鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸

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2章 呪われた炎

第50話 妹として、兄妹として

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 バン!わたしは、実家の玄関を乱暴に開き、室内へと入った。目の前に使用人がいて、驚いた顔をしている。

「マーダスお兄様はいらっしゃいますか!」

「シュ、シューネお嬢様……おかえりなさいませ……」

 わたしの剣幕を見てなのか、いつもは冷たい使用人が頭を下げる。

「マーダスお兄様は!?」

「マーダス様は、お庭にてお稽古を……」

「ありがとうございます!」

 そして、わたしはあの人の元へと向かった。



 ガチャ。

「ジュナー?」

「はぁーい?」

 午前中、いつもよりだいぶ早い時間にピャーねぇがやってきた。

「あら?おかしいですわね……」

「どうかしたの?」

 リビングに入ってきて、首を傾げるピャーねぇ。

「シューネが朝からいなくって、ジュナのところかと思いましたのに……」

「そうなんだ?なにか用事で出かけたのかな?」

「でしょうか?……でも、あの子がわたくしに何も言わずに出て行くかしら?」

「うーん?」

 僕はシューネさんのことをイメージする。

「たしかに、あんまり想像できないね」

「ですわよね。どこに行ったのでしょう……わたくし、心配ですわ……」

「そうだね。僕も手伝うから探してみよっか」

 僕は本を閉じて立ち上がる。それと同時に、窓の外にいるカリンに目配せした。僕の意図を汲み取ったカリンは姿を消す。シューネさんを探しに行ってくれたのだろう。とりあえず、3人体制でシューネさんの行方を探すことにした。

「シューネは一体どこに行ったのかしら?」

「んー、買い物なら城下町かな?」

 自宅の外に出て、僕は呑気にそんなことを言う。

「そうですわね。では、まずは城下町に出てみましょうか」

 そして、ピャーねぇも僕に同意してしまった。僕たちは、そんなところに行ってる場合じゃないというのに。



 ガン!ガンガン!庭から木刀を叩きつける音が聞こえてくる。マーダスお兄様だ。いつも、庭に植えてある大木を木刀で叩いて、それを稽古だと言っている。そして、何本も生きた木をダメにしてきた。

 この稽古は昔からの光景で、わたしが小さいころ、「マーダスお兄様……生きてる木じゃなくて……お稽古用の木材でやった方がいいのでは?」と提案したら、今度はわたしが木刀で殴られた。『木が可哀そう』と思うことすら、ううん、わたしが意見することなんて、許してもらえないのだと、小さいわたしは理解した。
 こういうことが続いて、わたしはマーダスお兄様に意見することが恐ろしくなって、何も言えなくなっていった。

 あれからもずっと、『生き物を傷つけるのは良くないことです』そう思っているのに、一度もその気持ちを意見できずにいた。
 でも、今日は違う。言わなければいけない。だって、今度は木のことじゃない、人間のことだから。

「マーダスお兄様!」

 わたしは、恐怖を押し殺して、あの人の背中に話しかける。

「あ?なんだ、自分で戻ってきたでござるか。シューネ」

 木刀をおろし、ゆっくりとこちらを振り向いたあの人は、今日も恐ろしかった。でも、あのことを確かめないわけにはいかない。

「お兄様が国民の方を斬って回っているというのは本当ですか!?」

「あー?帰ってきて早々そうそうなんでござるか。拙者、皆目見当もつかんでござるな」

「スラム街の人たちのことです!」

「……どこでそれを?はぁ……めんどうなことになったでござる」

「っ!?でしたら本当なのですか!?」

「だったらなんだというでござる?」

 兄の回答を聞いて驚愕した。まさか、本当だなんて思っていなかった。ジュナリュシア様が勘違いしているんだと、そう思いたかった。

「なっ!?なんでそのようなことを!罪人ですらない国民ですよ!」

「国民?ははは、あいつらはゴミ溜めに住むゴミでござる。ゴミを斬り捨ててなにが悪い?」

「なんてことを言うのですか!お兄様は貴族として!国を守る立場として!あってはならないことをしています!」

「はぁ……おまえはいつから拙者に意見できるようになった?」

 ぎろりと睨まれる。わたしはびくりと身体を震わせるが、引かない。だってわたしは、あの人たちと戦うって決めたから。

「……さすがのお兄様でも、ここまでのことは、今までしてこなかったはずです。4年前だって……正当防衛だったって……」

「はぁ?おまえ、本当に拙者の言葉を信用していたでござるか?」

「え?」

「正当防衛?そんなわけがなかろう。あの服屋の店主は拙者の崇高なデザインセンスを鼻で笑ったでござる。死んで当然でござろう?」

「そんな……まさか……じゃあ、あのときもお兄様の意思で人を?」

「当たり前だろう。それに此度の一件、原因はおまえにある、シューネ」

「わ、わたし?」

 原因はわたしにある?この人は、一体なにを言ってるの?

「そう、サンドバッグのおまえが拙者の元から消えたから、かわりにゴミを殺してストレス解消していたでござる」

「そんな……」

 わたしのせいで他の人が殺された?考えを巡らせたら、頭がぐらぐらしてきた。足元がふらつき、ペタンと崩れ落ちてしまう。

「なんだ?さっきまでの威勢はどうした?」

 マーダスお兄様は笑っていた。人を殺しているのに、笑っていた。
 わたしがなんとかしないと……戦うんだ……

「……お兄様は最低です。間違っています」

「あ?」

「今すぐ人殺しなんてやめてください!!」

「なんだと?」

 シャキン。マーダスお兄様が木刀を捨てて、真剣を抜いて近づいてくる。

「おまえ、調子にのってるな……」

「ひっ……」

「もう一度、調教してやるでござる」

「や、やめ……」

 わたしが声を出したときには、わたしの肩口が斬られていた。左肩から鮮血が散る。

「あぁぁ!?いやぁ!」

「ははは!おまえの悲鳴はいい!久しぶりでござる!」

 痛い、痛い……すごく……でも……

「……ふっふっ……ふぅー…………お兄様、人殺しをやめてください」

「あー?いつもは泣いて逃げるくせに、どうした?」

「……わたしを斬っても、わたしはもう逃げません」

「……つまらん……俺は!おまえが逃げてるときになー!背中を斬りつけるのがなにより楽しんだよ!このバカ女が!」

 ザシュ。そして、わたしはまた正面から斬りつけられた。

「あぁ!!」

 痛みで、自分の身体を抱きしめてうつむく。涙が頬を伝っていた。いつもなら、逃げていた。でも、気持ちを強く持って、顔を上げる。
 マーダスお兄様は暗い顔をして、わたしのことを見下していた。

 怖かった。恐ろしかった。もう、この人が人じゃなくて、恐ろしい黒い塊にしか見えなかった。
 でも、逃げない。ここで逃げたら、あの優しい人たちと約束したことが、嘘になってしまうから。
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