ドミノ倒し元王太子(22)――元悪役令嬢に仕事をもらったらなんだかどんどん事態が転がるんですけど?

新田 安音(あらた あのん)

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歴史典礼部長と元王太子(現下っ端スタッフ)

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歴史典礼レキテン部がイーディスを採用してくれない」

1か月後レジナルドが報告書を持って行くとマリラが不満げだった。

「そうですか」
「イーディスは採用試験に首席合格したのに」
「なるほど?」


歴史典礼部は、王室と王国の歴史を調べ新たな制度を作る際などに過去の事例を纏めて報告する部署である。
細かい作業が好きで、過去に興味を持つ者が集まることが多い。
結果としてカチコチの石頭が集まりがちだ……とスミスはよく言っていた。
とはいえ過去の災害の報告などもしてくれる部署だからバカに出来ない。歴史に学ばぬ国に未来はない、と、学院の教授などは言ったものだ。

「とにかく女性文官は前例がない、の一点張りなんだ」
「なるほど」
「話していると人当たりが良いから聞いてくれると思ったのにとんだ石頭だ」
「ま、そうでしょうね」

軽く答えると、じとっとした目で睨まれた。
「こうなるだろうと思っていたみたいな言い方だな」
「あー、いやいや、そんなことは」

笑ってこたえるが、マリラにもレジナルドにもわかっている。
王族としての経験値はレジナルドの方が圧倒的に高いのだ。

「レジナルド、なんとかできないか」
「これは……冗談でしょうか、お願いでしょうか、命令でしょうか?」
「め……命令……だ……!」

マリラは、人に命令することにどうやらまだあまりなれていない。
女王らしい言葉遣いは驚くほど早く身に着けたのに。
侯爵令嬢だった頃だって結構色々人に命令していたのに、とレジナルドは思う。
女言葉で堂々と物を言うのには慣れていたけれど、公式に命令するとなるとどうやら心構えが違うらしい。毎回ぷるぷるしながら命令してくる。
何この可愛い陛下いきもの


「そっかー、命令じゃー仕方ないですね~」
「な、なんとかでできるか?」
「確約はできませんよ」
「動いてくれるだけでもありがたいで……ありがたい」
「陛下の御心のままに」
「……やめて、なんか恥ずかしい……」
「慣れてください。業務の一部ですよ」

そういうわけでレジナルドは歴史典礼部へ足を向けた。


「これはこれは……ウェイトローズ」
歴史典礼部長はにこやかにレジナルドを迎え入れた。
(うわあ)
王太子時代のように最初は丁寧に口を開き、名字の呼び捨てで落とす。
(たしか伯爵家の出だったよなコイツ)
レジナルドの笑顔は崩れなかった。

学者肌の人間が多い歴史典礼部で、部長はちょっと異色である。もとは経理部で頭角を表した人間で、その手腕を買われて歴史典礼部の部長に抜擢された。
(人当たりがよくて、ちょっと世間ズレしてるぐらいの認識だったけど……へ~)
おもしろい、とレジナルドは思った。


「で、今日の要件は何でしょうか」
「あー、イーディス・スペンサーの件なんですけどね」
レジナルドは丁寧な口調を変えなかった。
アブナイアブナイ。王太子時代のように話した日にはすぐに揚げ足をとられるのが目に見えている。
「ほう?」
なんのことかわかりかねます、と部長はわざとらしく首を傾げてみせた。
「首席合格者を採用しなかったことには理由があるのですか」
「あー、あの件ですね。人間性に問題があったのですよ」
「そうですか!」
レジナルドは驚いてみせた。
「それは一体?」
「わかるでしょう? 出しゃばる上にわきまえない、文句ばかり言うという噂です」
「噂で人事を決めたのですか?」
レジナルドが軽く揺さぶりをかけると、部長の顔が変わった。
「人事権は各部署の長にあるんでね。困るんですよ、他の部署から横槍を入れられても」
「しかし、性別に関係なく優秀な人材を登用したいというのは陛下のご意向ですよね?」
「あなたも」
歴史典礼部長はわざとらしくゆっくりと言った。
「ご自分の立場をわきまえられた方が良いと思うのですがね。平文官が他部署の長の時間を取ってごねるなんて言うのはあまり褒められた話じゃないんですよ」
「なるほど」
レジナルドは頷いた。
「これは陛下直々のご質問でしたが、なるほど、私がわきまえておりませんでした。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
「……」
部長はもはや不機嫌な顔を隠そうともせず、レジナルドをシッシッと追いやった。

(人間て面白いなあ……)
レジナルドはひとりごちながら次の場所へ足を運んだ。






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