転生モブ令嬢は婿を取らなければいけないのに、【 皇 太 子 殿 下 】の求愛が止まりませんっ!?

indi子/金色魚々子

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第2章 助けて! 求愛が止まりません!

第2章 助けて! 求愛が止まりません! ③

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 お父様の額からは汗がだらだらと流れ始める。きっとお父様も事情を何も分かっていないに違いない。私は口を噤み、ただひたすら相手が来るのを待ち続けた。不安で心が爆発しそうになった時、ホテルに早馬が来たらしい。レストランの従業員が、少し申し訳なさそうに父に手紙を渡した。お父様はそれを読み、がっくりと肩を落としながら私にこう声をかけた。

「帰ろう、ティナ」
「え? でも、まだお見合いが」
「相手が急用で来ることが出来なくなったらしい。手紙にそう書いてあった、そういう事情だから今回はお断りしたい、と」

 その言葉を聞いて、私からどっと力が抜けていった。ショックというよりも、ずっと待ちぼうけだった理由がわかって少しだけ安心していた。しかし、お父様は随分と気を落としてしまったみたいだった。

「お断り、そうか、お断りか……」

 そんな言葉をずっと繰り返している。私はお父さまの背中を優しく擦り、声をかける。

「き、急用ならば仕方ないですわ、お父様。縁がなかったのよ。それに、まだお見合いは始まったばかりでしょう?」
「……そうだな、うん……」

 私たちは屋敷に戻る。ハラハラとして待っていたお母様に事情を説明して、数日後にまた行われるお見合いの用意を始める。お父様はショックが抜けなかったのか、その日はずっと寝室で伏せっていた。

 二回目のお見合いが行われる日。お父様はまだどんよりとしたオーラが残っているけれど、少し元気を取り戻したみたいだった。オフホワイトのドレスを着た私と一緒に馬車に乗り、お見合い会場に向かう。この前は、たまたまダメだっただけ。次はきっとうまくいくに違いないと意気込んだけれど――今回もまた、相手は来なかった。

「……風邪をひいたそうだ。健康管理もできない息子を婿にやる訳に行かないから、断ると電報が来ていた……」
「そ、そうですか……」

 その次の日も、お見合いだった。しかし、やっぱり相手は来ない。あれこれと理由を付けられて断られてしまう。こうも上手くいかないと、さすがの私だって気落ちしてしまう。お母様が心配して世話を焼いてくれるけれど、どうしても一人になりたくて、私は部屋に引きこもった。

 とても自信がある訳ではないけれど、容姿は十人並みでそこまで悪いわけじゃない。家柄だって、我が家は侯爵家で申し分ないし、婿に入ってくれたら爵位だけではなく会社も手に入れることができる。そんなに悪い話じゃないのに、どうしてこうもドタキャンが繰り返されるのだろう? 父も同じようにショックを受けていて、仕事にも手がつかないみたい。庭でぼんやりとどこかを見つめながら座り込んでいる時間がとても長く、お母様の話だと、このまま年明けまで休むことにしたらしい。今日は少し元気を取り戻したのか、気晴らしに知人の家に行くと言っていた。

 そもそも、どうしてこうもキャンセルばかりが続くのか。私の中にもやっとした心当たりがあった。先日から私に対して奇妙な求愛を繰り返すアルフレッドが、冬季休暇の前に私に向かって放った言葉。『見合いを潰す』なんて、あの時は変な冗談を言っているなと思ったけれど……もしかしたら、これは彼の仕業なのかもしれない。あの言葉の通り邪魔をしていて、お見合い相手が皆断ってしまっていたなら……考えるだけで背筋がぞっとする。そこまでして私に求愛をする理由が全く分からないから。

「どうせ、春が来たらイヴに夢中になる癖に」

 私の独り言は行き場がなく、部屋の中をぼんやりと漂った。この世界の中心でもあるイヴに私みたいなモブ令嬢が敵う訳ない、それが分かっているから彼の言葉はただ虚しいだけだった。

「ティナお嬢様、いらっしゃいますか?」

 私室のドアがノックされ、メイドの声が聞こえてきた。

「はい、います!」
「セオドア様がお見えになっておりますが……部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」
「セオドアが?」

 慌ててドアを開けると、メイドの後ろにはセオドアが立っていた。朗らかに笑って「おっす」なんて言いながら片手をあげる。そのいつもの笑顔に、私の心は少しだけ軽くなったような気がした。私はセオドアを部屋に招き入れた。

