9 / 51
【ペット契約】始まります ①
しおりを挟む昼間の仕事は18時に終わって、そこから歓楽街に移動を伯母さんが経営しているガールズバーに向かう。私のシフトは、毎週金曜日に入れてもらった。営業は19時からなので、バーに着いたら急いでメイクを直し、このバーの制服でもあるあのコスチュームに着替える。
バニーガールの衣装にウサ耳をつけて、鏡の前に立ち最終チェックをする。だけど、どうしてもこの衣装に身を包むと……ついこの間、副島課長に抱かれた時の事を思い出してしまう。
ここの制服はワンピースタイプ、副島課長が用意していたのはレオタードタイプ。鏡を見ても頭の中で振り返っても少し毛色の違う「バニーガール」なのに。…どうしても、勝手に体があの時の快楽を思い出して、じゅん、と下着の中が潤ってきてしまうのだ。
頭をブンブン横に振って、体中を這いまわる副島課長の手の感触を振り払う。頬を叩いて休憩室を出ようとすると、伯母さんとばったり遭遇した。
「あらナッちゃん~!ちょうど良かった」
このガールズバーで働くときの源氏名は、「ナツミ」にしていた。これは学生のころから使っている源氏名で……本名が「はる」だから、その次の季節の、夏。自分でも安直な名前の付け方だと思うけれど、他に思いつかなかったから仕方がない。
「ん? 何かあったの?」
「ナツミちゃんに相手して貰いたいっていうお客さんがお見えになってて、ちょっと行ってもらっていい?」
俗にいう、『指名が入った』ということだ。
ガールズバーはキャバクラではないので、特定のお客さんに接客することは法律で禁止されているらしい。だからこそ法の目をかいくぐった、暗に示すような言葉を使っている。
「初めて来るお客さんなんだけど、いいかな?」
「はい!」
「良かった。よろしくねぇ」
伯母さんは私を激励するように背中をパンと強く叩いた。昔からだけど、伯母さんの力は強すぎるのだ。少しひりひりとする痛みを背中に感じながら、カウンターに一人で座るお客さんの元に向かう。金曜日のお店は夜が更けていくにつれて、少しずつ混み始めていた。
でも、初めてお店に来るに女の子を指名するなんて、とっても珍しいお客さんだ。ホームページで見てきたのかな? 私はぼんやりとそんな事を考えながらカウンターに向かっていく。
「こんばんは、ナツミって言いま……」
「……こんばんは」
明るく快活な挨拶は途中でぷっつりと途切れた。おしぼりで手を拭いていたそのお客さんは……副島課長だった。
「ど、ど、どど、どうして?」
「この前あなたが配っていたチラシを見て」
「だからって!」
私の事、指名しなくてもいいじゃないですか!と続けようとするより前に、副島課長は「注文いいですか?」と言葉を遮った。
「……どうぞ」
「ビール、お願いします」
「はい……」
ホールスタッフのもとに向かい、注文を告げる。浮かない表情を見せる私に、男のスタッフさんが心配げに声をかけた。
「何? あのお客、もしかしてナツミさんの知り合い?」
「は、あはは……」
「知り合いにばれるのは厄介ですよねー」
「そうですね」
もう既に一度だけ、とってもとっても厄介なことになっているのですよ、と言いたかった。しかし、これ以上墓穴を掘るわけにもいかないので、余計なことを言うのはやめておこう。それに、根掘り葉掘り聞かれてしまうと、あの時副島課長が私の体に灯した熱がよみがえってしまう。さっき折角振り払ったばかりなのに。
私は言葉を濁して、店長がサーバーから注いだビールジョッキを受け取り、課長の所に戻った。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「……はい」
課長は少しずつビールを飲んでいくが、私は押し黙ったままだ。課長が好みそうな話題が思いつかなかった。何が好きで、どんな趣味があるのか、そんなプライベートに関わるような話を彼としたことがないからだ。……会話の切り口も分からないので、話題を膨らませることもできないでいた。下手なことを言って、折角温まってきた店の雰囲気を壊すことだけは避けたい。
「あの……副島、さん?」
「はい?」
「こういうお店って、良く行くんですか?」
苦渋の色を浮かべながら、私は口を開いた。その問いに対して、課長は首を横に振る。そして「初めてです」と付け加えた。
「そうなんですね……」
「あなたがこんなところで働いていなきゃ、来ませんよ。あなたも何かいかがですか?」
「え?」
「こういうお店は、働いている女性の分の飲み物も注文してあげるものなんでしょう?」
真面目くさった顔、まるで私に仕事の指示を与えるときと同じトーンで話すものだから、思わず吹き出してしまった。
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる