アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
47 / 200
第一章 龍の料理人

第46話

しおりを挟む
 そして市場で何とか良い魚を手に入れ、来た道を引き返していると……。

「のぉ、ミノル。ちといいかの?」

「ん?なんだ?」

「さっき買っていた魚……妾は他の店でも同じやつを見た気がするのじゃが、敢えてあの店の物を選んだ理由はなんじゃ?」

「簡単な理由だよ。前にカミルに釣った魚の処理の方法を教えたろ?あれをやっていたからだ。」

 カミルに簡単に理由を説明すると、彼女は納得したようでなるほど……と呟きながら頷いた。
 しかし、今の説明に納得できなかったヴェルとマームは首をかしげている。

「その処理……って首のとこと尻尾のとこに傷をつけることなの?」

「そう。正確には中骨……私達で言う背骨を断ち切る処理のことだな。」

 トントンと私は自分の首の後ろを軽く手で叩き、ヴェルに説明する。

「中骨を断ち切ることによって魚の血を抜くことができる。魚の生臭さの原因の一つが血だからな。」

「へぇ~……そうなんだ。」

 今回購入した魚はどれもしっかりと血抜きがされているようだから、身に血が回っている……なんてことはまずないだろう。

「ちなみにそれがという作業なのじゃぞヴェル。」

 自らの知識をひけらかすように、えっへんと威張りながらカミルはヴェルに言った。
 すると、ヴェルは何かに気が付いたようでジト目でカミルのことを見つめる。

「……それ、ミノル受け売りの知識でしょ?」

「ギクッ……そ、そんなことないのじゃ~。」

 ヴェルから視線を逸らすように明後日の方向を眺め、顔から一つ冷や汗を垂らしているカミル。もう仕草でバレバレなんだよな。
 少し苦笑いしながらカミルのことを見ていると……。

「ま、まぁそ、それは一つ置いといてじゃな……今日の飯の話でもしようではないか?」

 これ以上追求されることを拒んだらしいカミルは、別の話題を提案する。  

「それは名案ね。ミノル、今日はいっぱい魚買ってたけど……それで何の料理を作ってくれるの?」

「今日は……そうだな。まず一品は刺身の盛り合わせだな。」

「さしみ?」

 刺身という言葉にマームは首をかしげた。

「刺身っていうのはあの魚を食べやすいぐらいに切り分けた物のことだ。」

「おいしい?」

「あぁ、しっかり厳選した魚だからな。美味しいこと間違いなしだ。」

 本当は醤油があれば刺身を食べるには最適なんだが……。今日もライムルソースかな。
 頭の中で刺身に合わせるソースのことを考えていると、私の頭に一つある可能性が浮かんできた。

「……待てよ?ここは海街なんだよな。」

 海街で売れ残った魚の行き先はどこだ?廃棄?……いや、そんなもったいないことはしないだろう。だとすれば何かしらに再利用している可能性がある。となればもしかすると……。

「魚醤があるかもしれない。」

 魚醤とは、魚を発酵させて作る調味料のことで濃厚な旨味が特徴の調味料だ。見た目は完全に醤油だが、魚を発酵させているということもあって独特の匂いがする。
 だが、魚醤があれば作れる料理の幅が大きく広がる。この世界にはある程度香草もあるようだし、魚醤とそれらを使えばタイ料理だって作れるはずだ。
 
「みんな、ちょっと寄り道してもいいか?」

「お、なんじゃ?何かまた買いたいものでも出てきたのか?」

「あぁ、だが売っているかどうかわからない。一旦この市場の人に聞いてみるよ。」

 私は隅に隠れていた市場で働いている魔族の人に、この街で魚を発酵させて作る調味料はないか?……と尋ねてみた。すると、やはりあるらしいのだ。

 そしてその人から教えてもらった市場の店へと足を運ぶと……。

「うっ……これは。」

「く、臭いのじゃあ~!!」

 店の中に入っていないというのにこの悪臭……。臭いを表現するなら、完全に魚が腐っている臭いだ。強烈な悪臭にカミル達は鼻をつまんでいる。

 まぁ……中では本当に魚を腐らせているのだから当然といっては当然なんだが……それにしても臭い。

「こ、こんな臭いところにいったい何があるというのじゃ!?」

「それは買ってみてからのお楽しみ……ってことで。カミル達はここでちょっと待っててくれ。すぐに買ってくるよ。」

 カミル達を店の外で待たせて、私は一人中へと足を踏み入れる。店の扉を開けると、中には巨大な木の樽がいくつも並べてあって、その上に人がいた。

「すまない、魚を発酵させて作った調味料がほしいんだが……。」

「あ、今そっちにいきますね~。」

 巨大な木の樽の上で何か作業をしていた魔族の男性は梯子から降りてこちらへと駆け足でやって来た。

「お探しのものはこちらで間違いないですか?」

 そう言って私に差し出してきたのは瓶に入った朱色の液体……。間違いない。コレが魚醤だ。

「間違いなさそうだ。試しにちょっと味見とかってできたりしないか?」

「もちろんできますよ。多分ここでは臭いがキツくて味もなにもわからないと思うので……こちらにどうぞ?」

 そして私は別室へと案内された。

「ふぅ、想像はしていたがやはり凄い臭いだな。」

「初めて来た人はそのせいで皆店の前で引き返していっちゃうんですけどね。まま……こちらをどうぞ。」

 味見用に差し出されたそれを受け取り、私はまず匂いを嗅いだ。

「……意外と匂いはしない。」

「そうでしょう?そちらは青魚を原料にした比較的臭いの少ないやつなんです。でも味は濃厚ですよ?」

 ペロッ……と舌で舐めてみると濃い塩味と濃厚な魚の旨味が口の中に広がった。そして後から鼻を抜ける青魚の匂い……。

「うん、思っていた通りの味だ。」

「他にもいろんなのがあるんですよ。例えば……こんなのなんてどうです?」

 そして私は勧められるがまま色んな種類の魚醤を味見した結果、最も癖が少なかった青魚で作られた魚醤を購入したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

処理中です...