5 / 35
1話
1話 ⑤
私は彼に少しだけ近づいて、そこで正座した。彼を見上げると、大きな建物を見上げる時のような威圧感すらある。
「加州暁生」
「へ?」
「俺の名前だ。お前の事は何でも知っているよ、中田莉乃さん」
名前を呼ばれると、どうしても驚いてしまう。体がびくりと震えると、加州暁生と名乗ったその男は大きな声をあげて笑った。
「俺の家は代々、まあいわゆる便利屋みたいな仕事をしていてね。斉藤のじいさんにも、トラブルがあるたびに呼び出されることもあったんだ。俺の祖父の代から懇意にしていたらしい」
「……はあ」
その口ぶりは、斉藤さんとの親しさすら感じられる。呆けながらも頷くと、暁生は斉藤とさんとの思い出話を続けていく。
「一見すると大人しくて気のいいじいさんだったけれど……アンタもいい迷惑だったんじゃないか? 人の意見はまるで聞かない。どんな時でも我を押し通そうとして、おまけにスケベ。借金のカタにやってきた若い女と結婚するって鼻の下伸ばして言いふらして。長生きするために変なサプリメント買ったり。……もしかして、夜の方を張り切り過ぎて死んだのか?」
暁生の言おうとしていることは、【ソウイウコト】に疎い私でも分かる。私の顔がカッと赤く染まり、反射的に首を横に振って否定した。その初心すぎる仕草に加州さんは目を丸めて、短く口笛を吹く。
「いいね、そういう反応。ゾクゾクする」
「変な事を言うのは、やめてください!」
恥ずかしさのあまり、目に涙が滲んでくる。どうしてここまできて、こんな辱めに会わなければいけないのか。悔しくって仕方ない。
「なた、何しに来たんですか? もうすぐ家の人も帰ってきますので、早く帰ってください!」
そう言いかえすと、彼は小さく吐き捨てるように笑う。その笑みには、余裕すら感じられた。
「随分と冷たいな。言っただろ、俺はお前に用があって来たんだって」
加州さんは身を乗り出す。
「お前、これからどうするんだ?」
「……え」
「言っただろ? お前の事なら何でも知ってるって。実家のねじ工場の事も、経営状況も、借金のことも。ジジイの融資も遺産もパーになって、目論見が外れたことも。どうせ、アイツらはお前の家に一銭も出すつもりないだろ」
暁生は「ジジイと違ってケチだし、先のない工場になんて金は出さない現実主義者だ」と付け足す。彼が言っているアイツらと言うのが文明さんたちを指しているというのは、すぐに分かった。確かに、加州さんの言うとおりだった。これからどうしたらいいのか……先が真っ暗で何も見えない。言い返すことも出来ずに押し黙っていると、彼はソファから降り、気づけば私に近づいていた。
「……助けて欲しいか?」
「え?」
顔をあげた時、思っていた以上に彼が近くにいて驚いた。思わずのけぞると、彼はさらにグッと体を近づけてくる。焼香の匂いの他に、ほのかにコロンの香りが漂ってきた。
「このまま俺と一緒に来るなら、お前のこともお前の家も助けてやろう」
「でも、見ず知らずのあなたにそこまでしてもらう訳には……」
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」