托卵された公爵

はまち

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図書館に向かうと司書をしている領官がニコニコとしていた。

「姫様、ありがとうございます」
「??整理整頓のこと??」

 それくらいしか心当たりがない。何でもない。と、思いながらもニコニコとして聞いておく。
   私もたまに図書館を使うけれど、研究者たちがそれなりに自由にしているせいでその他がそれなりに迷惑していることを理解して欲しいが、その辺見えていない。
  だから今回のことをきっかけにして少しは自分たちで整理整頓して欲しいと思った。

「結果として焦った人間が掃除と関係ない棚まで整理整頓してもらえたので助かりました。定期的にしてくれることを期待しますが……」
「領官であれば申請すれば補佐を持てたのでは?」

 中央の家に来れる領官だ。それなら持てるはずだ。年齢的にも金銭と機密保持契約をすれば持てるはず。たとえ他領出身者だとしても。司書の彼はそうなんですけれどね。と、返事に困っていた。

「大丈夫だろと最初断っていたら順番が後回しになりまして……」
「あぁ、なるほど。それならここの片付けも手伝わせたいから優先希望と伝えたらいいよ。私が許可するし。」
「ありがとうございます。」

 図書館の蔵書量は国のそれよりも多いかもしれないと言われている。
   どんな研究成果の記録でも原本を残しつつ、木札資料よりも紙資料で保存する方がいい。場所的な問題でも。原本と写本を用意して保管しているし、そのための魔術や魔道具の開発も昔行われており、図書館も増改築中だ。
   仮面をつけて目当ての本を探す。
 聖王国の情報や文化を調べるために。と、色々探すが、研究資料が多すぎて聖王国に誰も留学をしていないせいか初代のアーク・シュヴァリエの時代のものばかりになる。
  人からは古典だとか難しすぎるとか言われるが、こっちの方が読み慣れているのでサクサクと読みながら翻訳がないものは代わりに翻訳したものを書き起こしていく。

「姫様は古典が得意ですか?」
「そういうわけでもないけれど、別に苦労しないだけ。」

 読み慣れた字の崩し方で読むことに苦労していない。勉強も必要だけれどもこの字を眺めるのが楽しいと思っている節がある。心当たりが何のに。書き方が楽しいのか、中身が楽しいのかわからないけれど、とりあえず翻訳が楽しいということにしている。

  スラスラと翻訳して資料を作る。仮面は邪魔だが、慣れてきた。イクス様は食事の時以外図書館で歴史書を読み漁っているらしい。自分の国の歴史と大差ないだろうし、齟齬でもあるのだろうか。

「ヴェロニカ公女殿下……」
「ヴェロニカで構いませんよ。何か面白い本等ございましたか?」
「えぇとても!聖女ディアナ様の記録がこれ程までに現存しているなんて…我が国の教会の人間や王族は垂涎物でしょう!」
「……???初代シュヴァリエ公爵の記録であれば色々ございますので。写本も禁止していませんのでどうぞご自由に。」
「よろしいのですか!?!?」
「????えぇ。見られて困るのは初代シュヴァリエ公爵くらいでしょうし。日記と恨み言しかありませんから。」

  王家に対する恨み言ばかりを丁寧な言い方で書いている。自分の部屋に戻り仕事をする。部屋しか仮面を外す時間が無い。私が部屋から出ないようにしている。疲れてエメルを椅子に座らせる。

「姫様?」
「疲れた。」

  彼の膝に座り、抱き着く。仮面を外して頭使いすぎて疲れた。顔を埋める。

「菓子かお茶でも?」
「気分じゃない。」
「このままでよろしいのですか??」
「あーうん。今日はこのまま昼寝したい。」

  まだしないと行けない仕事や返事を書かないと行けない手紙がある。
   奥様方が可愛がる理由が分からなくもなってきた。
   私にとって都合が良すぎる。程々に甘やかしてくれる。甘えても邪険にしないし、気取らせない。

「しても良いかと思いますが、手紙の返事だけでも先にして頂けると締切に余裕が作れます。」
「返事書くか…終わったらお昼寝する…」

   魔女の時はずっとゴロゴロしてやりたいことをしていた。たまに侵入者があるから叩き出したり血祭りにあげたり……人間らしい生活に疲れる。もっとゆっくり出来ないのか???寿命が短すぎるからこんなに生き急いでいるのか……魔女の尺度はあまり残っていない……身体が成長するし、周りが人の尺度で動いている。

   仮面を外して手紙の返事を書く。何で私が家の中で仮面を付け続けるのかバカバカしくなる。

「姫様、面を。」
「今日は……いい。図書館に篭っているのだろう?遭遇しないように家人が動いてくれたらいい。そう思わない?」

  ラファエルがメイドに指示をし始めた。何を気にしていたんだ。私。私は美人だ。母の肖像を見てもわかる。色味が違うだけで瓜二つに近い。
  仕事をして時間を作れるように人を動かす。魔女の経験と感覚で魔法の練習は不要。

  向かうのは温室少し気分転換がしたかった。お茶を飲みたいわけでもなく、新種でもないが私の記憶があるうちにあの時有用だが消えてしまった毒物達を復活させたい。

  植物を配合させて強毒化させている毒花達を植えている場所を見る。

「姫様、陽射しも強いのでお待ちください。」

   魔力で陽射しを遮り、日陰を作る。短時間だから植物に影響もない。魔力次第では私の姿を隠す程度の認識阻害のヴェールを作り出せるそうだ。
  
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