転生モブ令嬢は婿を取らなければいけないのに、【 皇 太 子 殿 下 】の求愛が止まりませんっ!?

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
12 / 31
第3章 ヒロイン登場! 皇太子ルート行って、頼む!

第3章 ヒロイン登場! 皇太子ルート行って、頼む! ②

しおりを挟む
「うわ、皇太子、めっちゃ攻めてるな」

 ギャラリーの応援する声がどっと中庭に溢れかえる。その中から聞こえてきた言葉の通り、アルフレッドは剣をまっすぐに構え、猪突猛進に攻めていく。対してセオドアは、それを簡単にいなしていく。カンッという木製の模造刀がぶつかる音が私の耳に何度も届いた。アルフレッドは攻勢一方で、もしかしたら彼が勝つんじゃないかと思うほどだった。

「殿下、授業の時以上にマジじゃね?」
「でも、セオドアは剣技の成績一番だぞ? そう簡単に勝てるか?」

 私はその言葉に深く同意する。ゲームをプレイしていたから、セオドアの剣の腕前が学園で一番であることは私もよく知っていた。その剣技を活かしてヒロインを暴漢から助けるイベントがあってこれがまたいいんだけど……いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。セオドアが強いからこそ、私がこの決闘で彼は負けないだろうという確信があった。

 けれど。胸の中でむくむくと大きくなる不安。もし、アルフレッドが怪我なんてしたら……どうしよう?

 私はどうして彼の事を心配しているのか、アルフレッドがコテンパンに負けることを祈るべきなのに……どうか無事にこの決闘を終えることができるよう念じている自分がいる。
 
 二つの気持ちがせめぎ合っていて、目の前の決闘に集中することができない。私が再び決闘に集中したのは、カンッと高く響く音が聞こえたのと、歓声が一瞬静まり返ったときだった。顔をあげると、アルフレッドが持っていたはずの剣は弾かれ、宙を舞い、花壇の中に突き刺さった。アルフレッドは一瞬呆然としてしまったように見えた。セオドアはその隙を見逃すことなく、一気に踏み込み、大きく剣を振り払った。――そして、アルフレッドの胸にあるバラが、無残にも散っていく。

 花弁が一枚地面に落ちた瞬間、まるで爆発音みたいな歓声が学園中に響き渡った。アルフレッドは気づけば地に足をついていた。

「――ッアルフレッド!」

 気づけば私は彼に駆け寄っていた。私が傍によると、アルフレッドはバツが悪そうにそっぽを向いてしまった。

「大丈夫? 怪我はない?」
「……なんでティナが俺の心配をするんだ、アイツのところに行けばいいだろう?」
「でも……っ」

 セオドアが額の汗をぬぐいながら近づいてきた。アルフレッドは負けを認めたのか、ゆっくりと立ち上がる。

「今までで一番面白い試合でした、殿下」
「そうか。……私もだ」
「それで、殿下。勝った方の【賞品】のことなんですけど」

 来た。私はごくりと喉を鳴らす。セオドアは少し照れている様子で、視線を宙に漂わせ、頬をピンク色に染めて、口ごもる。

「……分かっている。どうかティナの事はお前が幸せに――」
「ショコラティエ・ピエールの限定版ボンボンショコラセットでもいいですか?」
「……はぁ?」

 私とアルフレッドの声が重なった。観衆もポカーンと口を開けていて、セオドアの言葉に耳を疑っているみたいだった。

「お前、何を言って……?」
「だから、ショコラティエ・ピエールの限定版ボンボンショコラセット!」

 観衆が「えー!」と口をそろえて大きな声で叫んでいるのが聞こえてきた。私も同じように叫び声をあげたいけれど、呆然としてしまって上手く声が出てこない。

「おいセオドア! お前、シモンズを巡って殿下と喧嘩してたんじゃないのかよ!」
「そうだよ!」

 今度観衆から巻き起こるのはブーイングの嵐。セオドアは声を張り上げてそれに言い返す。

「ティナを巡って? そんなつまらない事するわけないじゃん」
「……はぁ?」

 私は一瞬、ムッと眉をしかめた。そんな私を見てセオドアはウィンクをする。あ、これは彼の方便か。私は怒りの表情をすぐにおさめていく。

「殿下が剣技の授業で俺に負けっぱなしなのが悔しいから決闘しろって言ってきただけだよ。せっかくだから、限定のボンボンショコラセットなら皇太子パワーで手に入るかなってお願いしただけ。それなのに、周りが勝手にティナを巡ってだのなんだの……」

 セオドアは私を見て、ニコリと笑った。それはいつものいたずらめいた笑顔じゃなくて、どこか大人びていて、まるで私の背中を押すような優しい笑み。

「それに、俺の好みって清楚で大人しい感じの子だし。じゃ、俺、もう帰る支度するから」

 観衆に向かって避けてと言いながら、セオドアはいなくなっていく。私は慌ててその後を追った。

「セオドア!」

 私に気づいたセオドアはくるりと振り返る。

「なんだよ、俺がそれっぽくみんなの事説得できたのに、追いかけてきたらダメじゃん」

 スッとした横顔に、いつものはつらつとした少年らしさは無くなっていた。

「でも……」
「決闘しながら見てたけどさ、ティナ、俺の事応援してなかっただろ? 自分の気持ちに正直になりなよ。ティナは殿下の事が好きなんだよ」

 その言葉は、もやもやとしている私の胸に飛び込んできて、そのもやはまた大きく膨らんでいく。返事をできずにいると、セオドアは「またな」と言って、そのままいなくなってしまった。

