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第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち
第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち ③
しおりを挟む彼の事を無条件に愛してくれるはずの皇后陛下は、建国100周年を待たずに、彼が幼かった時に亡くなってしまった。皇帝陛下にもお立場があり、あまり親子としての時間を過ごすことはなかったとアルフレッドは話す。ありのままの彼が誰かに愛されるためには何が大事なのか、その日から考えるようになったらしい。
「俺自身、誇りというものが分からなかった。彼女が胸を張って話す父君の会社の事。俺に例えるならば、きっとこの国が俺の誇りなのだろう。そして、この国にとって誇りとは皇帝であるに違いない。いずれ俺が皇帝となったとき、わがままで高慢なままだったらきっと誰にも敬われることもなく、誰の誇りにもなることができやしない。だから、その日から態度を改めようと思った」
わがままばかりの『王子様』から、国民に寄り添う皇太子へ。媚びを売っていると言われたこともあったけれど、それでも、いつか誰かの誇りになることができるように。彼女との出会いが彼を大きく変えた。
「あの子のネックレスは、バラの花壇から見つかった。彼女の記憶を遡って、庭を巡っていきついたのがバラの花壇だった。彼女と共に過ごしたのはそう長い時間ではなかったが、俺の価値観を変えるには申し分ないほどの経験になった」
バラが咲き誇る花壇、たちのぼる優雅なバラの香り。花の下に落ちていたサファイアのネックレス……私の記憶が徐々に蘇っていく。
「その直後、俺を探しにきた従者によって俺と彼女は引き離された。それ以降、会うことはなかった……だが俺は、どうしてもその女の子にもう一度会いたかった」
だから、王立学園で学ぶことを決めたらしい。王族は王宮から出ることなく家庭教師の授業を受けるのが一般的だったから、アルフレッドがこの学園に入学するのは異例中の異例だった。当時、大ニュースとして新聞の一面に載ったのも私もよく覚えている。年の近い国民と触れ合い、人脈を広げるためだと彼が王立学園に進学する理由を王宮の広報官から発表されていたが、彼の本心はそれとは異なる物だった。
「彼女はきっと年齢も近く、パーティーに招待されるならそれなりの家柄がある娘だ、ならばきっと王立学園に入学するはずだ。ただ、もう一度会うためのチャンスを作りたかった……会ってに少しでいいから話をしてみてかった。ただの私情だ。俺がこの学園に入学した理由なんて」
アルフレッドは私の腕を掴んだ。顔を見上げると、その瞳は少し潤み、瞳の真ん中に私の姿が映りこんだ。彼の手のひらは熱く、振りほどくべきなのに、私は身動きを取ることも出来なかった。彼の炎のように燃え上がる気持ちが私の瞳に流れ込んでくる。
「そして、あの日、この場所で、ようやっと見覚えのあるサファイアのネックレスを身に着けている少女と出会った。もう分かるだろう? ティナ」
私が頷くと、彼は空いた手で私の頬を撫でた。脳裏に蘇る記憶、ネックレスを見つけてくれた幼いアルフレッドの姿、パレードでそのお姿を見た時から憧れていた【王子様】が、今目の前にいる。
「ずっと忘れることはなかった。会いたいとずっと焦がれていた、人はこれを、恋と呼ぶのだろう?」
アルフレッドの声が甘くて、私の頭は溶けてしまいそうだった。
「卒業までに自分の気持ちを伝えたいと思っていたのだが、ある日、ティナが見合いをするつもりらしいと耳に飛び込んできた。それで、居ても立っていられなくなったんだ」
郵便局での唐突すぎるプロポーズ。ようやく合点がいった。アルフレッドは幼い時からずっと私の事を想ってくれていた。ふつふつと私の胸には喜びがこみ上げてくる。私も彼の胸に縋り付いて、私の初恋も彼であったことを打ち明けたい。けれど、その考えを、頭の中にいるもう一人の私がストップをかけた。
「……イヴは?」
「イヴ?」
イヴは今、どこまでイベントを進めているのだろう?
「最近、イヴと何のお話をしましたか?」
アルフレッドは突然の質問に困惑している様子だった。首をひねって思い出そうとする。
「そう言えば、中庭で話をしたな。母の事を聞きたいと言い出して……」
それは、チャプター3で発生するイベントだった。アルフレッドがイヴに亡くなった母親の思い出を語る、イヴにだけ見せる彼の素顔。アルフレッドを攻略するにあたってとても重要なイベントだった。イヴによる攻略は、順調に進んでいる。ここから二人はどんどん距離を詰めていき、彼はイヴに夢中になっていく。何度も【このゲーム】をプレイした私だからこそ知っている、抗うことのできない彼の運命。
気づけば、私の目から涙がこぼれ始めていた。
「なぜ泣く? ティナ、泣かないでくれ。お前に泣かれると胸がざわついて落ち着かないんだ。幼いころから見る変な夢を思い出してしまう」
アルフレッドは私の涙をそっとぬぐう。けれど、私は声を出そうとするたびにしゃくりあげてしまって、上手く話すことができない。私はただ首を横にふるばかりだった。
「……この前言っていたことを気にしているのか? 俺にはもう運命の相手がいるだのなんだの……」
その言葉に頷くと、アルフレッドは私の腕を引き――強く抱きしめていた。暖かな夕日が、まるでスポットライトみたいに私たちを照らし、包み込む。
「それがもし神が定めた運命ならば、自分はその神にも逆らうつもりだ。やっと出会えたのだから、もう手放すつもりはない。ティナは、安心して俺に身を委ねてしまえばいい」
その熱い抱擁に応えたかった。ぎゅっと背中に腕を回して、強く抱き合いたかった。けれど、私は両親の事を思い出していた。そして、実家の会社の薬で病気を治していった人々の姿も。私がいなくなったら、家を継ぐ手段がなくなってしまったら、それらはどうなってしまうのだろう?
そしてこれは、本来ならばイヴとアルフレッドの【イベント】だった。私はその事実にハッと気づく。図書館でのハグは、イヴによる攻略には必要なイベントの一つ。それをこれ以上壊すわけにはいかない。私は力を振り絞って、アルフレッドを振りほどいた。
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