愛以上、恋未満 ―処女未亡人は、危険なオトコの愛欲に溺れる―

indi子/金色魚々子

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3話

3話 ⑤

「いい、莉乃」

 琴音さんはレジの方をちらちらと見ながら、私にそっと耳打ちする。

「何か嫌なことがあったら、すぐ逃げてくるのよ。いい?」
「わ、わかった」
「じゃあ、私もう行くね。またお茶しよ」

 戻ってきた加州さんにもう一度頭を下げて、琴音さんは手を振って去って行った。私は加州さんとふたり、取り残される。

「俺たちも行くか。近くに車を停めてある」

 さっさと歩いていく加州さんの背を追っていくと、待ちくたびれて大きな欠伸をしているフジイさんが乗った車が見えてきた。

「あぁ、おかえりなさい。莉乃さん、久しぶりの外出はいかがでした?」
「楽しかったです」
「確か、以前まで勤めていた会社の同期だったな、彼女は」

 琴音さんの事まで知ってるんですか? と聞いても彼は話を逸らしてしまうだろう。私は口を噤んだまま頷き、車に乗る。

 でも、どうしても私は彼に聞きたいことがあった。

「あの、加州さん」

 横に座る加州さんを見上げると、彼は目を閉じていた。どうやらこの短時間のうちに眠ってしまったらしい。フジイさんは小さく笑う。

「すいません、寝かしてあげてください。夜はこれから店回りもあって忙しくなりそうなんですよ」
「はぁ……」

 私は加州さんの横顔を見ながら、初めて出会った時の事を思い出す。どうしてあの唇の赤色の事を忘れてしまったのだろう。

 彼は、あの時私の事を知ったのだろうか――それを知りたかった。けれど、その答えを知るのはもう少し先になりそうだった。
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