アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第一章 龍の料理人

第47話

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 そして魚醤を購入し、店から出てくると……

「ようやく戻ってきたのじゃ!!」

「ミノル、ここ臭い。はやく違うとこ行く。」

 待ちわびたようにカミルとマームの二人が私の方に近寄ってきて手を引いた。
 一方ヴェルは涼しい顔をしている。このぐらいの臭いには耐性があるのだろうか?

「ヴェルは大丈夫なのか?」

「ん~?私?私は大丈夫。風の流れを操って臭いが来ないようにしてるから。」

 あぁ……そういうことか。確かにヴェルならば不可能じゃないことだ。というか、ヴェルにじゃないと不可能だろう。

「なっ……ヴェル!!お主ずるいぞ、妾にも臭いが来ないようにするのじゃ!!」

「カミル、逆に考える。ヴェルにくっつけば臭い来ない。」

「おぉ!!それは名案じゃな。」

 にんまりと悪い笑みを浮かべたカミルは素早くヴェルの腕を取りぴっとりと密着する。

「ちょっと!!暑苦しいんだけど!?」

「そうか?妾は感じぬのぉ~むしろそよ風が吹いておって気持ちが良いぐらいじゃ。」

 ヴェルは必死に腕を振りほどこうとするが、力ではカミルにまったく敵わないらしい。びくともしていない。そこにマームが追い討ちをかける。

「私もくっつく……えいっ!」

 カミルがくっついていない方のヴェルの手にマームがぴっとりと密着する。

「だ~っ!!なんなのよもう!!」

「快適なのじゃ~。」

「快適……快適。」

 うざったそうにしているヴェルを尻目に、臭いから解放されたカミルとマームの二人はほくほくと幸せそうな表情を浮かべている。

「も~……ミノルっ!!後は何処か寄るところあるの!?」

「ん~、そうだな。後は特に……大丈夫だ。」

「じゃあもう帰るわよ!!」

 そしてヴェルはカミルとマームのことを引きずって街の出口へと歩いていく。

「ふっ……ヴェルに余計なことを言わせてしまったか。」

 にしても風を操って臭いを来ないように……か。それぐらいなら私にもできるのではないだろうか?

「抑えている風をちょっと引き出して……辺りに風の流れを作るイメージ。」

 いつも最大限抑えている風を少し解放し、私の周りに流れを作るイメージを頭で思い描く。
 すると、そよ風が私の周りを包み始めた。

「お、意外とできる。」

 イメージ通りの結果に満足し、首を大きく縦に振っていると……。

「お前はさっきの龍と違って風の使い方が優しいんだナ。」

「!?」

 突然目の前で声がした。思わず目を開けて、前を向くとそこにはふわふわと宙に浮く小人がいた。
 真っ白な肌に緑色の短髪……そしてその小人の周りには緑色の風のようなものがくるくると渦巻いている。

「だ、誰なんだ?」

「あ、オイラ?オイラはシルフ。風を司る偉~い精霊なんだゾ?」

 シルフと名乗ったその小さな精霊は私の顔の前でえっへんと大きく胸を張る。

「なんでまた……そんな偉い精霊が私の前に?」

「ん~、居心地が良かったから……カナ?何でか知らないけどお前の周りは過ごしやすいんだよナ~。」

 シルフはくるくると私の周りを飛び回ると、私の頭の上に寝そべった。

「ここが一番いいナ。おっしゃ、行くゾ~人間っ!!」

 頭の上でシルフは、意気揚々とヴェル達が歩いていった方を指差す。

「あぁ、わかって……るっ!?」

 シルフが私の髪を掴みぐいっと前に引っ張ると、その瞬間私の背中を強い追い風が押した。
 この感覚は前にも……ヴェルに血をもらって初めて歩いたときの感覚に似ている。

「オイ、人間っ踏ん張るナッ!!前に進まないゾ!!」

「いやいやいやっ!!踏ん張らなかったら吹き飛ぶんだが!?」

「だからオイラが補助してやるって……ほら歩ケッ!!」

 ぐいっと更にシルフが力強く髪を前に引っ張ると、後ろから吹く風が更に強くなった。

「~~~ッ!!わかった、わかったよ!!」

 踏ん張りきれないと理解した私は思い切り前に一歩踏み出した。すると体が一気に前へと押し出され、とんでもない速度まで加速する。

「その調子ダ~!!足を止めるナヨ~?にししし~。」

 風に背中を押されながら前に、前にと走っていると前方にヴェル達の姿が見えてきた。相変わらずカミルとマームはヴェルの腕にしがみついている。

「ちょ……もういいんじゃないか!?」

「まだまだァ~!!あの龍なんかにオイラは負けね~ゼ!!」

 そうシルフが言った後、ふわり……と体が軽くなった。それと共に私を押す風が更に勢いを増す。すると、風に巻き上げられる木の葉のように私の体が宙に浮いた。地に足がつかなくなってもヴェル達との距離はぐんぐん縮んでいく。

「もういい加減に離しなさいって!!もぅっ!!……ってあらっ?」

「誰か止めてくれ~っ!!」

 こちらをヴェルが振り向いた瞬間、私はその隣を通過してしまう。

「にししし~……追い越してやったゼ。」

 私の頭の上では勝ち誇ったようにシルフが笑みを浮かべているようだ。笑い声が聞こえてくる。

 一方その頃……ものすごいスピードで走り去ったミノルを見て、ヴェルはにんまりと口角を歪めていた。

「あらあら……競争かしら~?良いじゃない……付き合ってあげるわ。ふふふっ。」

 風の力を使ってカミルとマームを引き剥がし、ヴェルは軽く地面を蹴った。すると、ヴェルの後方に砂ぼこりが舞い上がる。それをカミルとマームはモロに浴びてしまった。

「ゲホッゲホッ!!ヴェル!!何をする……って居らんのじゃ!?」

「ケホッ……あぅ、目に何か入った……。」

 二人を置き去りにしたヴェルは一気にミノルとの距離を詰める。
 そしてあっという間に横に並んだ。

「ふふふっ、なかなか風を使いこなせてるじゃないミノル?」

「違う!!使ってるのは頭の上にいるやつだ!!」

「え?頭の上?」

 ヴェルが視線を私の頭の上に向けると……。

「にししし~、オッス!!オイラはシルフだゼ?風迅龍サン?」

「なるほどねぇ~?精霊が悪さしてるってワケか。ならこいつを……。」

 ヴェルは走りながら私の頭に手を伸ばす……が。

「おっと……危ねぇナ。オイラを捕まえたいんだったら……この人間に追い付いてからにしナッ!!」

「ちょちょちょッ!!まだ速くなるのかよ!?」

 並走していたヴェルを一気に追い越し、街の出口へと一直線に進まされる。

「私を挑発するなんていい度胸じゃない……。でもその挑発、乗ってあげるわ。」

 街の出口が目前に迫った次の瞬間……私の耳を激しい耳鳴りが襲った。

「にししし~あっちも本気出してきたナ。でも負けね……」

「はい、捕まえた。私の勝ち~。」

 耳鳴りがしたと思ったら、今度は私はヴェルに正面から受け止められていた。
 どうやらシルフとヴェルの勝負はヴェルの勝利で決着がついたようだ。

 ……これでようやく解放される。
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