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作戦会議
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翌日、ギルドの会議室と厨房を借りて私達は作戦会議を開いた。
前日はジョーさんとマルタさんの工房にも行ったのだけれど、その段階で私もアリスちゃんもさすがに疲れてしまってギブアップしたのだった。
でも、今日は大丈夫。昨日美味しいものも食べたし、ぐっすり寝たし、二人共元気いっぱいだ。
トーマスさんも今日は色々と食材を持って駆けつけてくれた。
「まず、みなさんの承認を得たいことがあります。トーマスさんに夏雪草の買付係として、しばらく手伝ってもらいたいと思うんですが、いかがでしょうか?」
これは、問題なく可決。
そもそも職人集団だから自分のものづくり以外の買付は任せてしまいたいという感覚が強いみたい。
「会計は私とトーマスさんと二人でやります。定期的にみんなにも確認してもらいます」
これも可決。
「お手伝いとして徒弟代わりにヒルトップ村からアリスちゃんが来てくれました。よろしくお願いいたします」
「よろしくおねがいします」
これも、みんなニコニコだ。
ここで私はジョーさんに目配せをする。
先週頼んでおいた鍋の試作品を持ってきてもらったのだ。
「さて、今回、ジョーさんにとても薄手の鍋を作ってもらいました。これは、形としては私が買い取りましたが、みなさんが良ければ実はスタンピードランチの後で夏雪草の名前で売ろうかと思っています」
「え……誰に?」
「魔物退治に来る冒険者たちです」
「……!」
「いや、しかし、売れないんじゃないか、鍋なんて……」
「相手は冒険者ですよね……」
そう。冒険者はとにかく身軽でいたい人たちだ。冒険者向けの製品は、だから重さにとても気を使う。
「ちょっとこの鍋を持ってください」
「……軽い……」
トーマスさんが驚いたように言う。
そう。めちゃくちゃ薄くしてもらったので耐久性には難アリだが、この鍋、軽いのである。
軽いと言っても前世のアルミ鍋に比べたらずっと重いけれど、それでも持って歩けない重さではない。
この世界の冒険者たちは、馬を持っているような、よほど大きなパーティでない限り、調理ができるような鍋類を持って移動することは少ないのだ。
単純に重すぎるからだ。
生水が体に良くないこともあるというのはよく知られていて、知らない土地に行くときは、木の椀に汲んだ水に焼けた石を落として水を沸かすこともあるけれど、その程度だ。
だから冒険者の食事は味気ないものが多い。
「通常年でしたら冒険者たちの多くはスタンピードランチの後、宿屋に泊まります。でも今年は宿屋がどこも一杯で値段も上がりそうです。それに飲食店も多分値段が上がります」
「……つまり……」
「スタンピードランチを提供する広場で数日野営をする冒険者グループがそれなりにいるのではないかと考えられます」
「なるほど……」
ランチの後で、軽い鍋を比較的手頃な値段で売り出すと、それなりの数がはけるのではないかと思う。
「油焼きもして、すぐ使える状態で売り出せば……」
「市場で食材を買って市場の噴水で水を汲んで安く食事ができるってことか……」
「町外れとはいえ、市場まではそう遠くないですし、小川も近く、それから、トイレもありますから……」
「野営地としては確かにいいな……」
「しかし、数日の滞在のために鍋を買うかな?」
「そして、討伐が終わったあと、帰りに下取りをすることを考えています」
「!」
「ここから北の森までは宿場町がありありませんし、森についたら基本的には野営地にキャンプを張りますよね」
「なるほど……」
「そして、バグズブリッジからそれぞれの出身地までの帰り道は街道を利用するでしょうから、ずっと鍋が必要、というわけでもないでしょう。もちろん、気に入ってずっと持って行くパーティもあるかもしれませんが……」
「とてもいい考えだと思います。でも、売りだすとなると、やはり人手が必要ですよ」
アナベルさんが首を傾げる。
そう、そこが問題なのだ。
「ギルドは、この段階ではお手伝いできませんしね……」
ベンさんが悔しげに言う。
「そうですね、これは、トーマスさんに、お願いできるとありがたいのですが……」
私はそれとなくトーマスさんを見る。
「僕ですか? ていうか、僕でいいんですか?」
いえいえ、むしろお願いします。
「試験的にやるようなことですし、基本的には私のお金の範囲でやりますけれど、ジョーさんや、夏雪草の名前も関わってくることですから……」
夏雪草の仕事は基本的には個人プレーだけれど、会のサポートが受けられる、という形で落ち着きそうだ。
売上の一部を共同で基金として貯めることになっている。
共同口座もギルドが開いてくれた。
「それにしても……マージョさん、目立ちたくなかったんじゃないの?」
ジョーさんの目がいたずらっぽく光る。
「え、私は目立ちませんよ?」
そう。
目立つのはトーマスさんだ!
