲリーさんに似てる。可愛い。
そろそろ学校に行っている年齢かな、と考えてふと思い立った。
「あ、あの、メンストンさん、チャーリーのことなんですけど……」
ん。
交渉成立したよ。
なんでも一定以上の土地持ち農家の親は子供が読み書き計算の試験に受からないと罰金をくらう的な制度が私がいない間にできたそうで、今は過渡期なんだね。
チャーリーはぎりぎり引っかかってしまった形になる。
学校自体は前からあったけど、あんまり真剣に通ってはいなかったから今になって真っ青になっているのだ。
9歳で試験に受かったマージョはちょっとこの村の子供としては珍しい。お母さんに教わったんだね。
これで急速に識字率が上がるだろうけど、必ずしも親世代が字が読めるとは限らない。マージョの生まれたベルボーム家は特別で、この村には家庭の教育力がないんだ。
ちなみにベルボームが私の新しい名字だった。あんまりにも鈴木そのまんまだったからアナスタシアに思わず心のなかでツッコミを入れたよ。
メンストンさんも「俺には教えられないからな」と、ガハハって笑っていてリジーさんに睨まれてた。
リジーさんのほうか「やや読める」のだそうだ。市場でのやり取りに使ったりするから女性は年配でもちょっとだけ読み書きできたりする。
なんかマージョと母親がこの村で生きていけたわけがわかった。
文字の読み書きができて便利だったということと、薬を作れたということと、なにやらお貴族様と関係があるらしいという箔がついていたことで母子家庭なのにそこそこの生活ができていたんだ。
よくわからないものを村の人が持ってきて、それを読んであげて、お礼に野菜をもらったり、みたいな感じでそこそこ潤ってたんだね。
あれ。もしかしたら、私、結構危うい場所にいるのかも。
母親が死んだことで後ろ盾とは切れたらしいと認識されているし、文字もみんなが読めるようになったら「村の知識人」枠でここに居座ることもできないだろうし。
とりあえずこの先数年は「学校がわり」ができるのかもしれないけれど、この先のことを考えなくちゃいけないね。
そこそこ働いて、一人で静かに楽しく生きたいだけなんだけど、難しそうだなあ。
なんて考え込んでいたら「母親を亡くしたばかりで気落ちしているのにお土産を持ってきた健気な若い娘さん」認定をされたらしい。
リジーさんに、色々世話を焼かれてしまった。
「そうそう、帰ってきたんだったら後でチャーリーに藁を持っていかせるわよ。寝るのも大変だったでしょう」
おお!
藁はメンストンさんの家から入手していたんだね。そしてチャーリーは私のお世話係枠?
「ちょうどいい。牛乳もちょっと持っていくといいよ」
ゲリーさんがニコニコ笑って言う。
「あと、さ来週あたりから羊毛を刈り始めるから、少し持っていくかい?」
おおお!羊毛。
興味あります。
「あの、お返しと言っては何ですけれど、空のガラス瓶があるのですが、使われますか?」
ホワイトさんの倉庫で空のガラス瓶が並んでいるのをみたんだよね。売り物になるし、需要もあるみたい。
「ああ、それはありがたい。町から持って帰ってきたのかい?」
「はい。家までは送ってもらったので……」
これは言っても大丈夫、と「知識」にあった。そうじゃないと、これから放出する予定の資源ごみの説明がつかない。
「ガラス瓶はありがたいねえ!」
スキルを使うとぐてっと疲れることはわかっているんだけれど、何事も練習だ。今日は帰ったら早速スキルを使ってみよう。
チャーリーは明日の朝から30分ずつうちに来ることになった。
朝起きて、我が家の動物と畑を見回ったら、ドアをノックする、と言ってくれた。
あ、そっちの準備もしなくちゃいけないね。
意外と忙しい。
しまった。食事時を邪魔したみたいになっちゃった。
農家の人の食事のサイクルは私とちょっと違うんだ。
肉体労働だから軽食もとるしね。
「おや。マージョ、帰ってきたのか!」
ゲリーさんが大声で言った。
この家は人数も多いしいつもにぎやかだ。ゲリーさんも大声だし。ゲリーさんは結構大柄でヒゲモジャだ。でも、笑うと青い目が眉毛の下でピカピカ光るみたいな気がする。いや、本当に光ってるわけじゃないんですけどね。
「留守の間おせわになりました。お土産です」
ポンカンを出すと、エレンさんと同じように大興奮が起きた。違いはメンストン家の人たちはその場で一つむいて一房ずつ食べ始め、出てきた種をみんなが興味津々で眺めたところだ。
