ドミノ倒し元王太子(22)――元悪役令嬢に仕事をもらったらなんだかどんどん事態が転がるんですけど?

新田 安音(あらた あのん)

文字の大きさ
4 / 15

王宮司書長と元王太子(現雑魚キャラ)

しおりを挟む
レジナルドが次に足を向けたのは王宮図書室だった。
王宮図書室は王国内でも随一の蔵書数を誇る機関だが、その割には地味な部署である。

地味な部署であるのにはそれなりに理由があって、そもそも利用者が少ない。
使い勝手があまり良くない……というか、書籍数に整理とカタログが追いついていないのが大きな原因である。

新しく出版された書籍は全て王立学院の図書館と王宮図書室に二冊ずつ寄贈することが法律で定められている。
しかし、学生アルバイトを安くふんだんに使える王立学院とは違い、王宮図書室で働く人間は厳しい身元チェックを受けることもあり、どうしても賃金が高くなる。
急ぐ文官の中には借りた本を適当な棚に放り込む人間もいて、書籍の整理には司書たちも頭を悩ませていた。

レジナルドが話しかけたのはそこの司書長だ。
ガリガリに痩せた禿頭の男で、極度の人見知りだが、これが、書籍に関してのみは驚異的な記憶力を発揮した。
吃音もあり、軽く見られることも多い奇人だが、レジナルドは彼を評価していた。

「司書長、ちょっとご相談があるのですが……」
レジナルドが声を掛けると、司書長の顔はぱっと明るくなり、それから同じくらいのスピードで暗くなった。

王太子時代にはよく、珍しい本の話を一緒にしたものだから、きっとそれを思い出し、それから、レジナルドが失脚したことを思い出したのだろう、と、レジナルドはニコニコした。
このくらいわかりやすい人間はかえって信用できる。

「ななななんでしょうか、レレレレジナルドでででで……さささん?」
「実は折りいってお願いがあるのです。歴史典礼部のことなのですが……」
「れれれ歴史てててて典礼部?」

歴史典礼部は図書室を最も良く使っている部署である。
さらに言えば、図書室の面々と知り合いであることを良いことに、カタログで本の場所を調べずに司書に取って越させたり、借りた本を違う棚に無造作に返却したりする人間が多いこともレジナルドは知っていた。

「図書館規則を歴史典礼部にきちんと適用してもらうことはできませんかね?」
「カカカタログで調べずにししし司書に話しかかかけてはいけないとか」
「はい。あと、本を違う棚に戻したものは3週間の貸し出し禁止であるとか、ですね」

現状、歴史典礼部は特別扱いでフリーパスだ。良く来るから気安いとかそういう理由もあるが、歴史典礼部長と司書長の力関係もある。
今の部長になる前はここまで規則を無視することはなかったはずだ。

歴史典礼部を特別扱いしているのが少しだけ後ろめたかったのか、司書長は慌てたような声を出した。

「そそそれは、なんでででですか」
「ん~」
レジナルドはちょっと説明に詰まった。
「歴史典礼部にお願いしたいことがあるんですけどね。どうもうまく話が通らなくて」
「そそそれはじょ女性文官のはな、話ですか」
「そうなんですよね」

司書長は女性文官に反対してるわけじゃないですよね、と水を向けると、反対も何も、そもそも女性が図書室の勤務を希望するわけがない、という返事が帰ってきた。
それはどうかな~、と思いながらもレジナルドは「で、お願いできますかね?」と畳みかけた。
「意地悪するわけじゃないんです。歴史典礼部にも図書館の規則を守ってもらうだけですよ」
そして、なにか言われたら「そういえば」って言っていただけると良いなあ……と言うと司書長は突然ガバッと顔を上げた。

「ムムムムリです!」
「あ、無理ですか?」
「レレレジナルドさんは、ざざ雑魚キャラですから!」

………
「あっ……!」

ふーむ。色々な言われ方をされるもんだな、と、レジナルドは感心した。

「ま、そりゃそうですね」
レジナルドはニコニコ頷いた。
「でも、どっちにしても規則は少し厳しくしといたほうが良いと思いますよ。さっきだって『王国の冷害史』が文学のE棚に入ってましたし」
「ななななんだって!」

司書長は大声で叫んだ。

「今はムリだと思われても大丈夫ですから、後で気が変わったら、ちょっと考えてくださいね~」

ひらひらと指を動かして、レジナルドは図書室を出た。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~

みちのあかり
ファンタジー
10歳で『ルゥ』というギフトを得た僕。 どんなギフトかわからないまま、義理の兄たちとダンジョンに潜ったけど、役立たずと言われ取り残されてしまった。 一人きりで動くこともできない僕を助けてくれたのは一匹のフェンリルだった。僕のギルト『ルゥ』で出来たスープは、フェンリルの古傷を直すほどのとんでもないギフトだった。 その頃、母も僕のせいで離婚をされた。僕のギフトを理解できない義兄たちの報告のせいだった。 これは、母と僕と妹が、そこから幸せになるまでの、大切な人々との出会いのファンタジーです。 カクヨムにもサブタイ違いで載せています。

処理中です...