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第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち
第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち ②
しおりを挟む「心が優しい?」
「え、えぇ。そうでしょう?」
彼はその私の言葉に何かが引っかかっているような様子だった。
「そうか、ティナには彼女がそのように見えているのか。俺にはそれに違和感があるのだが」
「違和感?」
「そうだ、確かに一見すると大人しい女子だが、まるで心を二つ持っているかのような感覚を覚える時がある」
私にはそれが言い訳にしか聞こえなかった。怒りが冷めやらぬ私は「とにかく! 人を利用するようなことだけはしないでよ!」とさらに文句を重ねる。彼はまずいと思ったのか口を真一文字に結んだ。
「……分かった。それなら、俺を無視するのはやめてもらえないか?」
「無視?」
「目が合ってもどこかに行ってしまうだろう? 俺がティナに話があると言付けていっても、だ」
だって、あの時イヴが先に話しかけていたから。それがこの【世界】が歩むべき正しい歴史なのだから、私は身を引くべきだ。
「どうして、あなたはそんなに私に興味があるの?」
それなのに、どうして彼は私を表舞台に立たせようとするのだろう? 堪らなくなった私はそう尋ねる。
「決まっているだろう? 俺がティナの事を好いているからだ」
彼のストレートな言葉、私が本物のヒロインだったら涙が出て飛び上がるくらい嬉しかったのに。でも、私はこの世界では所詮はただのモブ。背景の一人なのだから、そんな事を言われる立場じゃない。
「……どうして?」
私の声はか細く、とても小さくなっていった。けれど、アルフレッドはそれすら漏らさず聞いてくれる。前世では誰にも届かなかった声なのに、彼の耳にはしっかりと届く。
「まだ俺が幼かったころの話だ。長くなるが、聞いて欲しい」
そう、アルフレッドは子どもの頃の話を始めた。
***
それは、建国100周年記念日のパーティーでの出来事。朝から偉そうにしている人々の挨拶ばかり聞き、それが終わったら休む暇なくパレードに駆り出され、お腹がペコペコなのにパーティーのご馳走にありつくことも出来ない。これからさらに行事は続くことに飽き飽きしてしまった幼いアルフレッドは、皇帝陛下や側近の目をかいくぐって庭に逃げ出したらしい。整えられた庭を散策していると、ある一点にアルフレッド目が向いた。
「そこに、一人の女の子がいた」
「女の子?」
淡い青色のドレスを着ている、自分と年の近い女の子。彼女は大きな目から涙を幾筋も流して、身をかがめて何かを探している様子だった。アルフレッドが近づくと「王子様!」ととても驚いた声をあげる。
「こんな所で一人で何をしている? どうかしたのか?」
「……ネックレスがなくなったんです」
「ネックレス? どんなものだ?」
アルフレッドは兵を使って探させようとしたけれど、女の子がそれを拒否する。
「お父様とお母様にバレたら怒られちゃいます!」
そういってボロボロ泣きながら、再び庭を探し始めた。ドレスが汚れるのも気に留めず、芝生に膝をついて生け垣の下も見ていく。アルフレッドはその姿を不憫に思い、彼女について一緒に探すことにしたみたいだった。彼女は固辞したが、アルフレッドはそれを無視した。
「どんなネックレスだ?」
「サファイアのネックレスです」
私の頭の中に、小さな光のようなものが見え始めた。この風景、私も知っているかもしれない。私の瞳が揺らぎ始めたのに気づいたアルフレッドは、さらに話を続ける。
女の子は、そのネックレスを母からもらったばかりらしい。大事にしていたのに、身に着けた時に金具が上手く嵌っていなかったらしく、気づかないうちにどこかに落としてしまった。庭に出る前にはあったから、きっと庭で遊んでいた時に落としてしまったのだと、しゃくりあげながらそう話していた。
「大丈夫だ、すぐに見つかる。だからもう泣くな」
彼女が泣いているのを見ていると、胸がざわつくような感覚を覚えた。アルフレッドは懐かしい目をしながら語った。ハンカチを差し出すと、彼女は目元を拭った。そして泣くのを我慢しながら、下を向いてネックレスを探し始めた。
しかし、自分の物ではなく他者の落とし物を探すというのはとても地味な作業。私にも覚えがあるからよく分かるけれど、アルフレッドはすぐに飽きてしまったらしい。
「おい、何か話をしろ」
彼女は王子様に命令されて、とても驚いたらしい。二人で下を向きネックレスを探しながら、アルフレッドは女の子の言葉に耳を傾けていた。
「楽しそうに話していたよ。ネックレスをくれた優しい母の事、勉強のできる兄の事。そして、父の事を。どうやら父親の会社が大好きで、たくさんの人を助けることのできる仕事に子どもながらに誇りに思っている様子だった。それを聞いていて、俺は恥ずかしくなった」
「……アルフレッドが? どうして?」
アルフレッドは静かに頷く。
「俺はこの世に生を受けてからあの時まで、人に頭を下げたことがなかった。皆、幼い自分に向かって頭を下げては俺を持ち上げて、勝手に敬ってきて……それが王族という威光であることにも気づかず、俺の鼻は高くなっていたんだ。偉いのは俺自身ではない、俺に張り付いている【皇太子】というレッテルだ。それがもしなくなったら、誰も俺に見向きもしなくなるし、愛してもくれなくなるだろう。その事に、今まで気づいていなかったことが恥ずかしくて仕方なかった」
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