***

 私はその後、アルフレッドとも話をしないまま春季休暇を迎えた。制服から私服へ着替える間もなく馬車に乗り込み、そのまま実家に帰る。出迎えてくれた執事が「お客様がお見えです」と先に客間へ挨拶に行くよう促した。まだ制服のままだったけれど、私は客間のドアをノックする。すぐにお父様の声が聞こえてきた。

「失礼いたします」
「おぉ、ティナ、やっと帰って来たのか。こちらが娘のティナです」
「初めまして。父がいつもお世話になっております」

 私は頭を下げたまま挨拶をする。ちらりと目だけを動かすと、父と年が近い恰幅の良い男性と、その横には私より少し年上に見える青年が座っていた。

「ティナ。こちら、アーノルドさんと息子のジェフさんだ」
「こちらが噂の娘さんですか。王立学園に通われているという。お前も通っていたな、ジェフ」
「えぇ、とても懐かしい制服です」

 私は顔をあげた。そこには緩やかなウェーブを描くブロンドが似合う、さわやかな方がいた。

「アーノルドさんの家は繊維業を営んでいて、この前の新年祝賀パーティーで親しくなったんだ」
「あまりシモンズさんのような会社の方と話す機会はないので、こちらも新鮮ですよ。なあ、ジェフ」
「はい、父さん」

 声もはつらつとしていて、とても感じのいい人だった。

「そうだ、ティナ! ジェフさんを庭にご案内しなさい、どうやら我が家の庭に興味をお持ちらしい」
「分かりました、お父様。制服を着替えてきたら、すぐに戻ります」

 私は一礼をして客間を後にする。廊下を進むと、少しハラハラとしているお母様が私を待ち伏せしていた。

「お母様、ただいま帰りました」
「えぇ、おかえり。あの、アーノルドさんは……?」
「お父様と客間でお話されているわ。あ、私はこれからジェフさんをお庭にご案内するところ。先に着替えないと」
「そうね! お母様も服を選ぶの、手伝ってあげる!」

 私は春らしい淡いピンク色のワンピースに着替え、再び客間へ向かう。ドアの前にはすでにジェフさんが待っていた。私は慌てて駆け寄る。

「大変遅くなりました」
「いや、そこまで待っていませんよ」

 私はそのまま、ジェフさんを庭に案内した。ちょうど春の花が咲き始めている庭は、庭師が入ったのか綺麗に整えられていた。その時、私はようやっとこれが見合いであることに気が付いた。庭を案内しろと言われて二人っきりにさせられたのも、その庭がこんなに綺麗でムード満点なのも、見合いを成功させるために違いない。お母様があんなにハラハラとしていたのも、上手くいくか心配していたからだ。

 ようやっとアルフレッドに邪魔されず見合いをすることができる! 私は声をあげず、歓喜した。体が小刻みに震えるのがバレないように、庭の花を見ているジェフさんの後ろを歩く。アルフレッドも学園にいて、決闘の用意をしていたから私の見合いの事まで気が回らなかったに違いない。

 けれど、私の喜びはそこで止まってしまった。脳裏には、決闘に負けた直後のアルフレッドの姿が蘇る。彼はあの時どう思ったのか、私はどうするべきだったのか……どれだけ悩んでも答えは出てこない。

「ティナさん?」
「ひえっ!」
「どこか具合が悪いのですか?」
「いいえ、大丈夫です」

 ジェフさんに心配をかけてしまった。しっかりしないと、せっかくお見合いができるようになったのだから……このご縁は次に繋げないと。私は頭の中からアルフレッドを追い出す。一通り庭を案内した私は、その庭が一望できるテラスに移動した。そこにはもうティーセットが用意されている。ここでゆっくり話をしなさいという事だと理解して、私はジェフさんの事を色々聞いてみた。

 ジェフさんは私よりも4歳上の、王立大学に通う大学生。大学では理系分野を専攻していて、幸いなことに! 薬学に興味があるらしい。しかも! 上に二人お兄さんがいる三男坊!! だからこそ、我が家に連れて来られてのだろう。ジェフさんもそれを理解していて、私の話にも熱心に耳を貸してくれた。学園では図書委員であること、本を読むのが好きな事。その度にニコリとほほ笑んでくれるジェフさん、悪くない気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも
恋愛
転生したのは、web小説の世界だった。物語が始まる前の時間、隣国の竜王へ嫁ぐ薄幸の王女、デジレに。 結婚相手である竜王ワッツァは、冷酷非道で人間を蔑む恐ろしい竜人だ。彼はデジレを、半竜(半分竜で半分人間)である息子の養育係としかみていない。けれどその息子バートラフこそ、前世の「わたし」の最オシ」だった。 この世界のバートラフはまだ5歳。懸命に悪ガキぶっているけど、なんてかわいいの!? 小説のバートラフは、闇落ちして仲間の騎士たちに殺されてしまうけど、そんな未来は、絶対に許さないんだから!  幼いバートラフに対する、愛情いっぱいの子育ての日々が始まる。やがて彼の成竜への通過儀礼を経て、父の竜王は、デジレに対して執着を見せ始める。 ところが、竜と人間の戦争が始まってしまう。おとなになったバートラフは人間側につき、聖女の騎士団に入った。人と竜の間で下される彼の決断は? そして、転生者デジレに与えられたスキル「プロットを破断する者」を、彼女はどう発動させるのか。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

処理中です...