美味しいとかいい匂いだとか味や形状を観察していたのも面白いけれど、やっぱり植物を育てる人たちなんだな。種に目が向いていた。
「育てられるかな?」
「さあ……暖かい地方の作物ですから……」
無理なんじゃないかと思いながら言うとゲリーさんは末娘のアリスちゃんを抱き上げて膝に載せた。
「どうだ?アリス、やってみるか?」
「えー?!」
仲良し親子だな。
アリスちゃんは7歳くらいだろうか。そばかすだらけで、笑顔がゲリーさんに似てる。可愛い。
そろそろ学校に行っている年齢かな、と考えてふと思い立った。
「あ、あの、メンストンさん、チャーリーのことなんですけど……」
ん。
交渉成立したよ。
なんでも一定以上の土地持ち農家の親は子供が読み書き計算の試験に受からないと罰金をくらう的な制度が私がいない間にできたそうで、今は過渡期なんだね。
チャーリーはぎりぎり引っかかってしまった形になる。
学校自体は前からあったけど、あんまり真剣に通ってはいなかったから今になって真っ青になっているのだ。
9歳で試験に受かったマージョはちょっとこの村の子供としては珍しい。お母さんに教わったんだね。
これで急速に識字率が上がるだろうけど、必ずしも親世代が字が読めるとは限らない。マージョの生まれたベルボーム家は特別で、この村には家庭の教育力がないんだ。
ちなみにベルボームが私の新しい名字だった。あんまりにも鈴木そのまんまだったからアナスタシアに思わず心のなかでツッコミを入れたよ。
メンストンさんも「俺には教えられないからな」と、ガハハって笑っていてリジーさんに睨まれてた。
リジーさんのほうか「やや読める」のだそうだ。市場でのやり取りに使ったりするから女性は年配でもちょっとだけ読み書きできたりする。
なんかマージョと母親がこの村で生きていけたわけがわかった。
文字の読み書きができて便利だったということと、薬を作れたということと、なにやらお貴族様と関係があるらしいという箔がついていたことで母子家庭なのにそこそこの生活ができていたんだ。
よくわからないものを村の人が持ってきて、それを読んであげて、お礼に野菜をもらったり、みたいな感じでそこそこ潤ってたんだね。
あれ。もしかしたら、私、結構危うい場所にいるのかも。
母親が死んだことで後ろ盾とは切れたらしいと認識されているし、文字もみんなが読めるようになったら「村の知識人」枠でここに居座ることもできないだろうし。
とりあえずこの先数年は「学校がわり」ができるのかもしれないけれど、この先のことを考えなくちゃいけないね。
そこそこ働いて、一人で静かに楽しく生きたいだけなんだけど、難しそうだなあ。
なんて考え込んでいたら「母親を亡くしたばかりで気落ちしているのにお土産を持ってきた健気な若い娘さん」認定をされたらしい。
リジーさんに、色々世話を焼かれてしまった。
「そうそう、帰ってきたんだったら後でチャーリーに藁を持っていかせるわよ。寝るのも大変だったでしょう」
おお!
藁はメンストンさんの家から入手していたんだね。そしてチャーリーは私のお世話係枠?
「ちょうどいい。牛乳もちょっと持っていくといいよ」
ゲリーさんがニコニコ笑って言う。
「あと、さ来週あたりから羊毛を刈り始めるから、少し持っていくかい?」
おおお!羊毛。
興味あります。
「あの、お返しと言っては何ですけれど、空のガラス瓶があるのですが、使われますか?」
ホワイトさんの倉庫で空のガラス瓶が並んでいるのをみたんだよね。売り物になるし、需要もあるみたい。
「ああ、それはありがたい。町から持って帰ってきたのかい?」
「はい。家までは送ってもらったので……」
これは言っても大丈夫、と「知識」にあった。そうじゃないと、これから放出する予定の資源ごみの説明がつかない。
「ガラス瓶はありがたいねえ!」
スキルを使うとぐてっと疲れることはわかっているんだけれど、何事も練習だ。今日は帰ったら早速スキルを使ってみよう。
チャーリーは明日の朝から30分ずつうちに来ることになった。
朝起きて、我が家の動物と畑を見回ったら、ドアをノックする、と言ってくれた。
あ、そっちの準備もしなくちゃいけないね。
意外と忙しい。
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