出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

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98 夜会にて

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 カップルになれば離脱が許される夜会なのだが、私はお酒をちまちまと飲みながら高みの見物。レオンハルトが困り果てている姿や見知った独身男子が女性に声をかけて袖にされているのを眺める。カップルが見つかっていたら離脱が許されるというのもなかなか酷だ。顔がいい、家柄がいいだけでもカップルにはなれないという現実が目の前にある。魔力が釣り合うとかも気になるところらしい。

「おや…」

 イザーク様が見知らぬ女性と歓談をしているようだ。なぜ私に声をかけたのだろう。そっちの女性の方がお似合いだと思うのだが。色々と急に考えが渦巻いた。別にあの人が誰と会話をしようとしても気にすることでもないだろう。大人の付き合いや相手も伯爵家の人間で家のお付き合いもあるのだし。こっちだって仕事でヘラルド様とこういう会話や食事、お泊まりをしているのだから。というか私、何を考えているの???ものすごくモヤっとしたのだけれど…なんでモヤっとするの???私はヘラルド様と腕を組んだり毒味をしてもらったものを口にしたりしているわけだし。モヤってする方がおかしい気がする。
 なぜだろう。モヤっとする。気のせいだ。お酒のせいだと思う。多分きっと。グラスに口をつけようとしたら止められた。

「それはミカエラにはきつい酒だ。」
「そうなのですか…すごく喉が渇いていたようです。」
「飲み過ぎだ。」

 確かに頬が熱い…気持ち悪くはないが変な方向に歩く前にヘラルド様にくっついておこう。そうしたらもし潰れても安心安全の帰宅ができるはずだ。くっつくと頭を撫でられて心地よくて寝そうだったので冷水を受け取り飲む。頭が少し冴えてきたというかスッキリした。お酒はほどほどにしないとダメだ。

「美味しかったのでつい。お酒しかないのですか?」
「成人済みの男女だから酒でもないと話が進まないからな。飲みすぎると変な大人に捕まってしまうからおいで。」

 呼ばれてそばにいくと膝に乗せられてしまった。いつもと高さとか硬さが違う。何よりとってもいい匂いがする。ポスポスと頭を撫でられてお酒が回っているのか首に腕を回して顔を埋める。眠い。

「こらこら、私は抱き枕じゃない。」
「いい匂いです。」
「それはどうも。他に抱きつく相手がいるだろう…」
「…今はヘラルド様のパートナーのお仕事中ですよ?」

 いやいや、それはわかっているが、明らかに刺さるような敵意を向けられているんだけれども。そう思いながらこの体勢の方が人が寄ってこないからいいけれど頭を撫でていると本当に寝そうだ。寝たらそれはそれで帰る理由になるからいいが。ヘラルドは独身代表というわけでもないが、爵位が上の令嬢や令息が爵位や権力を使って好き勝手しないように監視するためにいるだけだ。パートナーが寝てしまったらそれはそれで帰る理由になるので寝てもらっても構わない。そう思っているが、どうしたものか。刺さるような視線の主に世話を押し付けて自分も帰ろうか。

 そう思っているとイザークがカップル成立済みの席に来た。眠ったからだろう。レオンハルトは身動きとれなさそうだからなのか。
「ヘラルド様…さすがに…」
「私もそろそろ帰ろうとかと思っていたから持ち帰ってくれるか?ほろ酔いを通り過ぎているからもう睡魔に負けつつあるだろうし。」

 抱き上げて渡すと彼は慣れたように抱き上げる。彼女も抱きつき直す。うつらうつらとしていた。

「ミカエラ帰りますよ。」
「ん~…お風呂…」
「飲酒後はダメですよ。」

 馬車にのると眠いのかおとなしくなっていた。
「気持ち悪くないですか??」
「…今日はもふもふさせてくれないとダメです。」
「構いませんけど、泊まっていいのですか?」
「今日はモフみが必須なのです。」

 何を言っているのだろう。モフみが必要というのは…不要だろう。イザークはそう思いながら酔い潰れた彼女を抱き上げて家に届け、アリアには潰れているから寝巻きに着替えさせるように指示を出す。イザークは馬車の御者にこちらに泊まることを手紙に書いてユーリに持っていくように指示を出す。

「ミカエラ様の着替えが終わったのですが、モフみがないとおっしゃっています。何かご存知ですか?」

「わかりますのでアリアは先に休んでしまいなさい。入浴したいとか言っていたので明日朝には入れるように動いておきなさい。」
「かしこまりました。一通りものや食事も用意していますのでご自由にご利用くださいませ。お言葉に甘えて下がらせていただきます。」

 彼女の部屋にいくとパジャマを脱ぎ捨てて下着姿で枕に抱きついてうとうとと完全には寝ていなくて中途半端に意識があるようだ。

「男がいるのに何故下着姿になるのです。」
「幼児体型ですし、ドレスの時は詰め物入ってますから。」

 そこは聞いていない。アルコールで肌がほんのりと薔薇色に染まっており、色々とよろしくない。衣装棚に入っているシャツを勝手に発掘して彼女に着せるのだが…

「暑いからいい…」
「風邪を引きますよ。」
「イザーク様のモフみ…」
「服を着ないと従いません。」

 酔っ払った彼女は胸ぐらを掴んで無理やり彼の唇を塞いだ。酒の勢いだろうが、それはそれで嬉しいので有り難くいただく。
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