「見合い、上手くいってないんだってな」

 でも、開口一番、こんなことを言うんだもの。私は再び肩を落としていた。

「どうしてセオドアがそんな事知ってるのよ」
「ティナの親父さんがうちの父親に愚痴ってたのが聞こえたんだよ。あ、親父さん、今うちに来てるぞ」

 知人とはセオドアのお父様のことだったらしい。こうやって噂が広がっていくのかと、私はさらにがっくりと肩を落とす。

「そう気を落とすことないって、上手くいかないことだって誰にだってあるよ」
「上手くいかないどころか、お見合いの相手にすら会っていないのよ!」

 とんちんかんな慰めに、私は大きく息を吐いた。

「……どうしてアルフレッドはこんな事するんだろう?」
「ティナの見合いと殿下の何が関係あるんだよ?」

 私はセオドアに、冬季休暇前のアルフレッドの言葉について話した。それが彼のツボに刺さったのか、大笑いを始める。

「何でそんなに笑うのよ!」
「いや、いいじゃんって思って。だって王子様だよ? ティナも憧れてたろ? それに、結婚したがっている人たくさんいるじゃん。ティナの友達とかさ」
「でも私は、この家を継ぐために後継ぎ以外の人とは結婚できないのよ!」

 しかもアルフレッドは【皇太子】であり、王位継承順位は第1位の王族。そんな人が侯爵家に婿入りなんてするわけない。彼が望む通りになるためには、私が嫁ぐ他ないのに。

「殿下、かっこいいのにな。勿体ないなぁ」
「男のセオドアから見てもそうなんだ」

 確かに、アルフレッドはかっこいいし、スタイルはいいし、読書という共通の趣味もある。けれど……私と彼では身分が違い過ぎる。それに、もしそうなったら、私はこの家を守ることができなくなる。眉のあたりに力が入る。それに気づいたセオドアは「もっと軽い気持ちで考えなよ」と、ふわふわとしたアドバイスをくれる。

「一番大切なのは、ティナがどうしたいのか、だろ?」
「……私がどうしたいのか、ね」

 そんなの、考えるまでもない。これからいかにアルフレッドに気づかれぬように見合いをするか、そんな事を考え始めた時、部屋の外が騒々しくなった。

「何かしら?」

 ドアを開けると、執事が飛び込んできた。

「ティナお嬢様、大変でございます!」
「こ、今度は何があったの!?」

 執事は手に持っていたソレを私に差し出す。それは封筒で、大きく皇帝の紋章が描かれてあった。

「お、王宮から招待状でございます!」

 私はその封筒から中身を取り出す。そこには【招待状】とはっきりと書かれていた。新年祝賀パーティーにお父様と私を招待する、と。

「……新年祝賀パーティーって、毎年王宮で行われているパーティーよね?」

 新しい年を迎えたことを祝うために催されるそのパーティーは、選ばれた貴族や政財界の大物しか招待されないことで有名である。その招待状が、我が家に届いていた。屋敷中がてんやわんやの大騒ぎになり、お母様はそれを見て驚きのあまり卒倒してしまったらしいけれど、私はぽかんとそれを持ってただ眺めていた。

「すごいじゃないか! うちだって中々招待されないのに。羨ましいぜ!」
「た、確かにすごい事だけど……」
「ティナの親父さんにすぐ知らせた方がいいな。俺、帰って教えるよ」

 そう言ってセオドアは足早に自分の家に帰っていった。

 祝賀パーティーに招待される事はとても名誉な事だった。我が家だって王宮から招待されるのは、建国100周年の記念パーティー以来。それのお祝いとしてこのサファイアのネックレスを貰ったから、まだ幼かった私でもとても素晴らしい事なんだという事は理解できた。でも、肝心のパーティーについてはまだ幼かったのでよく覚えていない。でも、とても豪華でキラキラとしていたのはおぼろげに記憶に残っている。そんなパーティーに招待されるなんて……どうして? と一瞬だけ考えたけれど、答えは一つに決まっている。

「アルフレッドめ……」

 私がぽつりとつぶやくと、玄関が騒々しくなってきた。どうやら、お父様がご帰宅なさったみたい。私は招待状を手に持ったまま、玄関へ急ぐ。

「お父様っ!」
「おぉ、ティナ! これが、新年パーティーの招待状か……」

 お父様は震える手で私から招待状を受け取る。

「セオドア君が話していたが、ティナ、最近皇太子殿下と親しくしているというのは本当か?」
「え?」
「いや、こんなにめでたい事はない! これも全部ティナのおかげだ! ほら、早く外商を呼べ、ティナのドレスを買わないと」
「あの、お父様……」

 私、そんなに親しいつもりはないし、お見合いがなくなっているのはきっとアルフレッドの仕業だと思うの……そう言いたかったけれど、舞い上がってしまったお父様に口を挟むことも出来ない。お母様も体調が戻り、再び我が家にやって来た外商とともに今度はパーティー用のドレスを選び始めていた。屋敷の新年の用意もしなければいけないのに、それを尻目に私にドレスを試着させたり、アクセサリーをいっぱい首にかけたり、耳たぶが痛くなるくらいイヤリングを試させたり。でも中々ドレスが決められなくて、ようやっと着ていくドレスが決まったのは今年の最後の日。年が明ける前に、私は疲れてしまった。毎年年越しのカウントダウンの時は起きているのに、今年はその疲れのせいでぐっすりと眠りこけていた。
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