【R-18】金曜日は、 貴女を私の淫らな ペットにします

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
44 / 51

そして、再びつながる二人 ①

ご主人様とペットという歪な関係が、やっと終わった。終わった直後は何だか少しぎこちなかったけれど、数週間も経つと元の「ただの上司と部下」という関係がしっくりとはまり始めた。
いつかまた、あの写真を使って脅されるのかとビクビクしていたけれど、その兆候もない。
私たちは、他人同士に戻ったのだ。望んだ通りの関係に。
それでも、私の心の中には空白が残った。根こそぎなくなった彼への好意は埋まることなく……淡々とした日々が続いた。
そんな物憂げな私の様子に気づいた由紀子に何度か飲みに誘われたけど、何だか気分も乗らず、また今度と言ってはぐらかし続けた。


「はあ……」


ガールズバーでのアルバイト中は笑顔を作るが、ふとした瞬間で顔の筋肉がぴきっと音を立てて強張る。気持ちの乗らない私の表情に、幸いなことにお客さんは気づかなかったが、伯母さんは目ざとくそれに気づき、シフトが終わった後、ガッと私の腕を掴み更衣室に押し込んだ。


「ナツミちゃん」


源氏名を呼ぶその声には、怒りが孕んでいる。私が思わず顔を伏せると、「どうして怒ってるか、分かってるわよね?」と追い討ちをかける。


「はい……」

「分かってるなら、ちゃんと言ってごらんなさい」

「……私の接客態度が良くないから、です」

「良くないってもんじゃないわよ!!」


伯母さんのお腹から出てきた大きな声は、更衣室中に響きぐわんぐわんと反響した。少し、耳が痛いくらい。


「あんたネ、お客さんがどうしてうちの店に来てるか分かる? 女の子と楽しくお話しして、お酒飲んで、いい気分になりたいからよ! それなのに……お客さんの話に興味持たない、話を広げない、楽しそうにしない……今日の接客態度酷すぎよ!」

「ごめんなさい……」

「いい? うちは、お客さんに夢売ってるの! それが出来ないなら、しばらく休んでちょうだい」


弁解する気力もない。私は首をたれ、小さく「はい」と答えた。伯母さんからは、大きなため息が聞こえる。


「どうせ、男絡みなんでしょ?」

「はい……」

「何? 今度はなんて言って振られたの?」

「振られたっていうか……」

「うん、伯母さんで良ければ話してごらん?」


話してごらんって言われても、このお店でバイトしてる事が上司にバレて、脅されてセフレになったのに私が勝手に入れ揚げて……挙句、本命の彼女がいることが分かって離れることにしたなんて話を、身内にできるわけがない。
私はおとなしく首を横に振った。伯母さんは、細く長いため息を漏らす。


「ま、はるちゃんそろそろお金にも余裕でたでしょ? ここ辞めてもいいんだから……とりあえずは、元気になったら顔見せにいらっしゃい」

「うん」


私が小さく頷くと、伯母さんはぽんぽんと頭を優しく撫でた。そんな日常にありふれた何気ない行為なのに、私は副島課長の事を思い出してしまうのだ。


「もう、子どもじゃないんだから……」


それを悟られないように、私はわざとらしく悪態をつく。


「でもねぇ……はるちゃんって、なんだか手頃な位置にいるのよねぇ」

「て、手頃? どういう事?」


私が聞き返しても、伯母さんは上手い言葉を見つけられずに何度も首をかしげる。


「何だろう? 庇護欲って言うのかしら……昔っから何かと構いたくなっちゃうのよねぇ、はるちゃんのこと。だから私もホイホイお金貸したりしちゃって……」

「何それぇ……」


ガクッと小さく肩を落とす。それと一緒に、肩にのしかかっていた疲れもドスンと落ちて無くなっていくような気がした。


「だから、はるちゃんが変な男と付き合ってるの見て『何か違うなぁ』って思ってきたんだけど」

「何か違うって、例えば?」

「だから、はるちゃんが面倒みなきゃダメみたいな……ダメンズばっかりと付き合って。はるちゃんには、もっと落ち着いた可愛がってくれる人の方がいいんじゃない?」

「それ、似たようなこと友達にも言われた」


でも、かわいがると言っても『ペット』としてじゃないでしょう? と胸に浮かんだ言葉を私は必死に押しとどめる。


「ま、男なんて星の数程いるんだから、ドンマイドンマイ」


伯母さんの底なしの明るさが、私の心にじんわりと染み渡る。胸に出来た空白が、少しだけ埋まっていくのを感じた。

でも、それは一過性の補強にしか過ぎない。家に帰る途中、凍えた空気を感じている間にその優しさはするっと簡単に溶けだしていく。空いた隙間に、冷たい風が吹き抜けていく。こんな夜、誰かが抱きしめてくれたらいいのに。誰かと別れる度にそう思っていた、その度に悲しくて。しかし、その寂しさと今感じている孤独感は、似ているようで少し異なる。この空白を埋めて欲しい人は、たった一人しかいない。

自宅につき、カバンから鍵を出そうと少し下を向いた。ふと目線をずらすと、ドアの真下に煙草の吸殻が落ちている事に気付く。


「……ちょっと、誰よ、もうー……」


ドアを開け、一度室内に入った後すぐに割り箸を持って外に出る。その吸殻を箸で摘まんで、洗面所に持って行き水をかけた。万が一火が残っていて、それが火種になって火事になったら困る。そんな小さな行動に、私は懐かしさを感じていた。

私がガールズバーで働くきっかけをつくった元カレ……そういえば、良く煙草を吸っていた。たまに煙が出たまま放っておいて、私がよく火を消していた。……課長は、煙草はきっと吸っていない。体を寄せると、シャンプーの良い香りだけが漂ってきた。


「あー、もう……」


関係のないアイテムなのに、どうしても私は彼の事を思い出してしまう。水を流しっぱなしにしたまま、私はその場で崩れ落ちていた。大きくため息をついても、私の中で膨らみ続ける彼の存在をかき消すことは出来なかった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。