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第ニ章
ジュエルサーモンの親子丼
しおりを挟む気が付けば、夜の帳はすっかり下りて朝日が射し込んできていた。
「もう朝になったのか…。」
「時間を忘れてたくさんお話してしまいましたね。」
「少し早いけど朝ご飯の支度でもしようか。」
今日の朝食のメニューは決まっている。今の時間から仕込めばしっかりと味もしみこむだろう。
そして仕込みを始めるべく、厨房に向かおうとするとイリスに腕を掴まれた。
「イリス?」
「私にもお手伝いさせてください。」
「別に大丈夫だぞ?そんなにやることも多くないし。」
「私では邪魔になってしまうでしょうか……。」
目を潤ませ上目づかいでこちらを見てくるイリス。そんな目で見つめられては、断ることなんてできやしない。
「わ、わかった。それじゃあ、とりあえずこれに着替えてくれ。」
イリスに新品の調理服を手渡す。すると彼女はそれをぎゅっと大事そうに抱え、満面の笑みを浮かべる。
「うふふっ、ヒイラギさんとお揃いですね♪」
「それじゃあ更衣室で着替えたら厨房に来てくれ、俺は先に使うものを準備しておくから。」
「ここで着替えてもいいんですよ?」
「悪い冗談はよしてくれ。」
「ふふっ♪それは残念です。それじゃあ着替えてきますねっ。」
そしてルンルンとステップを踏んで更衣室へと向かうイリスだったが、途中でこちらを振り返ると悪戯な笑みを浮かべて言った。
「覗いても…いいんですよ?」
「誰がそんなことするか!!」
こちらをからかってイリスは着替えに行った。
「はぁ、まったく……そういうところが女神っぽくないんだよなぁ。」
相変わらずのイリスの態度に一つ大きくため息を吐きながら厨房に向かうと、朝食に使う物の準備を始めた。
そうしてある程度の準備を終えると、コックコートに身を包んだイリスが厨房に入ってきた。いつものひらひらした服とは一変し、なかなか新鮮だ。
「どうでしょうか?似合ってますか?」
見せつけるように体をくいっと捻りながら、こちらにそう問いかけた。
「あぁ、似合ってる。」
「ふふっ、そうですかそうですか。満足です。」
「よし、それじゃあさっそくやっていこうか。」
俺はイリスにあらかじめさっとお湯に通し、氷水に取った筋子を渡した。
「この膜につつまれてる卵をバラバラにほぐしてくれ。」
「わかりました。任せてください。」
「終わったら声をかけてくれ、俺は別なことやっとくから。」
イリスに筋子を任せて、俺は調味液を作ることにする。鍋に出汁、醤油、味醂、酒、砂糖を入れてアルコールを飛ばししっかりと冷ます。
「よし、後は冷ますだけで大丈夫だ。次は汁物を作ろう。」
ジュエルサーモンの中骨を一度フライパンで香ばしく焼いた後、水を張った鍋の中へ入れて出汁を引く。
「具はありきたりだけど、大根と人参とネギでいいな。」
大根と人参をイチョウ切りにし、鍋の中に入れる。ネギは小口切りにして水で洗って置いておく。
「味は塩と薄口醤油でシンプルに。」
ふつふつと沸いた出汁に塩と薄口醤油で味をつける。
「これでよし。」
あら汁を仕上げると、イリスから声がかかった。
「ヒイラギさん全部バラバラにしましたよ。」
「ありがとう。それじゃあここに全部入れてくれ。」
イリスがバラバラにしたジュエルサーモンの卵を調味液の中へと入れていく。上からラップを落として、しっかり浸かるようにして冷蔵庫へ入れておく。
「それじゃあ今からお刺身を切ってご飯の上に盛り付けて見せるから、真似して盛り付けてみてくれ。」
「わかりました。」
切り分けたジュエルサーモンのお刺身を丼に盛り付けたご飯の上に盛り付けていく。
「よし、こんな感じでいいかな。それじゃあイリスお願いしてもいいか?」
「やってみます。」
手本の盛り付けを見ながらイリスは盛り付けを始めた。
「こんな感じでいいですか?」
「あぁ、問題ないぞ。その調子で残りも頼む。」
自信がついたのか、二つ目から盛り付けのスピードが上がりどんどん手際よく盛り付けていった。
その間に俺はあら汁を盛り付けて、イリスの盛り付けが終わり次第食べられるように準備した。
「ヒイラギさん。終わりました。」
「うん、ありがとう。それじゃあ最後に上からこれをたっぷりかけてくれ。」
調味液に浸したイクラを手渡し、たっぷりのせてもらう。イリスがイクラをのせたあと、流れ作業で上からきざみ海苔をふりかけ、ジュエルサーモンの親子丼の完成だ。
「よし、これで朝食の完成だ。」
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