出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

文字の大きさ
102 / 194

102 プレゼント

しおりを挟む
「ミカエラ、私としてきちんとプレゼントを贈りたいのです。」
「商業ギルドに言って流行を追いつつ発注書出したらどうせ私のところに来るんですよ?それなら最初から材料だけ持ってきて希望のデザインを話してもらい私が作ったほうがいいです。美味しいご飯で手を打ちますし。ただ、材料は持参になりますけれど。それで良ければ私が作りますよ?」

 職人の細かいことは彼女の方が上ではあるが、高価なものを渡すというよりも自分が贈りたいだけなのにそれを作るとなると彼女に依頼が入ってしまう。と言っても、彼女以上に今人気のある技術者はいない。それに依頼しようとしたら彼女がまず出来栄えを職人としてみてしまいそうだ。それにドレスは宝石以上にはやりが早い。色々考えたら宝石類が一番いいわけだが。プレゼントをしたい。イザークもそれはそれで困ったと。思いながら彼女をみる。

「結局こうなるならなくていいと思うのですけれど。」
「う…もう少し考えますが、人の作品を贈られたらどういう気持ちになるのですか?」
「勉強の意味も込めてマジマジとじっくりと見ます。それでこれくらいかなって値段予想つけます。聞くようなことはしませんよ?悪徳職人に捕まってないかだけ尋ねるかも知れませんけれど。」

 ミカエラは仕事ということで確認作業だけはするかも知れない。ぼったくり過ぎていたら商業ギルドに行くべき案件だ。偽物の石や粗悪品を使う場合だってある。審美眼のない貴族相手なら。そういうのは大体伯爵家以下の三男とかあまり高級品も買う機会が多くないお貴族様相手にするわけで、イザーク様はそれにあたるので下手したらぼったくられる。

「私がぼったくられると?」
「プレゼントを工房や店まで行って買う人って結構ぼりやすいんです。貴族の家にお抱えの職人に命じるならまだいいです。家には本物がたくさんあって価値もそれ以上もあるでしょうから。ですが、店にとなるとぼるところはある程度粗悪品を並べて粗悪品から注文を取ろうとするんです。そういうところって結構あったりしますからね。貴族の下請けで。審美眼がないと自分で白状するのも貴族のプライドが許さないでしょうし。」
「なら給料天引きで侯爵家の専属に頼めばいいのですね。」
「ユーリ様に言ったら私に仕事回しますよ。内容だけ聞いて。」

 そういう人だと思う。面白おかしくすると思う。それに私の気持ちとかよりも付き合いの長いイザーク様を優先するのは当然だし、私はただの庶民だし。優先順位は私よりもイザーク様だし。

 そういうことも踏まえてイザークがどう動くのだろうと思って、ミカエラは彼をみる。トータルの費用対効果を考えたら私に依頼するのが一番いいし、私も使ったことのない材料で要望だけ聞いて好き勝手に作れるならそれはそれでいい気がしてきた。

 アクセサリーを作るのが仕事で身につけるなんてしないから作ったとしても髪飾りとかになるはず。イザーク様の髪も長いからそれでいいと思う。耳飾りとか私使わないし。お金は取らないから珍しい宝石や魔石を獲得してくれるならそれはそれで私が嬉しいと思う。宝石でもクズ石を色々使ってきたが大きな宝石は買わないといけないし採掘するにも色々大変だ。

 そういうことでプレゼントとなると話がまとまらない。
 イザークは立ち上がり椅子を持ち彼女の横に移動する。正面で向かい合うより隣に座りたいようだ。彼女は頭を撫でられたりしてされるがままだ。嫌ではないし、心地良いと言えば心地よい。ここまで人に頭を撫でられたりするのは孤児院もあまりなかったので最初は慣れなくて嫌だったけれど、今ではそうではないと思い始めた。
 懐柔されているのか絆されているのか…一番どうしていいかわからない。それでもこの人が喜ぶなら。で、自分も嫌ではないということで今のこの感じが成立している。触りたいならさわれば良いと思っているし私も思っていたより単純なのかも知れない。

「そこまで無理しないでプレゼントとか要りませんよ?貴重な宝石や魔石を渡されて作りたいものを作っていいでも私結構喜びますし。」
「材料渡されて喜ぶって何ですか。」
「職人なので自分用で仕事ではない趣味を作るにしてもそれはそれで楽しいんです。」
「ですが、あなた魔石を加工するにも魔力そんなにないでしょう。」
「そうですよ。魔力ないから時間をかなりかけて作るしかないんです。」

 魔石の加工は大なり小なり魔力を必要とする。そして魔力があまりないミカエラがするにはすぐに魔力切れを起こして寝込むなり倒れたりすることもある。なので貴重な魔石などであれば魔力の少ないミカエラはすぐに寝込むに決まっている。

「…触ってみたい宝石とかあるのですか?原石で。大体触っていたりするのでは???」
「そうですね…貴族様はダイヤモンドとか色々持ち込みもあるので結構触っていますね。」
「特に触ってみたい宝石もないのですか?」
「…亜麻色の髪に合わせるとなると大体紫とかが多いですね。でも何でもいいですが。そこをお任せしても???」

 イザークは別方向でまた頭を悩ませることになった。方向性として彼女に原石を渡すことになるのだろうけれど、彼女が欲しがる石を探ることになりそうだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...