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1話
1話 ④
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火葬場ではなく斉藤さんの家に向かう路線バスに乗り、小刻みに揺られながら……着いた時にはどっと疲れが体に降り積もってきた。キーホルダーも何もついていない鍵でドアを開け、私は真っ先に自分の部屋に向かう。斉藤さんの寝室の隣、元々は納戸だったらしいこじんまりとしたこの部屋とも、今日でお別れ。疲れのあまり着替えるのもおっくうになって、借り物の喪服を着たまま、実家に帰る支度を始めることにした。元々荷物は少なかったせいで、あっという間に片付いてしまう。
キャリーケースのチャックを締めながら、深く深くため息をつく。
何もできずに実家に帰ったら……家族にはどんなことを言われるだろうか? がっかりされるだけで済めばいいけれど。あの家に、私の居場所はあるのだろうか。とりあえず、すぐに仕事を見つけて早く家にお金を入れないと、今度はもっとひどい目にあうかもしれない。
そんな事を考えているとき、来客を知らせるチャイムがなった。この家には今私しかいないから、その音は良く響いた。
「お客さんかな?」
一瞬、居留守を使おうか悩んでしまった。でも、もしかしたら大切なお客様かもしれない。私はキャリーケースを玄関に持っていくついでに、来客を出迎える。
「あの……どちら様でしょうか?」
ドアを開けると、とても背の高くい男性がそこに立っていた。サングラスをかけているせいで、顔は良く分からないが――鼻筋が身長と同じようにスッと高かった。見たところ、年齢は三十代くらいだろうか? 真っ黒なスーツと、同じように黒いネクタイ。その体からはほんのりと焼香の香りがする。彼が葬式帰りだというのはすぐに分かった。
彼は何も言わず、じっと私の事を見つめていた。私も同じように見つめ返す、記憶を掘り返すと、彼には少し見覚えがあることに気づいた。昨晩の通夜の時、弔問客の中にいた一際背の高い男性。彼を見て、文明さんがとても怪訝そうな顔をしたのもあって、私の頭の中で彼の姿が色濃く残っていた。
この人と斉藤さん一家にどんな関係にあるのだろうと少し不思議に思ったものだ。
「邪魔するよ」
「え? え、あの……」
彼は私を押しのけて靴を脱ごうとする。私は慌てて、彼の腕を引いた。
「あの、家人が今いないんです。勝手に入られると、その……」
困ります、と伝えたけれどどこ吹く風か。私がもたもたとしているうちに彼はリビングに入ってしまい、ソファにドカッと座った。そして、サングラスを外してまっすぐに私を見据えた。その目はまるどう猛な肉食獣のように鋭い。思わず体がすくんでしまうと、彼はそれに気づいたのか、ぎこちなく笑みを浮かべた。まるで害は与えないとアピールするかのように。その頬に笑い皺が刻まれると、なんだか人懐っこい人のようにも見える。私も釣られて笑ってみたけれど、その表情は堅苦しいままだった。
「あの、お茶の用意を……」
「いや、いい。すぐに終わらせる」
サングラスを胸ポケットに仕舞い、彼はまっすぐに私を見据えた。
「俺は、お前に用があるんだ。……中田莉乃、で間違いないよな?」
「はいっ!?」
フルネームを呼ばれて、驚きのあまり背筋が伸びる。
「私に、ですか?」
こんな私に、この人が何の用事だろうか? 見れば見るほど、自分とはかけ離れた人物であるという事が分かる。鋭い二重に、通った鼻筋。スーツで隠されているけれど、その下にあるしっかりとした体つき。今までこんな人と出会ったことなんてない、だから、この人が私の名前を知っていることに驚きを隠せなかった。
「そう。まあ、話せば長くなる……座ったらどうだ?」
キャリーケースのチャックを締めながら、深く深くため息をつく。
何もできずに実家に帰ったら……家族にはどんなことを言われるだろうか? がっかりされるだけで済めばいいけれど。あの家に、私の居場所はあるのだろうか。とりあえず、すぐに仕事を見つけて早く家にお金を入れないと、今度はもっとひどい目にあうかもしれない。
そんな事を考えているとき、来客を知らせるチャイムがなった。この家には今私しかいないから、その音は良く響いた。
「お客さんかな?」
一瞬、居留守を使おうか悩んでしまった。でも、もしかしたら大切なお客様かもしれない。私はキャリーケースを玄関に持っていくついでに、来客を出迎える。
「あの……どちら様でしょうか?」
ドアを開けると、とても背の高くい男性がそこに立っていた。サングラスをかけているせいで、顔は良く分からないが――鼻筋が身長と同じようにスッと高かった。見たところ、年齢は三十代くらいだろうか? 真っ黒なスーツと、同じように黒いネクタイ。その体からはほんのりと焼香の香りがする。彼が葬式帰りだというのはすぐに分かった。
彼は何も言わず、じっと私の事を見つめていた。私も同じように見つめ返す、記憶を掘り返すと、彼には少し見覚えがあることに気づいた。昨晩の通夜の時、弔問客の中にいた一際背の高い男性。彼を見て、文明さんがとても怪訝そうな顔をしたのもあって、私の頭の中で彼の姿が色濃く残っていた。
この人と斉藤さん一家にどんな関係にあるのだろうと少し不思議に思ったものだ。
「邪魔するよ」
「え? え、あの……」
彼は私を押しのけて靴を脱ごうとする。私は慌てて、彼の腕を引いた。
「あの、家人が今いないんです。勝手に入られると、その……」
困ります、と伝えたけれどどこ吹く風か。私がもたもたとしているうちに彼はリビングに入ってしまい、ソファにドカッと座った。そして、サングラスを外してまっすぐに私を見据えた。その目はまるどう猛な肉食獣のように鋭い。思わず体がすくんでしまうと、彼はそれに気づいたのか、ぎこちなく笑みを浮かべた。まるで害は与えないとアピールするかのように。その頬に笑い皺が刻まれると、なんだか人懐っこい人のようにも見える。私も釣られて笑ってみたけれど、その表情は堅苦しいままだった。
「あの、お茶の用意を……」
「いや、いい。すぐに終わらせる」
サングラスを胸ポケットに仕舞い、彼はまっすぐに私を見据えた。
「俺は、お前に用があるんだ。……中田莉乃、で間違いないよな?」
「はいっ!?」
フルネームを呼ばれて、驚きのあまり背筋が伸びる。
「私に、ですか?」
こんな私に、この人が何の用事だろうか? 見れば見るほど、自分とはかけ離れた人物であるという事が分かる。鋭い二重に、通った鼻筋。スーツで隠されているけれど、その下にあるしっかりとした体つき。今までこんな人と出会ったことなんてない、だから、この人が私の名前を知っていることに驚きを隠せなかった。
「そう。まあ、話せば長くなる……座ったらどうだ?」
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