前日はジョーさんとマルタさんの工房にも行ったのだけれど、その段階で私もアリスちゃんもさすがに疲れてしまってギブアップしたのだった。
でも、今日は大丈夫。昨日美味しいものも食べたし、ぐっすり寝たし、二人共元気いっぱいだ。
トーマスさんも今日は色々と食材を持って駆けつけてくれた。
「まず、みなさんの承認を得たいことがあります。トーマスさんに夏雪草の買付係として、しばらく手伝ってもらいたいと思うんですが、いかがでしょうか?」
これは、問題なく可決。
そもそも職人集団だから自分のものづくり以外の買付は任せてしまいたいという感覚が強いみたい。
「会計は私とトーマスさんと二人でやります。定期的にみんなにも確認してもらいます」
これも可決。
「お手伝いとして徒弟代わりにヒルトップ村からアリスちゃんが来てくれました。よろしくお願いいたします」
「よろしくおねがいします」
これも、みんなニコニコだ。
ここで私はジョーさんに目配せをする。
先週頼んでおいた鍋の試作品を持ってきてもらったのだ。
「さて、今回、ジョーさんにとても薄手の鍋を作ってもらいました。これは、形としては私が買い取りましたが、みなさんが良ければ実はスタンピードランチの後で夏雪草の名前で売ろうかと思っています」
「え……誰に?」
「魔物退治に来る冒険者たちです」
「……!」
「いや、しかし、売れないんじゃないか、鍋なんて……」
「相手は冒険者ですよね……」
そう。冒険者はとにかく身軽でいたい人たちだ。冒険者向けの製品は、だから重さにとても気を使う。
「ちょっとこの鍋を持ってください」
「……軽い……」
トーマスさんが驚いたように言う。
そう。めちゃくちゃ薄くしてもらったので耐久性には難アリだが、この鍋、軽いのである。
軽いと言っても前世のアルミ鍋に比べたらずっと重いけれど、それでも持って歩けない重さではない。
この世界の冒険者たちは、馬を持っているような、よほど大きなパーティでない限り、調理ができるような鍋類を持って移動することは少ないのだ。
単純に重すぎるからだ。
生水が体に良くないこともあるというのはよく知られていて、知らない土地に行くときは、木の椀に汲んだ水に焼けた石を落として水を沸かすこともあるけれど、その程度だ。
だから冒険者の食事は味気ないものが多い。
「通常年でしたら冒険者たちの多くはスタンピードランチの後、宿屋に泊まります。でも今年は宿屋がどこも一杯で値段も上がりそうです。それに飲食店も多分値段が上がります」
「……つまり……」
「スタンピードランチを提供する広場で数日野営をする冒険者グループがそれなりにいるのではないかと考えられます」
「なるほど……」
ランチの後で、軽い鍋を比較的手頃な値段で売り出すと、それなりの数がはけるのではないかと思う。
「油焼きもして、すぐ使える状態で売り出せば……」
「市場で食材を買って市場の噴水で水を汲んで安く食事ができるってことか……」
「町外れとはいえ、市場まではそう遠くないですし、小川も近く、それから、トイレもありますから……」
「野営地としては確かにいいな……」
「しかし、数日の滞在のために鍋を買うかな?」
「そして、討伐が終わったあと、帰りに下取りをすることを考えています」
「!」
「ここから北の森までは宿場町がありありませんし、森についたら基本的には野営地にキャンプを張りますよね」
「なるほど……」
「そして、バグズブリッジからそれぞれの出身地までの帰り道は街道を利用するでしょうから、ずっと鍋が必要、というわけでもないでしょう。もちろん、気に入ってずっと持って行くパーティもあるかもしれませんが……」
「とてもいい考えだと思います。でも、売りだすとなると、やはり人手が必要ですよ」
アナベルさんが首を傾げる。
そう、そこが問題なのだ。
「ギルドは、この段階ではお手伝いできませんしね……」
ベンさんが悔しげに言う。
「そうですね、これは、トーマスさんに、お願いできるとありがたいのですが……」
私はそれとなくトーマスさんを見る。
「僕ですか? ていうか、僕でいいんですか?」
いえいえ、むしろお願いします。
「試験的にやるようなことですし、基本的には私のお金の範囲でやりますけれど、ジョーさんや、夏雪草の名前も関わってくることですから……」
夏雪草の仕事は基本的には個人プレーだけれど、会のサポートが受けられる、という形で落ち着きそうだ。
売上の一部を共同で基金として貯めることになっている。
共同口座もギルドが開いてくれた。
「それにしても……マージョさん、目立ちたくなかったんじゃないの?」
ジョーさんの目がいたずらっぽく光る。
「え、私は目立ちませんよ?」
そう。
目立つのはトーマスさんだ!
応援ありがとうございます!
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