出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

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97 不意打ち

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イザーク様やユーリ様たちが出たら中にいる人が大きく息を吐き出した。そして全員から大声で謝られた後に感謝もされた。詳しい話を聞くと私が怒って非難してクビ撥ねろとかそういう話になったら可能な限りかなえて人事異動や実家にも影響が出るほどの話になっていたらしい。それが治療費割り勘だけ。ということだから考えていた最悪な展開に比べたら全然負担にもならない。ので、後でお詫びとして魔石や素材を融通してくれることになった。別にいいから私を呼び出さずに済むように技術を身につけて欲しい。

「ミカエラ嬢はイザーク殿と懇意なのですか?」
「ユーリ様の護衛外れるの初めて見たのですけど…」

「つい先日誘拐されたからですが。」

空気が凍りついた。それをまず考えませんか???ミカエラは怒ってないことを再度伝えて懇意といえば懇意だがそれはロズウェル侯爵家も含まれていると伝えておく。色恋ネタは貴族の方がめんどくさい。

「ミカエラ嬢も婚約者とかが居ないと大変ですもんね。」
「自称労働力と思っているのでそういうのは求めてません。彼氏募集中とか看板持ってたら殺到するのですか?」
「するでしょうね。欲しいなら作りましょうか?看板。」
「いりませんよ。求めてませんから。」

そんな噂でもロズウェル侯爵家の耳に入ったらイザーク様がめんどくさいことになることだけは分かるし。





「私の度量を試されてるのですか?」
「何の話か分かりません。」

帰りの馬車で急に聞かれた。しかも露骨にしょんぼりしてるではないか。心当たりはアレしかないのだが…情緒大変だなぁ。と、思いながらミカエラは年上の男性の頭を撫でる。

「何ですか、彼氏募集中って。」
「してませんよ。してるように見えるなら神殿で目を見てもらった方が良いですよ。」
「既成事実作りますよ…」
「返品交換をお願いしますから。」

めんどくさい。そして何故既成事実を作ろうとする。私がそういうの好きではないの知っているでしょうに。言ったはずだし。ミカエラはため息を着いてどうすべきなのだろうとそれなりに真面目に考える。

「情緒がめんどくさいことになってませんか?」
「ミカエラのせいです。」
「えぇ…」
「自分の責任ですよ。言ってみただけです。凹んでみたり拗ねたりしたら構ってくれるようなので。」

イザークはミカエラの手首を掴み自分の傍に引き寄せる。演技だったのか。
それはそれで面白くない。と、見上げる。年下をからかって楽しんでいる成人男性なのだろうか。

「からかって楽しいですか?」
「からかってはいませんよ。珍しく抑揚と感情表現を付けただけです。」
「めんどくさいですね。」
「私なりの駆け引きだったんですけどね。」

それすら面倒くさいのですが???ミカエラはそう思いながらも顔にはだすが口にはしない。口に出す方が傷付けるし、この人にそれは宜しくない。



ヘラルド様の仕事でお化粧やら新しいドレスを与えられて夜会に行った。いつも通り腕を組んでニコニコするだけでいい。髪飾りは自分の新作。花も飽きたので虫の羽とか色彩を参考に作ってみた。ベースは花であることに変わりないが、美しいものは花だけではない。暗闇に灯る蝋燭だって綺麗だし、月明かりの下に舞い踊る虫だって綺麗だと思う。自作の新作ではあるけれど体裁はヘラルド様からのプレゼントということにしている。
 私が口を開くことはないのだが、今日の夜会はパートナーを連れている人が珍しいくらいに同性で固まっているように見える。

「今日の夜会ってなんですか?」
「独身貴族強制参加の夜会だな。」
「…独身貴族強制参加…」
「パートナーを作ることが目的で貴族の令嬢も第二夫人の令嬢や次男三男と家督などが無縁の貴族ばかりだから全員爵位と縁遠い人間ばかりだ。手持ちカードが何を持っているのか互いに探り合っているところだ。ミカエラの家にも招待状がきただろう」
「なるほど…そういうことだったんですね。」
「だからユーリ殿はいないがイザーク、レオンハルトはそこにいるだろう?レオンハルトは埋もれているが。」

 言われた方向を見るがレオンハルトの周りには女性が集まってあれやこれやとあちこちから話を振られて笑顔で聞いているけれどどうみても困っている。そしてその他の独身男に羨ましいという目をしていた。

「次期侯爵の次男で美形ならあぁなるだろうな。」
「次男だと良いのですか?」
「まだ少なからず可能性もあるし、それなりに権限も与えられるからね。ミカエラの腕を振り払ったらあぁなるぞ。お互いに。」
「…ヘラルド様はわかりますが私もですか?」
「爵位持ちの配偶者なんて彼らからしたら何がなんでも欲しいものだ。子爵が内定しているのも広まっているからな。」

 それは大変だ。魔導士団の彼女欲しいと嘆く男たちが集まってお酒を飲みながら情報交換でもしているのだろうか。それにあちこちで顔と名前が一致しているのか身分が近いものどうしなのか親のコネがあるのかそういう動きだ。候補というのは家で決められているのだろうけれどその品定めなのだろうか。露骨にくっついているこっちには誰も来ないし、度数の低いお酒だと毒味を目の前でされたお酒を渡されて口をつける。
 さすが王城主催の独身貴族向けの夜会だ。お酒も美味しい。

「ミカエラはあまり量を飲まない方が良さそうだ」
「ふぇ?」
「1人気にしているのがいるからね。」
「お仕事なのですよ?」

 仕事にケチをつけられたくはない。世間話をしながらダンスはないことを確認して軽食を食べるのだがヘラルド様の毒味経由でなければ食べられない。

私に毒物判別する能力もなければ耐性もない。自分の魔力で治すことができるけれど魔力切れで倒れるのも目に見えているので毒味をお願いしている。視線がとても痛いけれど。

「ヘラルド様、視線が痛い気がするのですが。」
「まぁ、私に毒味をさせるのはミカエラくらいだからね。」
「それはいい意味で?悪い意味で?」
「どっちだろうね。私はそこまで気にしたことないからね。」

 おうふ。それは怖い。
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