出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

135 檻の中

家に帰ってアリアとお菓子を食べる。レフィラ・アンバース子爵令嬢…スカルラッティの分家筋だったような。勉強した内容がこんな所で役に立ったけれど…食後に復習で参加者名簿の横のつながりや領地に関して勉強する。顔と名前が一致するから覚えやすいが…あからさまに売られた喧嘩には流石にイラッとした。

「不愉快な事でもありましたか？エリザベス様の話し方では何かあったようですが。」
「大したことではありませんよ。王都外からこられた方が多くていつも以上のやっかみです。特にお話することも無いですよ。ヘラルド様の愛妾で満足しろだの働くのは女のすることじゃないだの。」
「ミカエラは私の恋人ですが。」
「そうですね。まぁ、愛人契約履行中なのでそういう訂正しなかったです。レフィラ・アンバース子爵令嬢が自分の婚約が決まりそうだととても楽しそうに話していたので笑うのを我慢してたくらいです。気分はあまり良くなかったですが、不可抗力です。」

雑な返事をしたのに満足気に引っ付かないで欲しい。くっついてくるから自分の部屋で勉強しているけれど。最早エリザベス様が招いたお客様は教材でしかない。あの人達が身につけている物を作っている気分になるので作らない。納品しないということが出来るのを知らないから好き勝手にいえるのか。常に納期未定。製作者の気分次第と書いてあるのが読めないのだろうか。見てないんだろうけれど。

あー思い出したらイライラしてきた。


「思い出したらイライラしてきますね。」
「溜め込まない方がいいですよ。」
「…貴族は本当に面倒くさい。」

教科書を片付けてベッドに置いてあるクッションを手に取りイザークに押し付けてそのクッションに飛び込んで顔を埋める。

「ミカエラ。何故、クッションが間に入るのです。」
「何か問題でも？」
「不要です。」

クッションを取られてベッドに投げられてしまった。ムスッ。として見上げる。当たり前のように抱き寄せて口を塞いできた。ここ最近強行してこなかったのに…されるがままでいたのだが…あの勝ち誇ったレフィラ・アンバース子爵令嬢の顔が過ぎってムカついたので今までしたことないが自分から舌を絡める。
腕でがっしりと固定されて酸欠間際まで離してくれなかった。適度に離して欲しい…

「ミカエラ、どうしたのですか？」
「問題ありますか？」
「ありません。」
「酸欠までしないでください。」
「嫌です。貴方が私の番なのだから。」

「…先方は婚約確定だと言っていましたが？」
「嫌ですよ。鼻が曲がりそうな程に香水臭くて近寄りたくもない。どうせ呪いの事も説明してないでしょうし。アンバース子爵なら分家筋だから貰ってやるだけ感謝しろみたいな話になっていそうですから。私にはミカエラ以外は男も女も個体差でしか認識してないのに。無駄なことをしていますよね。」
「…言ったらどうですか。それ。」
「目的がそれでは無いですし、嫌がらせ目的なので。それに相手は分家の格下。そこまで気にする理由もありませんから。」

本当に貴族って…面倒くさいですね。貴族という生き方は息苦しくて向いてない。貴族という仮面を付けた獣を閉じ込める檻だ。顔、爪、牙を隠して身体の大きさだけで戦うような…魔物や平民よりも面倒くさい。ミカエラはそう思いながら呆れた顔をしてもたれ掛かる。

「貴族の生活に向いてないですね。私。」
「…そうですね。疲れました？」
「勉強疲れ、貴族のお茶会疲れ色々です。本当に面倒くさい。もう面倒事は沢山です。」
「そうですね。好感度下がってますよね…」
「イザーク様のは下がってませんよ。御家族はダダ下がりですが。」

もたれ掛かると胸板に耳を当てることになるが、心音が聞こえる。少し早い気がする…明日から勉強頑張ろう。というかレフィラ・アンバース子爵令嬢 …私と大差なかった気がするけど伯爵家令息の嫁になるからとかで領主候補過程にまで来ないで欲しい。田舎の令嬢が勉強で王都の領主候補過程に入ることは珍しくないって話もあるし…

最悪過ぎる。考えたくない。さわさわと臀部から太ももを撫でられた。

「やです。そこ。」
「抱き直しているだけですよ。婚姻しますか？」
「しません。」
「ミカエラ、縁を切りたいのです。あの身内と。仕事に差支えるので私を配偶者にしてください。」
「家族の面倒事全て棚に上げて言ってますよね！？」
「身元が確かでないと本業であるユーリ様の護衛も出来ませんし、子爵になったミカエラの仕事を手伝えないのですよ？」

唇を舌で舐められた。唇を少し開けるだけで侵入してくる。嫌にならないように優しくて甘い。酸欠になるのは嫌だけど口付け自体は嫌ではなくなっている。

「側にいたい。それだけなんです。」
「何度も聞きました。ですが、伯爵家を放置は出来ないので解決してからにしてください。」

それしか言えない。