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3話
3話 ①
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朝食を食べ終えて片付けていたら、出かける準備を終えた加州さんに「これ、渡すのを忘れていた」と四角い何かを突きつけられた。濡れた手を拭き、私はそれを受け取る。手のひらサイズのそれには見覚えがあった。
「スマートフォン?」
「持ってなかっただろう? 莉乃のために用意したんだ」
しかも、話題になっていた最新機種。琴音さんが「欲しいんだけど、結構高いんだよね」と言っていたのを思い出す。
「そんな、困ります! 利用料金だって払えないですし……」
私は今無一文、加州さんにあれこれしてもらってようやっと生きていける状態なのに、こんな高級品は不相応だ。慌てて彼に返そうとしたが、加州さんは受け取ってはくれなかった。
「そんな事は心配しなくてもいい。俺だって莉乃との連絡手段がないと困るんだ、だからもらって欲しい。それに、これがあれば莉乃だって気軽に外出できるようになるんじゃないか?」
私が観念したようにそれをぎゅっと握りしめると、加州さんは満足そうに口角を上げた。
「電子決済もできるようになっているから、それで好きなように買い物をしたらいい」
「え!? そこまでしていただかなくても大丈夫です!」
「莉乃は今金持ってないだろう?」
私は言葉に詰まる。
「金のことは気にするな、好きに使えばいいさ」
「でも……」
「莉乃が倹約家なのは知っている、無駄遣いなんてことをしないこともな」
私が何度も頷くと、加州さんは「よし」と言って私の頭を優しく撫でてくれる。まるで幼い子どもにそうするみたいに。なんだか恥ずかしくなってしまう。
フジイさんが迎えに来て、彼はでかけてしまった。今日はあまり遅くならないとだけ告げて、私はまたここに取り残される。でも、私はふと彼の言葉を思い出していた。
「お出かけしてもいいって事……?」
確かに加州さんは『気軽に外出』と言っていた。このマンションの一室から一歩も外に出ない暮らしに慣れてしまっていたけれど、そう言われると……体が疼き出す。私は朝ご飯の片付けと洗濯を終わらせて、クローゼットを開いた。
真新しい靴を出して玄関に置く。新しい靴を履くなんて、本当に久しぶりだった。今まではボロボロになるまで履き倒していたから、足を入れた気分が高揚していくのを感じる。玄関のドアノブを握るまでは、実家に行くつもりだった。けれど、急に足がすくんでしまった。膝が小刻みに震え始め、一歩も歩けなくなる。
斉藤さんが亡くなってしまった今、融資の話はどうなってしまったのだろう。加州さんは悪いようにはしないと言っていたけれど、私だけがぬるま湯のような生活を送っているのに、家族が辛酸をなめる暮らしを送っていたら……そう考えると、現実を直視する勇気がない私は、恐怖が募り動けなくなってしまう。
(実家のことは、今度加州さんに話を聞こう……)
会いにいくよりも先に、今家族はどんな様子なのか、それを聞いて確認した方がダメージは少なそうだ。それなら、これからどこに出かけよう? 目的がなくなってしまった私は、玄関で一人首を傾げていた。
「そうだ……!」
家族以外で一人、会っておかなければいけない人がいた。この世界で一番私のことを心配してくれた優しい人。でも、以前使っていたスマホは解約してしまっていて、彼女の連絡先はわからない。
(会社まで行けば会えたりしないかな……?)
淡い期待を抱きながら、私はついにそのドアを開いた。
「スマートフォン?」
「持ってなかっただろう? 莉乃のために用意したんだ」
しかも、話題になっていた最新機種。琴音さんが「欲しいんだけど、結構高いんだよね」と言っていたのを思い出す。
「そんな、困ります! 利用料金だって払えないですし……」
私は今無一文、加州さんにあれこれしてもらってようやっと生きていける状態なのに、こんな高級品は不相応だ。慌てて彼に返そうとしたが、加州さんは受け取ってはくれなかった。
「そんな事は心配しなくてもいい。俺だって莉乃との連絡手段がないと困るんだ、だからもらって欲しい。それに、これがあれば莉乃だって気軽に外出できるようになるんじゃないか?」
私が観念したようにそれをぎゅっと握りしめると、加州さんは満足そうに口角を上げた。
「電子決済もできるようになっているから、それで好きなように買い物をしたらいい」
「え!? そこまでしていただかなくても大丈夫です!」
「莉乃は今金持ってないだろう?」
私は言葉に詰まる。
「金のことは気にするな、好きに使えばいいさ」
「でも……」
「莉乃が倹約家なのは知っている、無駄遣いなんてことをしないこともな」
私が何度も頷くと、加州さんは「よし」と言って私の頭を優しく撫でてくれる。まるで幼い子どもにそうするみたいに。なんだか恥ずかしくなってしまう。
フジイさんが迎えに来て、彼はでかけてしまった。今日はあまり遅くならないとだけ告げて、私はまたここに取り残される。でも、私はふと彼の言葉を思い出していた。
「お出かけしてもいいって事……?」
確かに加州さんは『気軽に外出』と言っていた。このマンションの一室から一歩も外に出ない暮らしに慣れてしまっていたけれど、そう言われると……体が疼き出す。私は朝ご飯の片付けと洗濯を終わらせて、クローゼットを開いた。
真新しい靴を出して玄関に置く。新しい靴を履くなんて、本当に久しぶりだった。今まではボロボロになるまで履き倒していたから、足を入れた気分が高揚していくのを感じる。玄関のドアノブを握るまでは、実家に行くつもりだった。けれど、急に足がすくんでしまった。膝が小刻みに震え始め、一歩も歩けなくなる。
斉藤さんが亡くなってしまった今、融資の話はどうなってしまったのだろう。加州さんは悪いようにはしないと言っていたけれど、私だけがぬるま湯のような生活を送っているのに、家族が辛酸をなめる暮らしを送っていたら……そう考えると、現実を直視する勇気がない私は、恐怖が募り動けなくなってしまう。
(実家のことは、今度加州さんに話を聞こう……)
会いにいくよりも先に、今家族はどんな様子なのか、それを聞いて確認した方がダメージは少なそうだ。それなら、これからどこに出かけよう? 目的がなくなってしまった私は、玄関で一人首を傾げていた。
「そうだ……!」
家族以外で一人、会っておかなければいけない人がいた。この世界で一番私のことを心配してくれた優しい人。でも、以前使っていたスマホは解約してしまっていて、彼女の連絡先はわからない。
(会社まで行けば会えたりしないかな……?)
淡い期待を抱きながら、私はついにそのドアを開いた。
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