転生モブ令嬢は婿を取らなければいけないのに、【 皇 太 子 殿 下 】の求愛が止まりませんっ!?

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
18 / 31
第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち

第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち ③

しおりを挟む

 彼の事を無条件に愛してくれるはずの皇后陛下は、建国100周年を待たずに、彼が幼かった時に亡くなってしまった。皇帝陛下にもお立場があり、あまり親子としての時間を過ごすことはなかったとアルフレッドは話す。ありのままの彼が誰かに愛されるためには何が大事なのか、その日から考えるようになったらしい。

「俺自身、誇りというものが分からなかった。彼女が胸を張って話す父君の会社の事。俺に例えるならば、きっとこの国が俺の誇りなのだろう。そして、この国にとって誇りとは皇帝であるに違いない。いずれ俺が皇帝となったとき、わがままで高慢なままだったらきっと誰にも敬われることもなく、誰の誇りにもなることができやしない。だから、その日から態度を改めようと思った」

 わがままばかりの『王子様』から、国民に寄り添う皇太子へ。媚びを売っていると言われたこともあったけれど、それでも、いつか誰かの誇りになることができるように。彼女との出会いが彼を大きく変えた。

「あの子のネックレスは、バラの花壇から見つかった。彼女の記憶を遡って、庭を巡っていきついたのがバラの花壇だった。彼女と共に過ごしたのはそう長い時間ではなかったが、俺の価値観を変えるには申し分ないほどの経験になった」

 バラが咲き誇る花壇、たちのぼる優雅なバラの香り。花の下に落ちていたサファイアのネックレス……私の記憶が徐々に蘇っていく。

「その直後、俺を探しにきた従者によって俺と彼女は引き離された。それ以降、会うことはなかった……だが俺は、どうしてもその女の子にもう一度会いたかった」

 だから、王立学園で学ぶことを決めたらしい。王族は王宮から出ることなく家庭教師の授業を受けるのが一般的だったから、アルフレッドがこの学園に入学するのは異例中の異例だった。当時、大ニュースとして新聞の一面に載ったのも私もよく覚えている。年の近い国民と触れ合い、人脈を広げるためだと彼が王立学園に進学する理由を王宮の広報官から発表されていたが、彼の本心はそれとは異なる物だった。

「彼女はきっと年齢も近く、パーティーに招待されるならそれなりの家柄がある娘だ、ならばきっと王立学園に入学するはずだ。ただ、もう一度会うためのチャンスを作りたかった……会ってに少しでいいから話をしてみてかった。ただの私情だ。俺がこの学園に入学した理由なんて」

 アルフレッドは私の腕を掴んだ。顔を見上げると、その瞳は少し潤み、瞳の真ん中に私の姿が映りこんだ。彼の手のひらは熱く、振りほどくべきなのに、私は身動きを取ることも出来なかった。彼の炎のように燃え上がる気持ちが私の瞳に流れ込んでくる。

「そして、あの日、この場所で、ようやっと見覚えのあるサファイアのネックレスを身に着けている少女と出会った。もう分かるだろう? ティナ」

 私が頷くと、彼は空いた手で私の頬を撫でた。脳裏に蘇る記憶、ネックレスを見つけてくれた幼いアルフレッドの姿、パレードでそのお姿を見た時から憧れていた【王子様】が、今目の前にいる。

「ずっと忘れることはなかった。会いたいとずっと焦がれていた、人はこれを、恋と呼ぶのだろう?」

 アルフレッドの声が甘くて、私の頭は溶けてしまいそうだった。

「卒業までに自分の気持ちを伝えたいと思っていたのだが、ある日、ティナが見合いをするつもりらしいと耳に飛び込んできた。それで、居ても立っていられなくなったんだ」

 郵便局での唐突すぎるプロポーズ。ようやく合点がいった。アルフレッドは幼い時からずっと私の事を想ってくれていた。ふつふつと私の胸には喜びがこみ上げてくる。私も彼の胸に縋り付いて、私の初恋も彼であったことを打ち明けたい。けれど、その考えを、頭の中にいるもう一人の私がストップをかけた。

「……イヴは?」
「イヴ?」

 イヴは今、どこまでイベントを進めているのだろう?

「最近、イヴと何のお話をしましたか?」

 アルフレッドは突然の質問に困惑している様子だった。首をひねって思い出そうとする。

「そう言えば、中庭で話をしたな。母の事を聞きたいと言い出して……」

 それは、チャプター3で発生するイベントだった。アルフレッドがイヴに亡くなった母親の思い出を語る、イヴにだけ見せる彼の素顔。アルフレッドを攻略するにあたってとても重要なイベントだった。イヴによる攻略は、順調に進んでいる。ここから二人はどんどん距離を詰めていき、彼はイヴに夢中になっていく。何度も【このゲーム】をプレイした私だからこそ知っている、抗うことのできない彼の運命。

 気づけば、私の目から涙がこぼれ始めていた。

「なぜ泣く? ティナ、泣かないでくれ。お前に泣かれると胸がざわついて落ち着かないんだ。幼いころから見る変な夢を思い出してしまう」

 アルフレッドは私の涙をそっとぬぐう。けれど、私は声を出そうとするたびにしゃくりあげてしまって、上手く話すことができない。私はただ首を横にふるばかりだった。

「……この前言っていたことを気にしているのか? 俺にはもう運命の相手がいるだのなんだの……」

 その言葉に頷くと、アルフレッドは私の腕を引き――強く抱きしめていた。暖かな夕日が、まるでスポットライトみたいに私たちを照らし、包み込む。

「それがもし神が定めた運命ならば、自分はその神にも逆らうつもりだ。やっと出会えたのだから、もう手放すつもりはない。ティナは、安心して俺に身を委ねてしまえばいい」

 その熱い抱擁に応えたかった。ぎゅっと背中に腕を回して、強く抱き合いたかった。けれど、私は両親の事を思い出していた。そして、実家の会社の薬で病気を治していった人々の姿も。私がいなくなったら、家を継ぐ手段がなくなってしまったら、それらはどうなってしまうのだろう?
 そしてこれは、本来ならばイヴとアルフレッドの【イベント】だった。私はその事実にハッと気づく。図書館でのハグは、イヴによる攻略には必要なイベントの一つ。それをこれ以上壊すわけにはいかない。私は力を振り絞って、アルフレッドを振りほどいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも
恋愛
転生したのは、web小説の世界だった。物語が始まる前の時間、隣国の竜王へ嫁ぐ薄幸の王女、デジレに。 結婚相手である竜王ワッツァは、冷酷非道で人間を蔑む恐ろしい竜人だ。彼はデジレを、半竜(半分竜で半分人間)である息子の養育係としかみていない。けれどその息子バートラフこそ、前世の「わたし」の最オシ」だった。 この世界のバートラフはまだ5歳。懸命に悪ガキぶっているけど、なんてかわいいの!? 小説のバートラフは、闇落ちして仲間の騎士たちに殺されてしまうけど、そんな未来は、絶対に許さないんだから!  幼いバートラフに対する、愛情いっぱいの子育ての日々が始まる。やがて彼の成竜への通過儀礼を経て、父の竜王は、デジレに対して執着を見せ始める。 ところが、竜と人間の戦争が始まってしまう。おとなになったバートラフは人間側につき、聖女の騎士団に入った。人と竜の間で下される彼の決断は? そして、転生者デジレに与えられたスキル「プロットを破断する者」を、彼女はどう発動させるのか。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

処理中です...