【R-18】金曜日は、 貴女を私の淫らな ペットにします

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
45 / 51

そして、再びつながる二人 ②


***


「はるちゃん、今日、外に出たりしてる?」

「え? いいえ、今日は一歩も出てないですけど……」

「そう、良かった」

「何かありました?」


すぐに金曜日はやって来る。バイトも強制的に休みになり、何もすることのない金曜日の夕方、早田先輩がこっそり耳打ちしてきた。


「あのね……玄関の所に、変な人いるんだって」

「へ、変な人?」

「受付の子が言ってたんだよね、何かチラチラ見られてる気がするって」

「怖いですね、それ……警察とか呼んだりしたんですか?」


早田先輩は首を横に振る。


「中に入ってきたわけじゃないし……しばらく様子見って感じ?」

「えー……何か嫌ですね」

「だから、はるちゃんも帰る時気を付けてね」

「はい」


小さく頷くと、早田先輩は自分の席に戻っていった。今日は、早めに帰った方がいいのかもしれない……そう思いながら、私はデスクのパソコンに向き直った。

少しだけ伸びをしていると、ふと柔らかく触れる様な視線を感じる。『あれ』から、何度も同じような視線を感じることが増えた……すべて、副島課長から放たれる物だ。でも、私は絶対そちらを向くようなことはなかった。少しでも情を移すような事があったら、私はすぐに戻っていってしまう。そんなの、誰のためにもならない。定時までの間、私はむりやり集中して書類を片づけていった。

退勤の時間を迎え、私はすぐに会社から飛び出していった。……副島課長の視線が、いつも以上に刺さってくる。痛いくらいに。揺れる気持ちを抑えながら、私は逃げるように定時ちょうどに席を立った。会社の玄関で大きく息を吐く。金曜日だからって、思い出させるようなことしなくてもいいのに。私は頭の中で文句を吐きながら、大股で駅に向かった。


「……ねえ」


そんな私の背後から、誰かが声をかけた。……この時まで、私は早田先輩の言葉をすっかり忘れていた。背筋が強張り、前に進んでいた足がぐっと動かなくなる。恐る恐る後ろを振り返ろうとした瞬間……早田先輩が『変な人』と呼んでいた相手は、思いがけない言葉を口にした。


「はるちゃんでしょ? 久しぶり」

「……た、タッくん?」


私の真後ろにいたのは、副島課長と関係を持つ直前まで付き合っていた元カレだった。数か月ぶりに見るその顔だけど、目立った変化はない。ただ、少しだけ目の下に隈があるように見えた。


「はるちゃん、元気だった?」

「う、うん……タッくんも、元気そうだね」


「じゃあね」とそこで手を振って別れられる雰囲気ではない。ニタニタと人懐っこい笑顔を見せながら、タッくんはもう一歩私に近づく。


「何かあったの?」

「いや……俺さ、もしかしたらはるちゃんちに忘れ物したかもしれなくって」

「忘れ物?」

「うん。先週もちょっと家の前で待ってたんだけど、遅かったんだね」

「あ……」


あの煙草の吸殻は、タッくんが残していったものだったのか。一人で納得した私は、小さく頷く。


「それで、取りに行ってもいいかなって」

「うん、大丈夫。もう帰るだけだから」

「良かった、待ったかいがあったよ」

「……もしかして、ずっと会社の前で待ってたの?」


タッくんは、大きく頷いた。


「はるちゃん逃がすわけにいかないじゃん?」

「でも、電話とかくれたら良かったのに」

「今ちょっと使えなくってさ……」

「大丈夫なの? それ?」

「何? 元カレの心配してくれるの?」


付き合っていた頃の世話焼きが、うっかり癖となっているみたいだ。私はタッくんから少し離れて、駅に向かって歩き出す。


「でも、探し物って何? うちにもうタッくんの物なんて残ってないと思うんだけど……」

「あー、ちょっと見つかりにくいかも。大丈夫、俺場所覚えてるから。見つけたらすぐに帰るよ」

「うん……」


家に入るんだ、と途方もなくがっくりと気落ちする。タッくんは、強引な所がある。副島課長のとは違う、とても身勝手な強引さだ。
私は言葉少なに、タッくんの話を聞きながら帰路についた。タッくんの話は、付き合っていた頃と大して変わり映えのしない所属している劇団とアルバイトの話だった。


「あの、そうだ、タッくん……」

「なに?」


私はキーシリンダーに鍵を差し込みながら、どうしても聞きたかったことをタッくんに問いかけた。


「あのね、貸してたお金って……どうなったかな?」


まるで禁忌の扉を開ける様な、そんな恐怖がある。確かに、もう彼に貸していたお金は諦めたつもりでいた。それでも……ちょっとくらい謝罪があっても良いだろうという甘えが、私の中に残っていたのだ。

その考えなしで隙だらけの甘えは、いつだって身を滅ぼそうとする。理解しているようで、私はさっぱり分かっていなかった。ドアを小さく開けると、背後からガッと……タッくんがドアを押さえつける。慌てて閉じようとしても、力が強くうんともすんとも動かない。


「はるちゃんも、バカだよね」

「え?」

「……ろくでなしの元カレが来ても、全く疑わないんだもん」

「タッくん……?」

「忘れ物とかどうでもいいからさ、ちょっと一回ヤらせてくれない? はるちゃん、えっち好きだったでしょ?」

「でも、付き合ってる人いるんじゃないの?」

「あー? もうとっくのとうに別れてるよ。やっぱり、こういう時はお金なくても手ごろにデキるはるちゃんが一番だと思って」


タッくんが、私の背中を押してドアの中にいれようとする。必死に抵抗しても、若い男の人の力に敵う訳がなかった。
私は、ぎゅっと目を閉じた。まるで祈るように……その祈りは届くわけがない、頭はちゃんと分かっているけれど、ただひたすらに祈っていた。


「……待った」


だから、その祈りが届いた時は……もう死んでもいいくらい嬉しかった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。