アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第一章 龍の料理人

第48話

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 私のことを抱きとめながら、ヴェルは頭の上にいたシルフを手で鷲掴みにする。

「ふんっ、私に勝負を挑むなんて一万年早いわよ。」

「くぅ~……負けちまったゼ。勝てると思ったんだけどナ~。」

 ヴェルに頭を鷲掴みにされながらもシルフは悔しそうにつぶやいた。

「まったくなんでまたあんたみたいな精霊がこんなとこにいんのよ。」

「オイラ?オイラはこの人間の周りが居心地が良かったから寄ってきただけだゾ?あんたと違って風の使い方も優しいしナッ!!。」

「それ遠回しに私の風の使い方が雑って言ってるわよね!?あんまり変なこと喋ると握りつぶしちゃうわよ~?」

「いだだだだだっ!?お、オイ人間ぼぅっと見てないで助けてくれヨ~!!」

 笑顔のまま額に青筋を浮かべるヴェルは、シルフを鷲掴みにしている手にさらに力を籠める。するとシルフの頭蓋骨がミシミシと嫌な悲鳴を上げ始める。
 そしてどうすることもできずにジタバタともがくシルフは私に助けを求めてきた。

「ま、まぁ一回落ち着けってヴェル。いったんこの子のことはカミルたちが来てから話し合おう……なっ?」

「む~……もぅ、しょうがないわね。」

 私がヴェルをなだめると、彼女はぷっくりと頬を膨らませながらもシルフを離してあげた。

「あいたたた……。ひどい目に遭ったゾ。」

 ぽてっと可愛い音を立てながら地面に落下し、しりもちをつくシルフ。

「お前も、喧嘩を売る相手は選んだ方がいいぞ?次は私でも止められないかもしれないからな。」

 しりもちをついたシルフを両手で抱え上げ、顔の前まで持ってきた私はそう注意する。

「う~……わかった、わかった。流石にもう懲りたゾ。」

 私の手の上でしょんぼりとショボくれながら、シルフは深く反省しているようだ。

「それなら良し。」

 私が反省している様子のシルフを見て一つ頷いていると……ヴェルがシルフのことをまじまじと眺めながらポツリと呟いた。

「にしても私精霊なんて久しぶりに見たわ。しかもあんた……それなりに強い力をもった精霊でしょ?」

「……そういえばさっき初めて会ったときに、自分で偉い精霊……って言ってたな。」

「そのと~り、オイラは四大精霊の一人なんだゾ!!」

「四大精霊?」

 聞いたことのない言葉に首をかしげていると、ヴェルがその説明をしてくれた。

「四大精霊っていうのは、エルフを除いた精霊族……まぁつまりこのちっこい奴らの中でも強い力を持った四匹の精霊のことよ。」

「なるほどな。」

 ヴェルの説明のお陰で四大精霊がなんたるか……を理解した私は、改めてシルフの方を向いて問いかけた。

「で?なんでまたそんな四大精霊がこんなとこにいるんだ?」

「それさっきも言ったゾ!!だから……その……お前の周りが居心地がいいんだナ……。」

 さっきヴェルに問い詰められて時とは違い、少し顔を赤らめながらシルフは言った。

「心地いい?」

「うん……何て言うかその……安心?するんだナ。」

 シルフはポリポリ……と赤くなった頬を指で掻きながら言った。

「そ、それ以上聞くナッ!!な、何か急に恥ずかしくなってきたゾ……。」

「あらあら、顔真っ赤にしちゃって~。生意気な性格かと思ったけど、案外可愛いとこあるじゃない?」

 顔を林檎のように真っ赤にしているシルフの頬を、ヴェルはツンツンと指でつつきながらからかっている。
 そんなやり取りをしていると、街の方からカミルとマームの二人がこちらに近づいてくる姿が見えてきた。

「はぁ~やっと追い付いたのじゃ~。まったくミノルといいヴェルといい急に走り出したから驚いたのじゃ。」

「急ぐの疲れた。」

 ひどくくたびれた様子の二人……。今日はいろいろと振り回されているから仕方がないかもしれない。
 そして近くに寄ってきた二人は、私の手の平の上にいるシルフを目にした。

「お?なんじゃ?そのちっこいのは……もしや精霊か?」

「あぁ、四大精霊のシルフっていう名前らしい。何でかは知らないが……変に懐かれたようでな。」

「ち、違うゾ!?な、懐いたんじゃなく……この人間の近くがその……居心地が良いだけなんだゾ!!」

「……それ懐くのと何が違う?」

「うっ……そ、それは……。」

 マームの純粋な質問にシルフは答えが詰まる。そしてシルフが答えられずにいると、カミルが話を切り出した。

「まぁ、懐く懐かないはどうでも良いとしてじゃな……問題は何で精霊のお主がここにおるのじゃ?妾の記憶が正しければ、お主らは普段はエルフの統治する森に暮らしておるはずじゃが?」

「そ、それはそうなんだけどナ……。」

 カミルの質問にシルフはもじもじとしてなかなか答えられずにいる。
 焦れったくなった私は、シルフに一つカマをかけてみることにした。

「……まさか迷……」

「ちっ……違うんだゾ!?お、オイラは迷子なんかじゃな……あっ……。」

 少しカマをかけると、必死に言い訳を始めたシルフ。その一部始終を見ていた全員が大きく頷いた。

「迷子だな。」

「迷子じゃな。」

「迷子ね。」

「迷子……。」

「あぅ……うぅ~……皆してそ、そんなに迷子って言わなくても良いだロ。」

 私達の視線が痛かったのか、シルフは私の手の上で頭を抱えて縮こまってしまう。

「まぁ、迷子なら迷子で後でそのエルフの森に連れていってやればいいんじゃないか?」

「そうじゃな。それがよかろう。」

 そうカミルと打ち合わせをしていると……。

 くぅ~~~っ……。 

 というなんとも可愛い音が、私の手の上で縮こまるシルフから聞こえた。

「なんだ、お腹減ってるのか?」

「……コクっ。」

 私の問いかけにシルフは顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。

「ふむ、それなら先に腹ごしらえをしてからエルフの森に行くか。カミル達もちょうどお腹減ってきた頃だろ?」

「うむ!!妾の腹の虫も悲鳴を上げる寸前なのじゃ!!」

「なら決まりだな。シルフもそれでいいか?」

 シルフはコクリと頷く。

「そうと決まれば帰るのじゃ~。ほれ、ミノル行くぞ~。」

 いつの間にか龍の姿に戻っていたカミルに私は抱えられる。

「あっ!!ずるいわよカミルッ!!帰りも私が抱えて帰ろうと思ってたのにッ!!」

「カミルにも抜け駆けされた……。次は私の番。」

 カミルに抱えられながらの空中飛行にひどく安心感を覚えたのはヴェルには内緒だ。
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